太平山(秋田県)

たいへいざん 標高1170m。

 秋田市の北東約20kmの比較的海の近くに位置している。 秋田市近辺の地元の人たちにはよく親しまれている山のようだが、 離れた土地の人には日本酒の太平山のほうが有名かもしれない。
 ここで紹介するのは、2003年の10月の連休に夜行日帰りで登ったときの記録であある。
 10月の体育の日を含む連休は、例年北アルプスや東北の山々が紅葉のピークとなる。 2001年の船形山、2002年の祝瓶山と2年続けて素晴らしい紅葉にめぐり合えたので、 2003年もどこか東北地方の山に登って紅葉見物をしたいと考えていた。 山形あたりの山を候補にして準備していたのだが、 出発の日の朝になって天気予報が変わり、山形県以南は前線の影響で天気が芳しくないという。 そこで急遽秋田県の太平山に目的地を変更し、 その日の夜行寝台と翌日のレンタカーの手配をした。
 11日の夜、小雨の降る東京を特急「あけぼの」で出発。 数年ぶりの夜行寝台である。 3連休のためか乗客が多い。 ぐっすり眠って目を覚ますと波穏やかな日本海が見える。 レールと車輪の作り出す規則正しい音を聞きながら朝の車窓の景色を見ていると、 遠いところまで来たことを実感する。 青空の広がる秋田駅に7時前に到着。 駅レンタカーの事務所は8時半から始まるので、駅前のお店でゆっくり朝食をとる。 8時半少し前に駅近くの事務所に行くとすでに数人の人が待っていた。 駅レンタカーは行楽客の利用が多いのだから、もう少し早い時間から業務を始めるべきだろう。 9時少し前に手続きを終え、 旭又の登山口を目指して車を走らせる。 山の中に入ってから道を確認するのに手間取ったりして少し時間をロスした。 旭又の登山口についたのが10時過ぎ。 広い駐車場は約50台の車で満杯で、 路上駐車することになった。
 10時半に歩き始める。 登山口の標識のそばに、 「注意 山ビル 吸血虫」の看板が立っている。 しかも大きなヒルの絵が描かれていて、いかにも恐ろしそうだ。 こんな北国の山にもヒルがいるなんて知らなかった。 しかし季節は10月だし、気にせず歩くことにする。 橋を渡って山道となるがすぐに幅の広い平坦な道に出会う。 かっての森林軌道跡だという。 このあと宝蔵岳に通じる登山道が右に分岐し、 なおもゆるやかな道をたどって弟子還沢を渡ると御滝神社である。 ここまで30分ほどである。 御滝神社からが本格的な登りになる。 登山道は広い尾根につけられている。 高度を上げるに従い紅葉の鮮やかさが増す。 見事な紅葉にしばし足をとめたくなるような場所がいくつもある。 中腹の御手洗(みたらし)は小広場になっていて絶好の休憩所である。 かわいらしいお地蔵様のそばのベンチに腰掛けて汗をぬぐう。 ここから30分の登りで稜線に飛び出す。 紅葉に彩られてゆったり波打つ山並みが目に飛び込んでくる。 頂上はもう間近である。 途中に金属製のきらきら輝く鳥居をくぐるのだが、 笠木がへしゃげている。 冬の豪雪の仕業なのだろうか。 頂上に着くと大勢の登山者が休んでいた。 うす雲が広がり快晴というわけではなかったが、 秋田駒ガ岳、岩手山、鳥海山、男鹿半島の山など見え、 まずまずの天気である。 休んでいると汗が引いてくるが寒いというほどでもない。
 景色を見ながら昼食をとったのち下山にかかる。 同じ道を戻るのも面白くないので、 宝蔵岳経由で旭又へ下山することにする。 このルートのことはここに来るまで知らなかったが、 旭又から歩いて旭又沢を渡ってすぐ右から合流する登山道に標識があって気がついたのだった。 りっぱな道標があるくらいだから、 道の状態はそんなにひどい状態とは思えなかった。 実際に歩いてみると、御手洗を通る登山道ほどりっぱではなかったが、 総じて歩きやすく静かな道だった。 出だしの太平山からの下りは岩場混じりの潅木帯の尾根である。 宝蔵岳には短いながら鎖場もある。 剣岳への道から分かれてしばらくすると、 今度は仁別国民の森に通じる道と旭又への道の分岐がある。 このあたりは秋田杉の巨木が広葉樹の中に点在している。 純林の杉ではないのが、ここの秋田杉の本来の姿らしい。 静かな森の中をどんどん下ると登りに使った道に飛び出し、 あとはゆるやかな道をのんびり歩くと旭又の駐車場だった。
 下山後、仁別国民の森にある森林博物館を見学した後、 秋田市に引き返してレンタカーを返却し、秋田新幹線「こまち」に乗って帰宅した。
 太平山の紅葉は山の上から見ても素晴らしいが、 林の中から見る紅葉のほうがより見事であると言える。 延々と続く赤や黄の葉に囲まれて歩いていると、 紅葉に酔うような錯覚に陥る。 いろんなところで紅葉を見てきたが、 こんな経験は初めてだった。

 歩行記録  2003/10/12 登り:2h0m  下り: 1h40m

 御滝(おたき)神社の祠。 ここから登山道は広い尾根をたどるようになり、傾斜も急になる。 このあたりはまだ紅葉には早い。
 写真はいずれもOLYMPUS OM-4Ti BLACK・ZUIKO ZOOM 35-80mm F2.8で撮影。

 高度を上げるに従い、紅葉は鮮やかさを増す。 赤だけではなく黄色、橙色などいろんな色が混ざっている。 ここの紅葉は外側から見るより、紅葉の中から見るほうが素晴らしい。

 御手洗(みたらし)は小広場になっていて、 赤い服を着た2体のお地蔵さんが登山者を見守っている。 このあたりの紅葉も見事だ。 傍らには江戸時代の旅行家である菅江真澄の碑がある。

 稜線に飛び出すと紅葉の赤と笹の緑がコントラストを作りだしている。 右手のピークは旭岳。

 頂上。 「三吉神社奥宮」の石柱や鳥居、石碑が立ち並んでいる。 この写真の右手には宿泊所がある。

 頂上から南西方面、剣岳へと続く山並みの眺め。 中央右寄りの手前に宝蔵岳が見える。 はるかかなたには海岸線が見えている。

 太平山から宝蔵岳に向かって下る途中、 弟子還岳付近から振り返って見上げた太平山。 頂上の鳥居が小さく見える。

 弟子還岳の登山道脇にある石の祠。 木の標柱に「弟子還御嶽神社」と書かれている。

 宝蔵岳から仁別国民の森へと続く登山道は、 ブナ林の中の気持ちのよい道だ。

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