火打山(新潟県)
 焼山(新潟県)


ひうちさん 標高2462m。
やけやま 標高2400m。

 焼山は三百名山に選ばれているが、噴火活動のため1987年から登山禁止の状態が続いていて、 筆者も登る機会がないままだった。 それが噴火活動の静穏化に伴い、2006年12月に登山禁止が解除された。 さっそく登ってみることにしたが、 問題は、いくつかある登山道のうち、 どのルートを歩くかである。 すぐには登山道の整備はされないだろうから、 もっとも荒れていないと思われる火打山経由で歩くことにした。 都合のよい週末には天気が悪かったりで、 出かけることが出来たのは2007年7月31日から8月1日にかけてである。
 火打山から先がどのような状態か正確にはわからないので、 高谷池ヒュッテに1泊して焼山の頂上を往復する計画を立てた。 天気予報で8月1日の晴天を確認したのち、 高谷池ヒュッテに予約を入れたのが二日前だった。
 31日の朝、車で自宅を出発。 関越自動車道では突然車の警告ランプが点灯して、 登山口の笹ガ峰までたどり着けるのか不安になったが、 なんとか昼過ぎに登山口の駐車場に着くことが出来た。 ここで登山の準備をしていると、 同じ会社の山仲間のKさん一家とばったり会ってお互いにびっくり。 Kさんは家族でキャンプに来ているという。
 高谷池ヒュッテに向かって歩き出したのは午後2時になっていた。 しばらくは整備されたブナの林の中の遊歩道を進む。 約40分で黒沢橋に出会う。 ここから本格的な登山道になり傾斜も増す。 十二曲り呼ばれる急坂で、30分くらい登ると「十二曲り」の標識のある小広場に出る。 さらに急な登りが続き、周りの木にオオシラビソが目につくようになる。 朝まで雨が降っていたらしく、 ぬかるんでいる部分も多い。 黒沢ヒュッテへの道が分かれると傾斜はゆるくなる。 黒沢岳の西側を登山道が通っていて、 木の枝の間から火打山、高谷池ヒュッテが見えてくる。 まだ少し雲が残っているが、概ね晴れている。 16時半、高谷池ヒュッテに到着。 宿泊の手続きをする。 満員ではないが、7割くらいの入りのようだ。 夕食の時に宿泊者の顔ぶれを見たら、 ほとんどが中高年の登山者で若い人は見かけなかった。 妙高山、火打山とも百名山に入っているので人気があるのだろう。
 翌朝、4時半に小屋を出て、まずは火打山を目指す。 天気予報通り雲一つない空が、少しずつ明るさを増してくる。 天狗ノ庭の湿原には、 早くも三脚を立てて早朝の景色をカメラに収めようと準備をしている人もいる。
 私が前回火打山に登ったのは1983年のことで、 会社の山岳部の仲間と鍋倉谷から高谷尻谷を遡ってこの天狗ノ庭に出たのだが、 あまりよく思い出せない。
 やがて湿原を離れ、広い尾根伝いの登山道をたどると火打山の頂上に達する。 頂上の少し手前では、ライチョウ一家が出迎えてくれた。 北アルプスなどではライチョウの数が減っているという話を聞くが、 ここではどうなのだろうか?
 朝6時の頂上にはほかに誰もいないので、周囲の景色を独り占めして朝食を食べる。 南東には妙高山、遠くに富士山や八ガ岳、南に高妻山、北アルプス、 そして西にはこれから登る焼山がすっきりとした姿を現している。 一息ついたところで、 いよいよ焼山を目指して下る。 最初こそ踏み跡がはっきりしていたが、 やがて草木が踏み跡を覆うようになり、 手探り、足探りで踏み跡を確かめながら進むことになる。 少し傾斜のあるところは、前日の雨で滑りやすく気が抜けない。 場所によっては植物に被われてルートが不明瞭な部分もあるが、 周囲を注意して観察すれば踏み跡が見つかる。 やっと最低鞍部の「胴抜けキレット」にたどり着いた頃には、かなり体力を消耗していた。 草地にはベニヒカゲが舞っていた。 まだ発生初期らしく数は多くない。
 焼山への登りはかなり急である。 上部は植物が少なく石ころが主体の斜面になる。 ところどころの目に付きやすい岩にはルートを示すペンキの印が残っている。 このペンキも20年以上は経っているのだろう。 日を遮るもののない斜面は暑い。 ここを登りきると火口壁に出て、 少し歩けば頂上だった。 夏の快晴の日なので、 もしや他のルートから登ってくる人がいるかもしれないと思ったが、 誰もいなかった。 岩に腰を下ろしてゆっくりと休む。 雲ひとつない天気だが、 休んでいると体が冷えてくる。 やはり2400mの高さまで登ると気温はかなり低いようだ。
 昼食を取ってから、 来た道を引き返すことにする。 胴抜けキレットから火打山までの登りが長い。 背丈の高い草木をかき分けて歩くときは暑さがこたえる。 この時期は植物がもっとも勢いの良いのあるときだから、 うっとうしさもまた半端ではない。 火打山のピークが近づいてきた頃、 草刈りをしている高谷池ヒュッテの若い従業員二人に出会った。 一人は筆者の顔を覚えていて、 「こんな天気のよい日に、焼山を登れてよかったですね。」と声をかけてくれた。 焼山の登山が解禁になりこの日(8月1日)から草刈りを始めたようだ。 草を刈った登山道は、歩きやすい。 いつ草刈りが終わるのか知らないが、 もし草刈りが済めば、焼山への登山道は大変歩きやすくなるだろう。
 火打山の頂上を通って高谷池ヒュッテに戻って、 しばらくベンチで横になって休憩した。 どうも腰が疲れている様子なので腰をのばして休みたかったのである。 これでだいぶ楽になった。 天気が崩れる心配はないし、 日没までに下山すればよいのでのんびりと歩いて笹ガ峰に戻り、 後は車で無事帰京した。
 快晴の日に山歩きができ、充実した一日だった。 だが、長時間の行動は結構腰に負担があったらしく、 二日後に出かけるセラム島への昆虫採集旅行に、 まさかこの日の山行が影響するとは想像できなかった。

