3: 洋楽の選択から教室内での実践まで

3-1: 洋楽の選定

 担当のクラスには、学習レベルの差や雰囲気や求めるニーズの違いなど、担当者のみが授業の経緯の中で知りうる考慮すべき事情が多い。授業で使用する洋楽の選曲については、新たな事情を考慮して、準備していた曲をやめ、代わりに学生のアンケートなどで流行の曲を選んで準備することもあり得るが、教師自身の嗜好も選曲の重要な決定要因となることを忘れてはならない。Graham (1992)は、次のように述べている: The type of music that you select to present to your class will depend on the students themselves and your own musical background and experience. In general, I think it's a good idea to stick with music that you yourself love and feel comfortable with. (p. 44)

しかし、この基準だけでは教材としてふさわしいものが選ばれる保証はない。個人的嗜好を優先させるだけでは、特定のジャンルに偏ったものばかりになり、語彙、音声的にも教材として不適切なものになりかねない。以下に示した基準を考慮の上、選定すべきである。

早すぎない。明確に発音された聞き取りやすい曲

 言うまでもなく教材として使用するのが目的なので、聞き取り能力の習得を促進するものでなければならない。また、まったく聞き取れない曲は、学習者の意欲を削ぐだけでなく、自信を喪失させてしまう。そのためには明瞭な発音で歌われていることが望ましい。

 また、洋楽の歌詞は、日常の会話の速度よりずっと早く発音されるものから、かなりゆっくり発音されるものまで、多種多様である。教育的目的や学習者のレベルに合わせて選曲するには、日頃から教師の方で多くの洋楽に接し、新曲を聞いた時にも、自分の担当するどのクラスに適切であるかという意識を持つことが大切である。

不適切な表現が含まれていない曲

 洋楽の歌詞は、常に文法的であるとは限らず、歌としての美しさが優先されることがよくある。また歌詞の内容も論理的で明確な内容のものから主観的で印象的かつ抽象的なものも多く、いったい何を伝えようとしているか、不明なものも少なくない。同様に語彙や表現についても日常ではあまり使用しない大げさな表現や俗語や卑語も出てくるものもあり、曲の選定には細心の注意を払わなければならない。

 一般に教育上不適切と考えられる表現が出てくる曲は避けた方が無難である。音楽は記憶に残りやすく、不適切な表現も流すだけではすまされないことがある。いつどこでふと出てしまうか予測できないものである。幼児向けの曲などはその点安心できるが、ロックなどで人を中傷した表現が使われていたり、"He don't ..."や "He ain't ..."など学習者には使ってほしくない表現が頻出するものが少なくない。この点に関してGraham (1992)は、次のように述べている: While the song themselves may be superb, the lyrics can be so ungrammatical that they would only add to the confusion of the new language learner. For example, "I aint' gonna work on Maggies' farm no more." (p. 43)

ここで指摘したいのは、"the new language learner"という記述であり、英語の基本を学んでから入学してくる大学生については、事情をしっかりと説明すれば混乱することはないものと考えられるが、知的財産として洋楽を持ち歌にしてあげるからには、やはり適切な内容を適切な語彙や文法で書いた歌詞の曲を選びたいものである。

 

教室内の使用に適切な長さの曲 

 大学の講義のように90分もあれば別であるが、中学・高校のように50分程度の授業では、あまりにも長い曲は適切ではない。そのような場合は部分的に使用したり、何度かの授業に分けて分割して行う方法も考えらる。筆者の大学の授業では授業の初めの15分以内に聞き取りから合唱まで終らせようとしている。

 

筆者が授業で実際に使用している洋楽 

  以上の3点の基準を考えると、ヘビメタやラップよりもオールデイーズやポップスがふさわしく、街角のBGMでよく耳にする、時代は古いもののスタンダード曲として今もなお耳にする、The Beatles、Elvis Presley、Carpenters、ABBA、Simon & Garfunkelなどの曲が望ましい。以下の表は、筆者が選定し、毎年のように使用している洋楽のリストである。

 

 

表:筆者が授業で使用する洋楽のリスト

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01: Eye of the tiger  11: Y.M.C.A.  21: Love me tender

