15235          2002.9.28

 

天気予報士は自信満面に笑みを浮かべて一日雨ですと言っていた。その笑みを信じて、長傘を手に家を出た。一時でも雨が止むと傘を忘れる確率が飛躍的に高まる私は、普段、折りたたみ傘を愛用しているのだ。しかし、雨は朝方「とりあえず」程度に降ったきりであった。

 


突然のゲリラ散歩だったにもかかわらず7人も集まった一行は、巨大モスク「東京ジャーミィ」へと向かった。東京ジャーミィはトルコ大使館の付属施設である。そのため石材や家具などの材料はもちろんのこと職人さんまで、トルコから来て造ったそうだ。見た目のきらびやかさだけでなく、内部もイスラム建築の粋を集めた印象の華麗さである。

あまりに新しく、あまりに艶やかなので、隣の古い学校のような建物との対照が面白い。しかし、よく見るとこの古い建物、細部に凝った意匠がある、なかなかの建物である。案内のムハンマドさん(仮名)によれば昭和12年に建てられたらしい。今は何にも使っておらず、来年にも取り壊す予定だそうだ。もったいない。小金井の東京たてもの園にでも移築して欲しい。取り壊しとなると、サイディングの節穴に作られた蜂の巣はお引っ越しとなるなと思っていると、「鳥の巣の場所はあるんですけどねえ」とムハンマドさん(仮名)が指を指す。なんでも東京ジャーミィを建てるとき鳥の巣を壊したので、モスクの上部に鳥の巣用の場所をつくったそうだ。ただあまりにりっぱな造りにしすぎたせいで、鳥は全く近寄ってくれないそうだ。さみしそうなムハンマドさん(仮名)。

気を取り直してムハンマドさん(仮名)は「今度来るときは事前に連絡をください。内部もしっかり説明します。」と言ってくれた。「信者でもないのに見学だけに2度は来んだろ、2度は。」と思いつつ、「はい、ありがとうございます」と答え、ムハンマドさん(仮名)にさよならをした。

 


東京ジャーミィを後にして、一行は東京大学宇宙科学研究所を抜けて、駒場公園へ向かった。この宇宙化学研究所には戦前に作られた近代建築群が残っている。特に時計台のある建物は時代的に◎、建物的に○、デザイン的に?という一見の価値がある建物である。

 


駒場公園には旧加賀藩前田侯爵邸(洋館・和館)がある。まずは洋館。以前は近代文学博物館に使われていたが、今は空き家である。今や見学者もほとんどなく、壮麗で広大な屋敷は何もなくただ大きな空間が存在するのみである。迷路のような通路は突然何かが出てくるのではないかという錯覚さえ感じる。当主であった前田侯爵は南方戦線で戦死されたそうだ。「侯爵様でも南方戦線で戦死するのか」と意外な感じがした。そのせいか洋館はどことなく寂しい佇まいであった。

 


和館はというと、時代的には洋館と同時期のいい建物であるにもかかわらず、洋館ほど注目されていない。しかし、その価値は勝るとも劣らないのではないかと思われる。特に茶室などはいい。外国の方が見たら感激することであろう。そこでその茶室を借りて、お茶会をすることにした。楽しみである。


その後一行は、開店前の店先で騒ぎ、無理矢理オープンさせた喫茶パパイヤでお茶(数人はお酒)をして、松涛の屋敷街を抜けて2次会会場へと移動するのであった。

 


最後にほろ酔い加減でコンビニに寄った私が傘を忘れたことは言うまでもない。(後日談:次の日、取りに行ったらちゃんと傘立に残っていた。)