歩行記録 2007/07/31 登り2h40m(笹ヶ峰−高谷池ヒュッテ)  
       2007/08/01 登り4h45m(高谷池−焼山頂上) 下り7h50m(焼山頂上−笹ガ峰)

 笹ガ峰の登山口から歩き始めようとしたとき、 目の前を大型の黒っぽいタテハチョウが横切った。 一瞬、オオイチモンジではないかと思い、 近づいてよく見たらメスグロヒョウモンのメスでがっかり。 笹ガ峰にオオイチモンジが現れるはずはないか。
 蝶の頭の方から撮影したかったが、 こちらを向いてくれなかった。(2007/7/31)
カメラはKONICA MINOLTA DIMAGE A2を使用。

 早朝、これから日が差し始めるという時間に高谷池ヒュッテを歩き始めたら、 火打山、焼山が湿原越しに現れた。

 火打山への登りで日が登り始めた。 北アルプスの山並みの上空に月が懸かっている。 快晴の日の早朝は、すがすがしい。

 火打山の頂上直前で登山道脇にライチョウ一家と出会った。 23年前に見かけたライチョウと同一個体が生き残っていることは考えにくい。 果たして何世代目になるのだろうか?

 火打山頂上からの眺望。
 黒姫山(左)から戸隠にかけての山々(右手)が間近に見え、 黒姫山の右奥には飯綱山が顔を出している。 さらに奥には遠く富士山も見えている。

 火打山頂上から、これから登る焼山を眺める。
 焼山の左には尾根続きに金山が見えているが、 その尾根の向こう側に雨飾山の頭部が現れている。 火打山より60mあまり低いので、だいぶ下に見える。
 左手奥は北アルプス。 手前には火打山の影が写っている。
 上空には月が懸かっているのがわかるだろうか。
 この写真を後日、2008年の年賀状に使ったが、 果たして何人がこの月の存在に気付いてくれたことやら。

 焼山の頂上。 火山らしく荒涼としている。 背後に見えるのは北アルプス。
 周りに誰もいない。 夏の快晴の日に、これほどの山を独り占めできる機会はそう多くないだろう。

 焼山から見た火打山と妙高山(右奥)。

[Back]