02: Dancing queen  12: In the navy  22: Can't help falling in love

03: Yesterday once more  13: Sukiyaki  23: Mr. Lonely

04: Believe  14: Stand by me  24: El Condora Pasa

05: Bridge over troubled water  15: Yesterday  25: Top of the world

06: My heart will go on  16: Take me home country road 26: Last Christmas

07: Crazy for you  17: Unchained melody  27: Tears in heaven

08: For your eyes only  18: Candle in the wind  28: What a wonderful world

09: Go west  19: Pretty woman  29: That's what friends are for

10: New York city boy  20: Imagine  30: We are the world

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 このリストは、国立大学の通年の英語授業のシラバスに掲示しているもので、毎時間1曲ずつ使用し、全部で30曲を用意している。授業ですぐ使用できるように120分のオーデイオテープに30曲全部収録したものを用意している。クリスマスの頃に26の曲が使用するなど、配列には季節のことを考慮に入れている。

 このリストの曲は、過去12年間の授業の積み重ねで、学生からのフィードバックをもとに何度も入れ換えを行ってきたものである。Murphy (1985)は、学習者自身を理解し、最新ポップスについて情報を得る方法として、好きなアーテイスト、曲名などの調査を行うことを奨励している。このリストの中には、筆者の授業の中で課題として授業で扱っている曲以外に好きな曲を選んで歌詞と録音テープを提出させる

課題を出したことがあり、7、19、23、27、28の5曲は、その際に追加されたものである。

 

3-2. 洋楽の聞き取りシートの作成

 授業での配布物は、受講生だけではなく、友人、他の教官、親の目にまで触れる可能性があり、十分適切で誤りなどないように気をつけなければならない。また、教師の個性や感性が反映されるものであるので、学習者を思い遣り、わかりやすく、ためになる情報を盛り込み、欠席した学習者が後日見てもわかるものが理想である。以下の点に注意してシートをあらかじめ1年分ぐらい作成し、毎回の授業での、フィードバックをもとに直していくとよい。

 

STEP 1: LISTENING FOR COMPREHENSION(内容把握)

 歌詞カードを見ないように指示し、全神経を耳に集中させ、聞かせる。この際おおまかな内容が理解できるように、あらかじめ設問を設け、聞き取りのポイントを学習者に定めさせる。このプロセスを一度踏んだ上で次の音声認識に移行するとよい。

 APPENDIX Iにある"Bridge Over Troubled Water"の例を挙げれば、内容把握のタスクは、以下のような"question & answer"(質疑応答)、"true or false"(内容真偽)、"sentence completion"(文完成)などがあるが、時間の関係や学習者の負担などから項目はひとつに絞った方がよいだろう。歌詞の一部分に言及したものではなく、おおかまな歌詞全体のテーマやさび(refrain)の部分に表れやすい歌詞全体の主旨を問うように作ることが理想である。

 

"question & answer"(質疑応答)

 Listen to the song and choose the best answer to the following question.

 

Question: What will the singer do if his friend is in trouble?

A: He will encourage his friend to help himself.

B: He will advise his friend to calm down.

C: He will try to comfort his friend.

 

"true or false"(内容真偽)

 Listen to the song and check "T" if the following statement is true about the song; choose "F" if it is not.

Statement: The singer's friend became successful after a hard period of time. (T / F)

 

"sentence completion"(文完成)

 Listen to the song and choose the best phrase to complete the following sentence.

   Sentence: The singer is ready to -------.

       A: comfort him when his friend is in trouble

        B: tell him how to overcome his trouble

        C: persude him to change his course of life

 

STEP 2: LISTENING FOR PERCEPTION(音声認識)

 内容把握の後には、音声変化が豊富な洋楽の特徴を活かし、音声認識のタスクを行う。一般的なタスクとしては、空欄穴埋め、語彙選択、相違箇所の指摘、並べ替えなどがあるが、以下、空欄穴埋め、語彙選択を作り方を説明する。

 

レベルに合わせた空欄と選択

曲全体や一定の長さをデイクテーションする方法は有効であるが、何度もテープを再生せねばならず1、2回しか再生できない授業時間の制限からは、簡易化した空欄穴埋めや語を選択する形式の方が適切であると考える。全文デイクテーションなどは課題として出したり、まとまった時間が取れた時に行う方がよいかも知れない。

