越前家で夕食をご馳走になるのは、これで三度目くらいだろうか。
以前の時と同じく、夕飯の席についたのはリョーマと手塚の他は母親一人で、少し手塚はホッとしていた。
まだ、同居しているというリョーマの従姉妹辺りが一緒になるくらいであれば良いのだが、彼の父親、越前南次郎氏
と同席することにでもなったら、ゆっくり夕食を味わえる自信は手塚にはなかった。
何故かと言えば、どうやら青学に入ってから変わったリョーマのテニスに、少なからぬ影響を与えたのが手塚であ
るということに、リョーマのコーチ役である南次郎氏が気が付いており、何かと興味津々に訊ねてくるので、自分達の
関係も実はバレてしまっているのではないかと、心中穏やかでいられなくなるからだった。
途中帰宅した南次郎は、食堂には顔を見せず、居間で晩酌を始めたようだ。挨拶をする必要を感じたが、とにかく食
事を済ませてからの方が良いだろうと、手塚はやや急ぎ気味に食事を片付ける。
「・・・・部長、食べるの早いよ」
「ああ、すまない。・・・・美味しかったもので。ご馳走さまでした」
母親に気兼ねして頭を下げると、彼女は楽しそうに笑う。
「いえ、やっぱり男の子はたくさん食べるわよね、足りたかしら?」
「はい、もう充分です」
「いい食べっぷりを見てると気持ちがいいわ。リョーマももっとたくさん食べないと、手塚さんみたいに大きくなれないわ
よ」
気にしていることを母に言われて、リョーマはふくれっつらをしてみせた。だが恐らくはしょっちゅう言われ慣れている
のだろう、それには反論せず、自分の分を平らげるのに集中している。
母親が食後のお茶をと用意する間、手塚は南次郎氏に挨拶をしてくるからと、席を立った。
「こんばんは、お邪魔しています」
居間に入りそう声を掛けると、ビールの入ったコップを手にテレビを見ていた南次郎が振り返った。
「おう、手塚くん。調子はどーかね」
「はい・・・・変わりありません。あの、夕食までご馳走になってしまい、ありがとうございました。そろそろお暇しますの
で」
「ん?何だ、もうそんな時間か?どうせ中学じゃ後は卒業証書もらう位しかやること残ってないんだろう。用があるなら
仕方ないが、たまにゃゆっくりしてったらどーだ?」
「はぁ・・・・」
予想外に引き止められて、手塚は戸惑った。リョーマと過ごす時間はもちろん少しでも長い方がいいし、帰宅が多少
遅くなったところで差し支えることも今日の所はない。
「四月からは高等部行くんだろ」
「・・・・はい、その予定です」
几帳面な物言いに、南次郎はちょっと鼻で笑ってから言った。
「あんたみたいな人がいてくれて良かったよ、実際。学校は別んなっちまうが、良かったらこれからも、ちょっとはリョー
マの相手、してやってくれや」
「はい、そのつもりです」
「そうか」
南次郎はニヤニヤと笑いながら、空いたコップにビールを注ぎ足す。
「そのうちこっちにも付き合えよ」
ビールを持ち上げて言うのに。
「まだ当分未成年なんですが」
そう答えると、おカタイ奴だなーと笑われた。再びテレビの方に向いた南次郎に失礼しますとお辞儀をして、手塚は食
堂に戻った。
「親父と何話してたの」
ようやく食べ終えて、お茶に手を伸ばしていたリョーマが訊ねる。
「別に、世間話だ」
「変なのー。ねぇ部長、もう帰っちゃう?」
下から覗き込むような瞳に、母親も居るというのにうっかり胸がドキリと鳴ってしまい、ポーカーフェースを保とうと努
める。
「そうだな・・・・越前が勉強を見て貰う気になったのなら、もう少しお邪魔していても大丈夫かな」
「あら、良かったじゃない、リョーマ。是非そうしていただきなさいな」
母親が嬉しそうに言うのに、リョーマは一瞬ウンザリといった顔をしたが、手塚の顔を見て表情を変えた。
「分かったよ。じゃー部長、宿題でわかんない所、教えて?」
「ああ」
そして手塚はリョーマの母親に、食事の礼を言い、食卓を離れた。
それから二人は2階に上がり、リョーマの部屋に入ると扉を閉めた。
「ねぇ、ホントに勉強するの?」
横から見上げてくるリョーマに、手塚は黙ったまま顔を近付ける。軽く、何度か触れ合わせるキスを与えて、その至
近距離のまま囁く。
「本当に宿題で解らない所があるなら、そうしてもいいが?」
リョーマは背伸びをしながら手塚の首に腕を回し、両腕に体重を移してぶら下がっ
「そんなら大丈夫。別に困ってないから」
手塚もその身体を持ち上げるように抱き締めながら、リョーマの言葉に微かに苦笑する。
ベッドまでの数歩をそのまま移動して、リョーマの身体をゆっくりとその上に横たわらせた。
