五代雄介が涙を流していた。

 彼の涙を見たのは初めてのことで、いつの間にか自分の頬も濡れていた。

 ベッドに横たわったままの彼が、自分の頬の涙を拭うのに、一条薫はそれが自分の目からこぼれた涙だと気付く。

 ――――泣かないで、一条さん

    俺はきっと、帰ってくるから――――

 まるで別人のような瞳の色で、五代はそう言った。

 それから一年。彼の消息は知れない。

 

 

 季節は巡って、また冬が来る。

 五代と出逢ったのも、別れたのもこの季節で。同じ冷たく乾いた風の中で、今も変わらない自分が一人、ここに居る。

 五代は自分と出会ったことで、人生が変わってしまった。

 それなのに自分は、また同じように長野に戻って仕事を続けているだけで。

 こうして彼のことを想うこと、それだけが、自分に残されたものなのだと、一条は思う。

 そんな時、年度末前に東京で行われる研修会に、一条が行く事になった。近々警部への昇進を見越してのもので、もちろん一条に断る理由はなかった。

 ただ今の時期、東京へ行くことには、僅かばかりの躊躇いが感じられたが、それは仕事とは関係のないことで。

 約一週間の日程で行われる研修の為に、一条はやはり一昨年と同じ街のホテルを取った。慣れた場所でもあり都合が良かったからだが、ホテルについてから一条は少し後悔をした。

 一昨年の数ヶ月間、ここに滞在し、あとは小さなアパートを借りて暮らしていたので、ここへの思い入れはそんなには無いはずだった。しかし、二年にも満たない年月では、想い出を風化させるにはまだ足りないようだった。

 とにかく東京に出てきたら必ず連絡を入れろと脅されている椿には電話を済ませ――――五代と共に、一年の間何度も世話になった沢渡の番号は、メモリから一度呼び出しただけで、通話ボタンを押さずに終わった。

 どうせこちらでは余り自由な時間が取れるわけでもなかったし、帰る前に一度椿に飲みに行こうと誘われていて、それだけで充分なような気持ちになっていた。

 それでもやはり、庁舎からホテルへ帰る地下鉄に乗っていたりする時、ふとこのまま足を延ばして、ポレポレくらいには行ってみたいような気持ちになる。どうせこれからどこかで適当に夕食を取るならば、あのおやっさんの顔を見てみるのもいいのではないか。

 しかし結局いつもの駅で降り、道すがらのファミリーレストランなどに立ち寄るのであった。時間も遅いし、明日も早いし。自分ではそう思いながらも、足を向けられない想いも心の片隅に確かに存在していた。

 それは、沢渡と会うのを躊躇う気持ちと同じで、彼女や五代の妹のみのりや、ポレポレのマスターにとって、自分との関わりはすなわち未確認事件の記憶と直結しているものであって、今この平和な世の中になって、またその記憶を呼び覚ますようなことは、避けたいのではないかという思いからだった。例え彼らには否定されたとしても、一条自身がそれを危惧している以上、自分から彼らの元に行くことはないと思っているのだった。

 それから数日間は研修のことで頭を一杯にし、時間が空けば武道場に行って剣道の稽古をつけて貰ったりして、日々を過ごした。

 研修最終日が終わり、一条は昼休みの時間に再び椿に連絡を取った。予定通り池袋にある椿の行きつけの店に、時間を決めて待ち合わせることにする。イタメシ系の洒落た店は、いつもならば女性を誘って行くような所だが、ワインなど酒も豊富で料理も美味しく、手頃な値段なので人気のある店だった。

 待ち合わせに行くにはまだ大分早いため、一度ホテルに荷物を置きに帰ることにした。

 庁舎を出て、地下鉄の駅に向かって歩き出す。定時にはまだ間があり、冬の早い夕暮れが迫りつつある街並には、行き交う人の姿は少ない。

タクシーばかりが多く走る車道を、一台のバイクが小気味良いエンジン音を上げて走り抜けてゆく。そういえば彼は元々、今のようなバイクに乗っていたのだな、と気が付いて、いつでも彼への想いに捕らわれている自分に、口元に小さく苦笑を浮かべた。

 時間が経てば薄れるというものではなく、彼、五代雄介の存在は自分の心深くに刻まれ、埋め込まれ、常にそこから湧き上がる感情は、変わることなく一条の胸に甘い痛みをもたらし続けている。

 危惧した通り、東京に来てそれは一層ひどく感じられるのだった。

 

 

        こんな感じで書き始めています・・・スイマセン、せめてもう少し先まで書ければ良かったのですが、時間切れです・・・
オンライン掲載だけで終わりそうですが。ちゃんとHが書けるかどうかが問題です。
DVDも全部揃って、もう一度最初から観返してみようかな、と思っています。サイトの方に感想(ツッコミ)でもUP出来れば、とか(笑)
しかし未だに映画化待っているんですが・・・駄目ですかね?いつまでも待ってます〜!本当に。だって微妙に伏線残してるような気が・・・
そんな訳で、今更のようですが、クウガもこれからボチボチ増やして行きたいと思っております。

春のイベントに出したペーパーより。とりあえず書き始めた51小説の冒頭です。
続き・・・頑張って書くつもりはあるのですが、何分今はテニプリがメインですので・・・
気長に待っていて頂けると嬉しいです。スミマセンm(_ _)m  020705 とんび



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