また、空欄や選択の箇所はレベルが上がるほど増やすとよい。低いレベルでは、いまどの部分を歌っているかを把握することさせ困難なこともあるので。すべて選択にした方がよい。選択する語彙もスペルが難解で書くの時間がかかるものはさけ、日常生活での使用頻度の高いものを選ぶようにする。

 

さびの部分に空欄

さびの部分は、繰り返し聞く機会があるので、その分難しい部分を選び、選択よりも空欄にして聞き取った単語またはフレーズを書き入れるようにする。レベルに応じて、単語のスベルの一部を以下のようにあらかじめ書き入れたものを提示するのもよい。

例1)There are people dying and it's time to (2: l________ ) a hand ("We are the Wolrd")

例2)We can't go on (4: p________ing) day by day

 

選択項目

 さびの部分に対して、他の部分は通常一度しか聞くことができないので、それだけ答え方が容易な方法にしなければならない。語彙選択の形式にする場合は、なるべく学習効果があるように、ミニマルペア(minimal pair)、同音異義語(homonym)や音声的に紛らわしい組み合わせを考える。

 例3)We are the ones to make a (2: better / brighter ) day ("We are the Wolrd")

 例4)When (1: a tear / tears / he tears ) ... ("Bridge Over Troubled Water")

 例5)I will (6: call on / count on / comfort ) you. ("Bridge Over Troubled Water")

適切な間隔

空欄や選択を作る箇所の間隔は、学習者のレベルや曲を歌う早さによっても異なるが、最低5語は間隔を開け、一行に2か所以上は作らない方がよいだろう。シートを作成する際に、実際に自分自身で書き取りを行ってみたり、タスク中に学習者の手元をよく観察することが大切である。

 

3-3. テープの再生と解答

再生速度 

 洋楽の中には、早口のため母語話者にも

聞き取れないものもある。学習者のレベルの応じて速度調整機能が付いた再生機で速度を調整することも可能である。この点、CDやMDよりも従来のオーデイオテープの方が便利であるが、速度を落としても洋楽独自の音声変化のために、何度ゆっくり再生しても聞き取れない場合もある。それが歌詞の一部であれば、空欄などをそこに作らないことで問題はないが、歌詞全体がそうである場合は、教師が一度聞かせた後で、ゆっくりと音読してあげることも考えられる。

 

再生回数 

 Kanel (1995)は、全体を少なくとも2度再生する必要があると主張しているが、現実には洋楽専用のクラスではない限り、1度しか再生できない場合があるので、一度聞いただけでタスクが完成できるように、空欄や語彙選択も無理がないものを作成しなければならない。また、全体を再生せずに、特定の難解部分を2、3度聞かせることは必要かも知れない。

 

停止

 基本的には一度再生させたら、曲の終りまでそのまま聞かせるだが、書き取りの時間を与えたり、学習者の様子から、どの部分が歌われているのかがわからなく混乱していることがわかれば、即座に停止し、巻き戻してやり再生し直さねばならない場合も考えられる。よく学生の手元を観察する必要がある。

 

ボリューム調整

 ボリュームで一番気をつけなくてはならないことは、学習者への配慮よりも現実には他の教室や廊下への音の漏れである。筆者は日米の大学において、何度も再生中に他の教員から授業中または授業後に激しく抗議された経験を持つ。それを避けるためには、ヘッドホンを使うか、ない場合はボリュームを下げて耳をそばたてるよう聞くように指示する。また、上級者の場合は、故意的にボリュームを下げるか、テープをかけながら手を叩いたり呼び鈴を鳴らすなどの雑音を入れることで、目標音声により集中する訓練を取り入れることもある。

 

解答

時間の配分を考慮し、この部分はなるべく簡潔に時間をかけないようにしたい。しかし、テストではなくタスクとして音声認識を高めようとしているので、解答に至るプロセスをしっかりと説明したいところである。一般的には、まず全体の解答を教師が口頭で上から下まで全部言ってから必要に応じて解説するようにしたい。時間の余裕があれば、再び再生して、空欄や選択の部分が流れた時点で停止し解答する。必要な解説や聞き取りの注意点を教えるようにしたい。また、教師が一方的に解答するよりも、何人かの生徒・学生を充てたり、選択の場合は、全体に挙手させるなどして、ある程度の緊張感を与えておかないと、真剣に聞き取ろうとしない者が現れることがある。状況に応じて判断しなければならない。

 

 