「後で大変なことになっても、知らないぞ。中学の授業はこれからいきなり難しくなるからな」
「相変わらず真面目なんだから・・・・ちゃんと頑張るから、もうその話は終わり。ね?部長・・・・」
リョーマに言われるまでもなく、今はただ、この腕の中の身体と触れ合っていたい気持ちで、心の中は一杯になって
いた。だから腕や足の力を抜いて、その身体をぴったりと重ね合わせて、リョーマの微笑む唇を自分のそれで塞いだ。
階下に居る両親への罪悪感も、勉強を言い訳に居残る自分の狡猾さへの羞恥心も、リョーマとこうしていられる時
間の短さを惜しむ思いの前には、あっという間に薄れていってしまう。
唇の間から滑り込ませた舌で、形の良い歯をなぞり、更にその奥へと口を開かせて進入する。舌を絡め取られ吸い
上げられ、またくすぐるように蠢いて、リョーマは一気に高められた快感に、手塚の首へと回していた腕に力を込めた。
堪え切れずに小さく声を漏れ聞かせ始めるのに、ようやく手塚は一旦彼を解放する。
リョーマの少し潤んだ瞳がうっとりと自分を見つめ、その赤い唇の艶やかさに再びキスをしかけて、リョーマの手が
襟を引っ張るのに顔を戻した。
リョーマの手が眼鏡を外す。外された眼鏡を手塚はベッドの棚に置いて、また彼の上に覆い被さった。
角度を変えて深く口付け、リョーマの手に自分のそれを重ねて握り合わせる。もう片方の手でリョーマの首筋から背
中へと擦るようにしながら、より身体を密着させた。
絡めた足の間にお互いの昂ぶりを感じて、それを意識させるように腰を押し付けると、リョーマの肩がびくりと跳ねた。
深いため息のように長く吐き出される吐息と閉じられた瞳の上に、小さな口付けを幾つも与えながら、手塚は少しず
つリョーマの着ている物のボタンを外していった。
まだ幼さの残る顎のラインや、柔らかくて細い首筋、鎖骨の上の窪み、そして薄い胸の肌とその飾りへと、自分の気
に入っている部分を余すところ無く唇と舌でなぞってゆく。敏感な場所を探り当てるように愛撫してゆくのに、リョーマは
堪らず胸の上の頭を両手で抑えるように抱えた。
リョーマのシャツは前だけはだけられて、すそがズボンから引き出されている。その隙間から素肌をなぞって脇腹か
ら背中へと手を回し、なめらかな皮膚の感触を味わう。
再び身を乗り出すようにして口付けながら、ズボンの上から形を変えているものをなぞるように手を這わせた。それだ
けでリョーマは唇を震わせて顔を背けるようとする。ねじ込ませるようにして絡み合わせた舌で押さえ付け、より深く、そ
してより強く擦り上げる。
「んっ――――!・・・・う、んんっ」
苦し気に声を上げ始めるのにようやく唇を放し、少し上からその表情を見つめる。
「・・・・部長?・・・・」
頬や目元を赤く染めて、見上げてくるのに、理性も飛ばしてしまいそうになりながら、手塚は言った。
「このまま・・・・お持ち帰りにしたいな」
「ナニそれ・・・・」
くすりと笑った表情にまた煽られながら、リョーマのズボンの前をくつろげさせ、有無を言わさず引き出したそれに、
身体をずらして唇を這わせる。
「やっ・・・・ダメ・・・・っ!」
跳ね上がる足を押さえ付けながら、舌で形をなぞり、口の中に咥え込む。指でもしごきながら唇と舌で愛撫するのに、
手塚髪を咄嗟に掴みながらリョーマはすぐに限界を訴えた。
「・・・・やだ・・・・も、出ちゃう・・・!」
先端から根元の方へ、深く迎え入れて強く吸い上げると、びくびくとした震えと共に若い精を吐き出した。口の奥深く
で受け止めたものをそのまま飲み込み、促すように唇で最後まで吸い上げた。
絶頂に力んだ身体を弛緩させて荒く息を吐くリョーマの、汗の浮いた額に軽く音を立てて口付ける。
閉じた瞳がゆっくりと開かれると、濡れた瞳の表面に自分の顔が映り込む。手塚自身はやはり堪え難い衝動を抑え
ながら、それでも腕の中の熱に覚える愛しさから微笑みを浮かべた。こんな時ばかりは、自分では好きになれず出来
れば見たくないと思っている自分の笑顔も、確かに他人には見せられたものではないが、悪いものでもないかと考え
る。
「・・・・リョーマ・・・・」
囁き掛けながら、再びゆっくりと唇を重ねた。初めは自分のものの匂いを感じて抵抗しようとするリョーマも、やがて
諦めたように熱い舌を差し出した。
こめかみと耳の下に音を立てて口付け、そのまま胸を合わせて深く抱きすくめる。心地好い重みを身体に受け止め
ながら、リョーマはそれから動こうとしない手塚をいぶかって声を掛けた。
「・・・・部長?・・・・」
「・・・・ああ」
身体を起こして、手塚はすっかり寝乱れたリョーマの服装を、一つ一つ直していった。多少の皺は仕方ないとして、
