高隈山(鹿児島県)

たかくまやま 標高1237m。

 高隈山は桜島の南東約20kmにあり大隈半島中央部に位置していて、 大箆柄(おおのがら)岳を最高点とする山群の総称である。 霧島山系や屋久島の山を除くと鹿児島県では貴重な1000mを超える峰々が並んでいる。
 2003年の11月下旬にこの高隈山を訪れた。 天気予報で鹿児島の天気を確認して飛行機の予約を入れたのが、 出発の数日前。 3連休だったので混雑を心配したが、なんとか座席を確保できた。 しかし宿のほうは簡単には見つからず、 結局鹿児島に着いてから空港の案内所で市内のホテルを手配してもらった。 翌朝5時過ぎに天文館通りに近いホテルをレンタカーで出発し、 桜島フェリー乗り場に向かった。 6時のフェリーに乗船する。 東京より西にある鹿児島の夜明けは大分遅く、 真っ暗闇の海をフェリーは進む。 デッキに出ると風が冷たく立っていられない。 船室は人影がまばらだ。 桜島に着いても夜の帳は下りたままである。
 高隈山に登る前に桜島の湯之平展望所に立ち寄る目的でゆっくりと車を走らせる。 桜島のピークは登山禁止の状態が続いていて当分登れそうもないが、 もっとも近づけられるのが湯之平展望所だ。 展望所に着く頃にようやく空が明るくなり始める。 朝の静寂の中で動いているのは一人の老人だけで、 管理を担当しているらしく、 いくつかある双眼鏡を一つ一つ調子を調べて回っていた。 桜島の姿を数枚の写真に撮った後、展望所を離れた。 桜島の南岸を東に走っていると、ちょうど太陽が高隈山から昇ってくるのに気がついた。 路肩に車を止め、カメラを出して写したのが下の写真である。 一日の好天を約束してくれるようなさわやかな日の出だった。 垂水の市内から県道に入って垂桜を目指す。 この県道がけっこう長く不安になったころ高隈山登山口の標識が現れる。 林の中の道を抜けると畑の広がる垂桜の集落である。 ここにも要所要所に案内板があって道に迷うようなことはない。 集落のはずれから未舗装の大野原林道が始まる。 4kmほど走ると登山口の標識がある。 車数台分の駐車スペースがあるが、 まだ誰も来ていない様子だった。 林道の先には妻岳の尖ったピークが見えている。
 さっそく歩く用意をして林の中に踏み込む。 すぐにうっそうと茂る照葉樹林の中の道となる。 落葉樹がほとんどないので、晩秋という季節感がない。 広い尾根をたどるのだが、 雨上がりでもないのに意外と湿っぽく、空気もしっとりとしている。 南国の山にいることを実感させられる。 あとで気温を調べたら、鹿屋市で最低気温が5.1度だったのでずいぶんと低かったはずだ。 にもかかわらず風の通らない林の中を歩いていると汗が出てくる。 30分登ると突然展望の開けた露岩の上に出る。 樹海の向こうに錦江湾と桜島が見える。 ここからまた樹林の中の急登となり、 30分で杖捨祠に着く。 標識の柱がある。 このあたりからは傾斜もゆるくなり、15分で大箆柄岳の頂上に飛び出す。 快晴の広大な青空の下、高隈山のピークと、開聞岳、桜島、高千穂の山々が見える。 こういう素晴らしい展望に出会うと、 やはり山は晴れた日に登るにかぎると思う。 ちょうど大箆柄岳の反対側から登ってきた男性と頂上で一緒になり、 コーヒーをご馳走になった。 聞けば、白山林道からスマン峠経由で登ってきたとのこと。 事前に東京から地元の役場に問い合わせたときは、 白山林道は工事中かもしれないと言われたが、そのような気配はない様子だったという。 風もほとんどなく日差しがあるせいか、 休んでいても長袖シャツ一枚で寒くない。 45分ほど頂上で開放感に浸りながら休んだのち、往路を戻った。 途中で登ってくる男女2人組と出会い、 どちらから来たのですかと聞かれた。 登山口にレンタカーが置いてあったので興味をもったらしい。 その後2組4人とすれ違った。 地元の人はみなゆっくりと出発するようだ。 昼少し前に登山口に着くと、 ちょうどタクシーで下り立った男性二人が歩き始めるところだった。 結局この日に出会った登山者は合計9人ということになる。
 無事登山口に帰り着いたとき、正直なところほっとした気持ちだった。 というのもこの3週間前に熊野古道を歩いたときに腰痛の症状が出て、 今回も不安な気持ちを抱きながら歩いたからだ。
 あとは特に予定もなかったので、 ゆっくりと車を走らせて鹿児島空港に向かい、 飛行機を予定より早い16時の便に変更して帰京した。
 高隈山に登って、一月前に登った秋田県の太平山と類似点があることに気がついた。 もちろん北と南で自然環境の違いはあるのだが、 県庁所在地のわりと近くにあり、低山ながら豊かな自然が残っていて、 昔から信仰の対象として地元の人に親しまれているという点で似ている。 それに頂上から海が近くに見えるのも共通している。
 

歩行記録: 2003/11/23 登り1h25m 下り1h15m

 指宿スカイラインからの展望。 左に桜島、右端に高隈山が錦江湾を隔てて長く横たわっている。 高隈山登山の前日、知覧に足を延ばしたときに撮影した。

 高隈山の背後から登る太陽。
高隈山に向かって、桜島の南岸、古里温泉付近を車で走っているときに出会った。

 垂水から眺めた、朝日を浴びる桜島。

 大箆柄岳山頂。 桜島の噴煙が見えているが、噴火活動は活発ではない様子。

 大箆柄岳から望む高隈山の峰々。 左に御岳、中央に妻岳、右端に平岳。 開聞岳が平岳に重なって霞んで見えているのがわかるだろうか。

 大箆柄岳の三角点があるピークと桜島。 ピークには男性が一人立っている。

 頂上付近で見かけたブナの木。 高隈山がブナの南限と言われている。

 登山口。 長尾コースとも書かれている。
 下山後、12時頃に撮影。 林道の奥には、先の尖った妻岳が顔を出している。

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