3-4. 語彙、文法、音声解説

歌詞の和訳

 空欄や語句選択の解答後、歌詞の全部または一部を日本語に訳すこともできる。ただし、これには膨大な時間を要するため、洋楽専用の授業でない限り省略するかあらかじめ和訳をハンドアウトに載せておくかタスク後に別紙で配布するとよい。いい表現などについては誰かを指名して和訳させたり、和訳を逆に英訳させ、歌詞と比較し添削するタスクも可能である。

 

重要表現や文法

時間の許す限り歌詞の中の表現が日常生活でどのくらい使用されるものか、またどういう時に使える表現であるか説明するようにしたい。文法的な知識を確認したり特定の文法事項の復習に活用できる例も多い。

 

例えば、以下はCarpentersの"Yesterday Once More"の一節の語彙選択である。

 

 

It was songs of love that I would sing to (8: them / then / there)

 

これは歌詞を実際に聞かなくても"then"と分かるが、その理由をきちんと説明できる学習者は以外に少ないかも知れない。そのため選択にしてもよい箇所と言える。実際聞いて見ると"them" "then"は一音節のミニマルペアであるために聞き分けは困難である。このような場合は、文法的な知識を活かして決定することが実際の英語使用場面ではよくあることである。また、次の例はCeline Dionの"My Hear Will Go On"の一部である。

 

Far across the (4: distance / distances) and (5: space / spaces) between us.

 

それぞれ"distance"と"spaces"が正解であるが、前の例のように聞く前から選択するのは難しい。両者とも可算名詞にも不可算名詞としても使われることもあるので文脈で決定されることになる。筆者は実際に何人かの英語のネイテイヴスピーカーになぜ"distance"と"spaces"という単複の違いが生じるか聞いたことがあるが答えに窮する人が多かった。

文法的な面についても学校文法で非文法的とされる文が含まれる歌詞は使用しない方がいいと思われるが、教育的な配慮からむしろそれを指摘する作業を教室内で行う場合も可能である。例えば、サイモン&ガーファンクルの"Bridge Over Troubled Water"(明日にかける橋)に次の一節がある:

 

       When you're weary, feeling small.

      When tears are in your eyes, I will dry them all.

      I'm on your side, oh, when times get rough.

      And friends just can't be found

      Like a Bridge Over Troubled Water I will lay me down.

      Like a Bridge Over Troubled Water I will lay me down.

 

この中で下線部の文は明らかに非文であり、本来なら"me"は再帰代名詞の"myself"にしなければならないところである。これは教師よりも学生に正しい形に書き改めるよう指示すべきである。また同時になぜ非文を使用しているのかを説明する必要がある。これは作詞者の教養が原因であるのではなく、あくまでも音楽性に基づく表現であり、単に歌いやすさからこうなったと説明するのが妥当と考えられる。このさび部分は"I will lay myself down."とすると演奏に合わなくなり、早口で言わなくてはならず、合わない。歌詞がありそれに曲を付けたのか、その反対なのかは定かではないが、この部分に関しては曲の方はとてもいい連結となっている部分であり、やはり音学性が文法性より優先されたと考えるのが妥当ではなかろうか。歌詞ではよくあることだということをここで紹介することは重要であり、歌詞をそのまま真似て使用してはいけないと注意する必要がある。

 

音声変化

洋楽を使用したリスニングの意義は、語彙文法よりもその音声にある。(Brown & Helgesen, 1986)調音、ストレス、イントネーション、リダクション、コントラクションなどの音声学的知識を学習者に実際に音を聞かせながら例示することが可能である。特に、リダクションとコントラクションは、洋楽には多く発生し、中でもカントリーは豊富である。(Griffee, 1986: 20) そのために、特定箇所を何度も再生することも必要である。

歌手の個人的癖や曲の特質からかなり変わった発音を聞くことがあり、歌詞カードを見比べても納得できない場合もある。例えば、次の歌詞はWe Are The Worldの一節でシンデイー・ローパーが歌う"Let's realize that a change will only come."部分は、何度聞いても歌詞の通りには聞こえないとほとんどの学生は言う。

また、ある曲の一部が日本語のように聞こえるものがある。これを専門に取扱ったテレビ番組がTBSの金曜日に放映されるタモリ倶楽部の「空耳アワー」である。視聴者から番組に送られた英語に限らず海外の音楽で日本語のように聞こえる部分をビデオクリップにして1分程度のドラマ仕立てにして紹介している。例えば以下の例は筆者が授業で実際に使用したものである。筆者は収録した番組の中から面白そうなものを授業で使うことがあるが、学生の反応はたいへんよい。番組自体は教育的とは言えないものの、このコーナーについては、音声の不思議を体感させられ、重宝する。

 

オリジナル 空耳

 

(1) She's shaking like dashboard doll. 人生ゲーム投げ出しもうた

(2) I'm not good for better. 何を押すと出る?

