産業観光振興・・(2003年6月14日)

最近「産業観光」なる言葉をよく目にするようになった。この言葉あまりピンと来ない言葉である。ぴんと来ない言葉ではあるが、地方自治体の観光案内によく登場している。一般的な定義としては次のようになる。
「産業観光」
生産活動の場である工場や産業遺産(歴史的意味を持つ工場遺構、機械器具等)などを観光資源とし、それらを介して物づくりの心に触れることによって、人的交流を促進する観光活動。
やはり、はっきりしない。工場や産業遺産などを観光資源とするのはわかるが、物づくりの心に触れることによって、人的交流を促進する? 人的交流を促進する観光活動?
例として北九州市のホームページを見てみると、レオマワールドまでもが産業観光施設となっている。それってテーマパークではなかったっけ?

このよくわからない言葉がなぜ今注目されるのか。産業としての観光業は昔から重要視されて来たが、昨今日本経済を引っ張って来た製造業がたそがれ期を迎え始めるにつれ、観光業は俄然注目され始めた。各地域では観光振興しようと思い立っては見たものの、残念ながら現在の日本には観光地として魅力あふれる場所が少ない。日本全国に蔓延した公共事業の自己増殖システムと過剰な規制の結果、どの町もどの場所も特徴のない景観となってしまった。無個性で安っぽい郊外店舗、統一感のない町並み、コンクリートで囲われた川と海、山を切り裂く道路、ごみ、汚れ。とても観光客に見せたいとは思わない場所ばかり。

観光資源のない地域の中、観光客を誘致できそうな施設として工場が浮かび上がった。きっかけはトヨタ自動車の工場見学だった。世界で最も有名な生産設備と体制を誇るトヨタ自動車の工場へ、世界中から見学者が訪れていることが紹介されると新たなる産業資源として関係者の間で注目された。
日本中どの地域にも工業団地があり、工場がある。日本人では工場とはラインがあって、自動で物が出来ていくものだと思っているが、そのような国は日本ぐらいであって、ほとんどの国のほとんどの工場は自動化されていない。そのため日本の工場を見学すると驚嘆するのだ。ツアーなど団体で行動するツアーにも都合がいい。大型バスを駐車するスペースもあるし、案内は工場のガイドが行ってくれる。

そもそも日本の工場見学とは地域社会への理解と融和、および、学校教育への一環として行われるか、宣伝のために行われるかどちらかであった。多分にボランティア的性格を帯びたものであることが多い。当然、製造技術に関する部分は非公開である。つまり見れる部分は一般的な部分だけ。ほとんどの工場見学は団体の事前申し込みが必要である。突然行っても見学できるところは少ない。

全国から観光客を誘致することを目的に行われる工場見学は数少ない。さらに海外からの見学者を想定している工場となると皆無であると言っていい。外国語に対応したツアーをしているところは少ない。ここはツアーエージェント側のガイドに頼るしかない。費用面を考えると致し方ないところだ。ただし、ホームページなどの案内や説明などでは英語や中国語などでの表示はあった方がいい。最近のツアー客はインターネットにて事前に情報の収集をしている。さすがに、前述のトヨタ自動車の工場見学は英語での対応もしている。

このように考えると、ほとんどの場合、自治体や各種団体が望むような観光客誘致の資源とはならないように思える。いくつかの工場では宣伝を目的として大々的に行っている。特にビール工場などは有名である。宣伝を目的としているので料金はかからない場合が多い。

一方、海外における工場見学の状況はどうか。海外では工場に限らず、スタジアムやコンサートホールから博物館まで、いろいろな施設においてガイドツアーが催されている。ほとんどが無料のサービスとして行われている日本と違い、海外ではガイドツアーは施設の有効利用の一環であり、ほとんどの場合有料である。公共施設でさえ有料である。収益を上げるための設備と考えているのだ。工場見学などを産業観光というジャンルにはしていない。というより産業観光と言う概念がない。当然観光産業資源となると考えられている。

ここで日本の公共施設について考えてみる。日本の公共施設では、見学ツアーはほとんどない。見学ツアーを行って事故が起こると職員の責任を問われるため、余分な仕事である見学ツアーなどは当然行われない。それどころか、事件が起こると責任問題につながるが、利用者がいなくて採算が取れていなくても責任は問われないので、出来る限り利用されない方が職員とってありがたいと言う本末転倒なシステムとなっている。
よって、利用者にとって不便であればあるほどいいルールということとなり、職員の対応もひどければひどいほどいいとなる。利用者に親切な職員は上司ににらまれる。対応のいい施設に対しては、民間から「民業圧迫だ」などと言われるので、さらに対応はひどくなる。日本の官業のスーパー悪循環な一側面である。

はたして、工場見学でどれだけの人が呼べるのだろうか。ユーミンの曲「中央フリーウェイ」に登場することで日本一有名な工場と言ってもいいサントリー武蔵野工場の工場見学へ行ってみた。個人的にビール好きなのでとても楽しみにしていた。さて感想は簡単に言うとかなり中途半端である。あの場所まで行って約1時間ばかりのツアー。その半分は映像であり、さらに四分の一はパネル表示である。ビールの試飲も20分程度と、これからというところでお預けをくらったような気分になる。どうせならビールホールを併営して欲しいが、地域の飲食店のことを考えるとそれは不可能かもしれない。

インテリアなど施設はすばらしいのでお金を払ってでもいたい。あの時間ではお土産を買っている暇もない。お土産の販売は大きな収益源になるはずなのでもったいない。
この工場では見学に休日で約1000人平日で約500人の集客があるそうだ。一年で20万人にも及ぶ集客力。これはすごい。たとえば近くにホームスタジアムのあるプロサッカーの東京ヴェルディの2002年ホーム観客数は22万人である。

無料だから集まってくるとも言えるが、有料になったからといって大きく集客が減るとは思えない。中途半端に工場見学をするのなら、内容を充実させた見学ツアーにして欲しい。いや今のツアーを変える必要はない。併用でいい。

費用を払ってもそれだけの価値のある経験が出来るなら、集客は出来る。特産物、特産工芸品などの販売を目的とした工場見学は盛況である。この場合その目的は宣伝ではなく直接的な販売戦略である。
海外の工場見学でも香水とかワインなどの特産品の工場では、お土産などをつけて工場見学を行い、一人数千円の料金を取っているところが多い。料金をとっても満足の行くサービスを伴ったツアーならば、それを目的として、観光客は集まる。

工場見学は確かに集客力はありそうである。さらに、工場見学で利益を生むことも可能なように見える。それをはっきりさせるために次回は是非麒麟麦酒の工場見学とビール造り体験をしてみたい。見学料金はかかるがその価値があるかどうか確かめたい。決してビールが飲みたいからではない、念のため。