粗方身支度を整え、仕上げとばかりにリョーマの腕を引っ張って上体を起こさせ、乱れた髪を指で梳いて直す。
「少しだけでも、勉強した振りをしておいた方がいいかもな」
そう言ってリョーマの勉強机に歩み寄り、教科書などがないか物色し始めた手塚に、リョーマは起き上がった姿勢
のまま訊ねる。
「ねぇ・・・・部長は?」
「いや、大丈夫だ。ちょっと手洗いを借りてくるから・・・・」
聞き終わらないうちにリョーマは飛び起きて、手塚の身体にしがみ付いて来る。勢いに押されて机に腰を下ろした手
塚の腕に抱きとめられたまま、リョーマは見上げて言った。
「俺だけじゃ・・・・ずるいよ」
ちょっと怒ったように唇を突き出して、躊躇いと困惑を浮かべた表情のまま、手塚のズボンの前に手をかけた。
向かい合わせに膝立ちになり、ファスナーを下ろして下着の中の固くなったモノの形を手でなぞる。意を決したように
下着を引き下げて、現れた熱いモノを両手で軽く握り込んだ。
自分の身体に迎え入れたこともあるそれを、間近に目にするのはこれが初めてのことで、リョーマは少しだけ息を呑
んだ。
「おい・・・・無理するな」
「無理なんか、してない」
手の中でびくりと震えたそれに、リョーマはそっと口付ける。先端からゆっくりと唇を添わせながら、乾いた薄い皮膚
を湿らせるように舌で舐め上げる。
そうして先の割れ目から滲む透明な液を、広げるように舌でくすぐると、手塚はリョーマの耳の辺りに彷徨わせてい
た手で、その頭を掴むように押さえ付けた。
リョーマは思い切って口を大きく開き、ゆっくりと口の中へと導きながら唇で締め付けた。それでも咥えきれない部分
は両手の指で触れ、手塚にされたように吸いながら前後に動かしてみる。
頭上から手塚の押し殺した吐息が聞こえ、リョーマの頭に添えられた手が強張った。途端に軽い衝撃と共に精を吐
き出されるのに、リョーマは喉の奥を突かれて一瞬の嘔吐感に襲われる。何とか堪えたものの、嚥下しきれなかった
ものが口に残り、むせそうになる。
手塚が素早くティッシュを差し出すのに、リョーマは咳き込みながら口元を拭った。
「ごめん・・・・何か、上手く出来ないね」
しゃがみ込んでいるリョーマを、手塚は覆い被さるように抱き締めた。
「すまない・・・・こんなこと、させるつもりは・・・・」
リョーマは自分が涙目になっているのに気付き、慌てて目元をこすって言う。
「何で。別に、おかしくないでしょ・・・・俺だって部長が好きなのに」
「・・・・越前・・・・」
手塚は、その真っ直ぐな瞳に胸を突かれて、言葉を失った。こんなにも胸を熱くする想いを、愛情と呼ぶには言葉が
足りな過ぎて。
唇から全てを奪い去りたい思いで口付ける。この存在を全て自分のものにするには、どんな手段でも物足りないよ
うな気さえする。
ひとしきり互いの舌を吸い合って、ようやく解放する。少し息の上がったリョーマを胸に抱いて、もう一度想いの強さ
のまま力を込めて抱き締めた。
しかしいつまでもこうしている訳にもいかず、手塚は身体を離して衣服の乱れを直しながら、名残惜しむように唇だ
けで軽く音を立てて口付けた。
「そういえば、足の痛みはどうだ?」
「あ・・・・忘れてたのに。少しだけ痛いかも。でももう平気」
リョーマはそう言ってにっこりと笑う。机の前で椅子に座ったリョーマに、その髪を梳くように撫でながら、手塚は微笑
みかけた。
「それなら良かった・・・・風呂で良く温まった方がいい。そろそろ帰るが・・・・もうすぐ学年末テストだろう。勉強の方は
大丈夫か?」
「大丈夫だってばー。確かに部長みたいに成績も優秀って訳にはいかないけど、補習受けるような点は取らないから
さ」
「そうか。ま・・・・頼むぞ、それは」
ポンと軽く頭に手を置いて、手を離す。去り難く思ってしまう気持ちはどうしようもないが、さすがに帰宅しなければな
らない時刻が近付いていた。
「部活が休みに入ったら、またあのコート連れてって」
「ああ・・・・そうだな」
何度か二人きりでテニスをしに行ったコートは、すっかりリョーマのお気に入りデートコースになっていて。テスト前
で部活が休止となる時にはお互いゆっくり会うことも出来るし、休日もある。たっぷりとテニスをするのももちろん良い
が、それ以外のこともしておきたい。
四月になれば、今よりもずっと会える時間は減ってしまうから。
今はもっと、二人の時間を出来る限り大切に、充分に楽しんでおかなければ。
とりあえずは、次の休日の予定を胸に描いて、楽しみに胸を躍らせている自分に、手塚は密かに微笑みを浮かべた。