(3) should've been, could've been, would've been 白べん、黒べん、和田べん

 

番組ではただ「不思議ですねえ」を連発するだけで音声学的な説明は一切ない。教師としては使用するからには何らかの音声学的説明を加え差を見せつけたいところである。ここで特記しておきたいのは、ビデオクリップの中でオリジナルがスーパーで画面上の提示されるのだが、正確でない場合がある。例えば、上記の(3)は放送当時(平成10年)では、"sould of being, could of being, would of being"と表示されていた。"should"のスペルぐらいは見てすぐわかるが、"of"についてはこのような文法もあるのかを流してしまった視聴者も多かったのではないか。これには筆者も一瞬当惑し、番組に問い合わせて確認したわけではないが、これは助動詞と"being"の間には"have"あり得ないし、"of"に近い音として"-ve"という短縮形であると考え、"being"は"been"の間違いであるに違いないと当時授業で説明した。。それが平成13年の年末の特別番組で同コーナーの過去の傑作集で(3)のビデオクリップが流れた時には、私が指摘したように訂正されていた。

 

3-5. 合唱

全員で合唱

音声的説明はただ納得させるだけでなく、実際に音声器官を使って体感させることが大切である。そのために全員き起立させ、教師自ら先陣を切ってテープに合わせて歌う。音量は聞き取りに使用した時とほぼ同じでよい。なるべく歌詞カードに頼らず顔を上げて歌うように指示する。そのためにOHCなどでシートを提示し、それを見ながら歌うように指示する。また、筆者は曲がある時はDVDのカラオケソフトを利用している。

 

教師に求められる姿勢

この際に注意しなければならないのは、教師自身が恥ずかしそうにしたりためらった様子を絶対に見せてはならないことである。Brown & Helegesen (1986)は、教師自身のためらいについて、以下のように述べている:

 

When talking to other teachers, we often hear "But I'm not a good singer!" None of the techniques suggested require singing and we have, at times, used them without having the students sing. One of us can get by at karaoke, the other is tone deaf. But usually we sing and the students do too. After all, that's what songs are meant for. (p.10)

 

"None of the techniques suggested require singing"の部分は、彼らが論文し紹介している洋楽を使用した活動に限定される判断であって、ここで筆者が論じている洋楽を活用した活動では、合唱することを重視している。教師は、堂々と毅然とした態度で楽しそうに学生の方を見ながら大きな声で歌い、できれば歌いながら教室の中を一周、二周するとよい。そうすると歌っていなかった学生が教師が近づいてくると歌い出すようになる。ただし、せかしたり、無理じいすることはすることは避けるようにしたい。Griffee (1986)は、学習者は、まず歌い出す勇気を持つのに時間が要るので、あせらせたり、非難してはならないと主張している。

教師は歌わなければならない。教師がためらえば、洋楽に限らず、学習者は学習項目として意識しなくなる。教師が授業中に英語をまったく話さない姿勢は、同時に英語は話さなくてもいいものであるというメッセージに受け止められているのではないだろうか。

 

3-6. シート使用しない聞き取りタスク

歌詞カードが入手できない、またはインターネット上から入手したり、自ら聞き取ってトランスクリプトを作成しているが、間に合わない、不明箇所が解決されていない、などの諸事情で聞き取り用のシートが準備できない時には、以下のタスクが好都合である。ここで紹介する4つのタスクは、洋楽に限らず、ニュース、洋画、テレビドラマなどあらゆるテクストにも応用できる。

特定語彙の頻度カウント(word or phrase counting)

Dissosway (1986)が提唱した方法で、単数形・複数形の双方が現れる楽曲を聞かせ、それぞれの形態が何度出てきたかを数えさせたり、特定の語彙項目、例えば"love"が何度聞こえたかを数えさせるものである。タスクを単純化し、聞き取りのポイントを絞ることで、闇のように不可解な歌詞の中に一点の光明を見い出そうとするもので、歌詞の聞き取りに対する心理的抵抗を緩和すると考えられが、具体的な授業の進行形態については、触れられていない。

特定語彙の聞き取り(focused listening)

これは特定の品詞、統語機能、ジャンルの語句を書き取る方法で、これまで筆者が何度も改良を続けてきたタスクである。リスニングにおいては、学習者の左脳にある聴覚中枢からウエルニッケ領域に伝えられた音声は、意味ある単位に識別し区分する"segmentation" (Richards, 1987: 162)が意識、無意識のうちの行われる。区分されたされたそれぞれの単位には、語彙的、統語的ラベル化のいずれかが、または両方がほぼ同時に行われる。個々の要素の語彙的なラベリング(lexical labeling)だけでは、部分的にメッセージは理解できても全体を理解する正確さに欠ける。一方、個々の要素の統語的ラベル化 (structural labeling)だけでも構造が分かるだけでは意味は不明である。個々の要素は、その語彙的な意味と他の語との統語関係がほぼ同時に理解されることで記号解読作業が完了する。特定語彙の聞き取り作業は、そのプロセスを促進する一助になると考えられ、以下3つのレベルに分けられる。

第1は、動詞、形容詞 、副詞 などの特定の品詞だけを聞き取らせる方法である。品詞のラベル化は、文の中でのそれぞれの機能を特定し正確にセンテンスの意味を理解するために不可欠なプロセスである 

第2は、特定の機能を持つ語彙項目を聞き取らせる方法である。「主語」「動詞」「目的語」「補語」などを聞きながらラベル化することで文構造を理解し、正確なセンテンスの意味を理解できるようになる。

第3は、特定のジャンルの語彙項目を聞き取らせる方法である。数字や曜日、動物の名前などのジャンルを指定して行う方法である。ジャンル別の聞き取りは、現実の目標言語使用の際に必要な時がある。米国のグレイハウンドバスのバスデイーポでは、乗り場の変更などの放送がかかることがあるが、そのような場合数字は聞き漏らせない情報である。同様に、リーデイングでは、薬の注意書きなどは量を正確に素早く知る必要がある。すなわち、ターゲットとすべき情報(target information)と周辺の情報 (peripherral information)の聞き分け訓練がこのタスクでできるものと考えられる。あらゆるジャンルの中で数字がもっとも顕著(salient)であり、実用性も高いが、他に人物名や職業、場所を表す語句、頭字語などもよい。

筆者の授業では、テレビの品詞とジャンルの組み合わせ、数字、動詞、形容詞、その他を座席ごとに割り当て、ペアワークで聞き取らせ、共同作業させる。通常2回聞かせているが、インターバルごとに各グループ内で相談させた後、グループの代表に板書させ、同一の特定語彙を指示された他グループとの比較をさせる。また、氏名と共にグループ全体でまとめて書いた紙をタスク後に提出させるようにしている。実際は、洋楽について、このタスクを実際に使用することは少ないが、早朝に収録し、スクリプトがなかったり、よく見ていないニュースを授業の導入部に使用している授業では、洋楽に引き続いて行うと、学生はその音声的特徴が観察できてよい。また、シートが準備できている曲についても、一度目は内容把握、2度目にこの特定語彙の聞き取り、そして3度目に空欄穴埋めや語彙選択のシートを使用したタスクを組み合わせることも可能である。他のタスクについても同様なことが言えるが、学生に真剣にタスクに参加させるためには、ペアワークやグループワークによって、他者との係わりを作り上げ、責任感を持たせることが大切である。

 

特定語彙に対する身体反応 (Total Physical Response)

記憶の保持と想起は、視覚だけでなく、聴覚、触覚など複数の感覚を動員することでより、強固なものとなると主張Asher (1977)によって開発されたTPR (Total Physical Response)7は、歌詞の中に含まれる日常会話のフレーズや前記の特定語彙の聞き取りタスクにも応用できる。実際に聞いて歌いながら覚えると、記憶に深く切り刻まれる。その後、曲を聞けば自然とその表現が想起されるようになる。

Paulston (1971)は、タスクには"mechanical response"(機械的応答)、"meaningful response"(意味ある応答)、"communicative response"(意思疎通の応答)の3つのいずれかを求める性質があるとしている。機械的応答とは、音声認識は求められるが内容理解を必要としない聞き分け(discrimination task)のことである。意味ある応答とは、内容理解と音声認識の両方が求められる指示に従って何らかの行動などである。意思疎通の応答とは、これに創造的な要素が加わったもので、問題が提示され、それの解決策を提案するような場合が考えられる。この範疇をあてはめると、音声認識に対する身体反応は、機械的応答と意味ある応答の中間に位置するものと考えられる。

TPRを特定語彙の聞き取りに応用する具体的な手法として、少数(3〜5人)の学生ごとにサークルを作らせる、指令を受ける学生をひとり選ばせる。椅子の移動が困難な形成の場合は、座席の最前列の前に、ひとり指令を受ける学生を立たせ、その列の学生と対面させる。指令を与える学生をいったん教卓の方へ集め、それぞれ違う特定語彙を与え、聞き取ったら片方の手を他の学生にはっきり見えるようにあげるように指令する。他の学生は、その指令を受けた学生が手をあげる直前に何が聞こえたのか、その特定語彙は何かを当てさせるタスクである。他の学生は、その語彙が分かった時点で同様に手をあげさせる。2、3分と経過していくうちに、かなりの数の学生が手をあげるようになり、取り残された学生は悩みあせることはあるが、それで一定の緊張感が生まれ、集中力が増す。また、動詞は左手、形容詞の時は右手、数字の時は両手を挙げるなど複雑にすることも可能である。授業はかなり盛り上がりぜひ実施していただきたいタスクである。

 

全文書き取り(dictation)

英文を書き取る作業は伝統的な手法であるが、洋楽に限らず、洋画やニュースなどにも有効であり、その有益性は以下の記述からも明らかである: 書き取りは英語の学習活動のうち単に書くことの領域だけの技術だけではなく、そのほか聞く・話す・読むの全領域にわたる技能の総括的な学習活動とみなされているので、英語の授業においては不可欠なものであり、その実施方法・内容・程度などについては指導手順上かなりの考慮が払われてよいと考えられる。(小川他、1982:149)

 全領域にわたる技能的な学習活動の内容に関しては、Gower & Walters (1983: 107-108)が以下の5技能がデイクテーションには必要であると述べている:Dictations are far harder than they seem. To do them successfully, students have to be able to:

-- identify sounds when run together in connected speech

-- understand what they represent in terms of words

-- understand and to a certain extent interpret what the words mean when grouped together

-- transfer what they hear into the written mode

-- write quickly with few spelling mistakes

 

また、彼らは"There are also usually severe limitations on the time that can bee taken to do these things! (pp. 107-108)"とし、時間を十分与えることの重要性を訴えている。

LL教室などで各席に卓上の録音機能が付いている場合、マスターからダビングして、各学習者がそれぞれのペースで一定時間内に、ヘッドフォンを使用して何度も再生を繰り返して曲全体、または一部をデイクテーションする方法がある。上級者の場合は1時間ぐらい時間を与えて、全文をデイクテーションさせることもできる。時間的に授業内では行わうことができなければ、課題として出してもよい。根気がいる作業であるが、各自操作させることで画一的な一斉授業の弊害としてあげられる学習者の個人差への無配慮が克服でき、苦手な音などを個別に特定することができる。洋楽に限らず、ニュースなどを使う時にも導入してはどうだろうか。

 

3-7. 他技能への応用

reading

 洋楽の歌詞は、リーデイング用のテクストとして活用することが可能である。Dissosway (1986)は、リーデイング活動の定番である内容理解問題(comprehension question)のために、音楽をかける前に歌詞を配付し、"an enjoyable extra" (p.22)として、かけた後に解答する方法を提唱している。また、同氏は、テクストの構成(organization)を理解するために、"strip songs" (p.20)を勧めている。ただし、初級者には、洋楽を聞かせながら並べ替えさせるよう説明しているが、これでは単なる音声認識タスクになってしまうので、並べ替えさせた後に解答を兼ねて聞かせる方がよいと考える。

 また、歌詞を詩の鑑賞のように扱い、精読教材として扱うことも可能である。Gray (1992:17)は、洋楽の歌詞の理解に必要な要素として、"slang" "background cultural information""basic English poetics"を挙げ、3番目については、以下のように述べている:

 

Teaching Japanese students how to approach English language sog lyrics as poetry increases their employment and understanding of songs, and it prepares them for dealing with other poetic use of English. (p.17)

 

writing

 Graham (1992)は、洋楽を使って特定の語彙や構文を教えられるように、自ら作詞して音楽を付けて歌わせる方法を提唱している。さらに一歩進んで、学習者自身に作詞させ、好きな洋楽を付けて歌わせることも可能である。歌詞全体は、たいへんな作業なので、一部分などに限定し、何通りも作らせて発表し、互いに評価し合ってはどうだろうか。また、作詞に至らなくて、既存の歌詞を好きなように書き直して音楽を付けて歌わせたり、また、悲しい曲を楽しい曲に、または逆に悲しい曲を楽しい曲にするように指示を与え、学生同士でお互いに批評し合うタスクも可能ではないだろうか。いずれの方法も筆者自身は、まだ実践していない段階であるが、大きな可能性を感じられずにはいられない。

 

speaking

 歌詞の内容や歌手に関して、何らかの評価基準をあらかじめ用意してペアワークやグループワークをさせ、さらにデイスカッションなどに発展させることは可能である。現在発行されている数冊の大学のテキストの中には、プレ・リスニング活動またはポスト・リスニング活動として、以下のようなタスクを載せているものがある:

 

1) TEXT: 12 Great Hit Songs (Someya, Murray & Ferrasci, 1999: 12)

Celine Dionが歌うMy Heart wil Go onを扱った章のプレ・リスニング活動として:

 

1. Did you see the movie Taitanic? What did you think of it?

2. Do you remember who was singing the theme song?

3. How much do you know about Celine Dion?

 

2) TEXT: Alive Jives: Studying English with the Hottest Hits (Moriguchi & Kimura, 2002: 25)

Ricky Martinが歌うLiving la Vida Locaを扱った章のポスト・リスニング活動として:

 

1. What are the advantages and disadvantages for Japanese people who are talented in sports, art, music, etc. to work abroad?

2. What abilities and personality traits do you think are necessary for being internationally active and successful?

 

3) TEXT: The Greatest Movie Songs (Tsuda, 2001: 25)

Diana Kingが歌うI Say a Little Prayerを扱った章を扱った章のポスト・リスニング活動として:

 

1. Why do you think the singer prays for her lover?

2. When was the last time you prayed? What did you pray for?

 

いずれの質問内容も、歌詞の中に答えが見出せるものというよりも、そこから発展させた、創造的な質問であることがわかる。授業時間に余裕があれば、洋楽は聞き取りだけではなく、他技能まで含んだ活動を行うことが可能なのである。

 

NOTES:

 

1. 筆者が担当する2002年度の小樽商科大学の1年生の英語上級者用のクラス(通年)で、2002年の11月 に実施したアンケート調査。アンケートの内容と結果は、APPENDIX IVとVを参照。

2. 日本社会の国際化に伴い、日本国籍者が日本語の母語話者ではないケースを考慮し、同論文では、日本語の母語 話者に対して「日本人」は使わず、より正確に「日本語母語話者」と一貫して使用する。

3. TOEIC (Test of English as an International Language):米国のETS (English Testing Service)が作成する世界共通の英 語力試験で、日本では財団法人国際ビジネスコミュニケーション協会TOEIC運営委員会が実 施している。同協 会では、TOEICの得点と英語能力のレベルについてA (990 - 860)、B (860-730)、C (730 - 470)、D (470 - 220)、E (220 - 0)の5段階のガイドラインを設けており、Aランクについては、「ノン・ネイテイヴとして十分なコミュニ ケーションができる」レベルとしている。

4. ウエルニッケ領域(Wernicke's area):左脳のやや後方に位置し、発話理解に重要な役割を果たす領域。

5. ブローカー領域(Broca's area):左脳のやや前方に位置し、発話(encoding)にかかわる領域。

6. 運動制御領域 (motor control area):左脳のやや上方に位置し、発話器官(articulatory organs)を制御する領域。

7. TPR (Total Physical Response):Asherが開発した学習項目が、学習者の身体的な反応を求める命令や指示の形で、 目標言語で提示される全身反応教授法。