猿ガ馬場山(岐阜県)

さるがばんばやま 標高1875m。

 猿ガ馬場山は白川郷を囲む山々の一つである。 どういういわれがあるのか、面白い名前の山である。
 一般には残雪期に登られる山らしいなので、 2006年の5月連休に他の山とともに登ることを計画していた。 ところが、直前になって連休中に海外出張が入ることになり、 当初の目論みがふいになってしまった。 連休後の週末も天気は悪くどこにも出かけられず、 さらにその次の週末の日曜日にようやく晴天がめぐってきた。 どの山を登るか迷ったが、同行してくれる山仲間のSさんと相談し猿ガ馬場山に決めた。
 2006年の冬は記録的な豪雪だったので、 5月下旬になっているとはいえ、たっぷりと残雪があり、 藪漕ぎをしないで済みそうに思えたからだ。
 5月20日(土)昼過ぎにSさん宅を車で出発。 この日は南風が吹き込んで気温が異常に上昇し、 東京も30度近くになり、真夏を思わせるような陽気だった。 ただ大気の状態が不安定で、 関越自動車道、上信越自動車道、北陸自動車道を経由して富山へと向かう途中で、 激しい雷雨に見舞われた。 幸い車の走行に支障はなく、暗くなる前に白川郷に到着し、 荻町のはずれから大牧林道に乗り入れた。 車で登れるとこまで上がって高度を稼ごうという魂胆だったが、 いくらも走らないうちに倒木が道を塞いでいて進めなくなった。 しかたなく、道の脇が広場になっている場所に天幕を張った。
 翌日は全国的に快晴の天気予報だったので、 ゆっくり起床。 このまま林道を歩いて登るべきか、 荻町まで車で戻って、 登山道を登るべきか迷ったが、 大した差はないだろうということになり、 林道を歩くことにした。 6時に出発。 林道からは合掌造りの集落が時折見下ろせる。 歩くに従い、少しもやがかかっていた空も少しずつ青空が広がり、 西側には朝日を浴びた白山から連なる三方岩岳などの山々が見えてくる。 林道はあちこちで倒木が散乱し、 この冬の雪の多さを物語っていた。 1時間ほどで宮谷林道のゲートに着く。 ゲートとはいってもこの前後は相当に荒れていて、 車が通れる状態にはない。 さらに1時間林道を歩いて荻町からの登山道に合流した。 ここでちょうど登山道から登ってきた岐阜県の7人パーティと出会った。 林道を少し歩くと右手の浅い谷筋に赤布が見える。 もっと雪の多い時期にはこの谷を詰めて尾根に上がるようだが、 今は雪がないのでそのまま林道を進む。 宮谷の流れを渡渉するあたりからようやく雪が目立つようになる。 手入れのされていないわさび田までくると、もう一面銀世界である。 ここからは真上の雪の斜面を上がり、尾根に取り付いた。 多少急なところもあるが、アイゼンをつけるほどではない。 高度を増すごとに視界が開けてくる。 傾斜がゆるくなると、 ブナやダケカンバの大きな木が点在する帰雲山の頂上だった。 どうやらわさび田からは夏道とは異なり、 帰雲山から北側に延びる小さな尾根をたどったようだ。
 快晴の上、風もほとんどないので、休んでいても寒くない。 むしろ日陰が欲しいくらいだ。 東には、なだらかでどこが頂上なのかはっきりしない猿ガ馬場山の頂上部が、 すぐ近くに見えている。 小休止して日焼け止めクリームを顔に塗りたくったのち、 猿ガ馬場山に向かう。 いったん鞍部まで下った後、 登り返すが、広い尾根なので視界が悪いときには迷いやすいに違いない。 進むにつれオオシラビソが多くなる。 傾斜が落ちると三角点のある頂だが、 もちろん三角点は雪の下でどこにあるのか見当もつかない。 右に折れて、さんさんと降り注ぐ初夏の日を浴びながら最高点へとゆるい斜面を登る。 最高点らしき場所に着いても、 正確にどこが一番高いのかはっきりしないほど広い雪原に、 背の低いオオシラビソが点在している。 風のない快晴なので、日の光を遮る場所で休憩したいと思ったが、 なかなかよい木陰が見つからず右往左往してしまった。
 南西には白山がその堂々とした巨体を横たえている。 東には遠く北アルプスと思われる山並みが連なっている。 やはり山は晴天が一番いい。
 しばらく休憩したのち、 周囲の写真を撮りながら山を下りた。 午後になって気温はかなり高くなっていたが、 足を取られるほど雪は腐っていないので、 歩きやすかった。 むしろ雪のない林道に出てからのほうが足が重くなった。 雪山用の靴は重たいし普段あまり履かないので、 足がなじんでいないのだ。
 林道上部では越冬したキベリタテハの姿が目立った。 ダケカンバの木が多いので当然かもしれない。 1匹だけだが、ギフチョウと思われる蝶の姿も目撃した。 広葉樹が主体の林なので、 昆虫の種類も多いようだ。 15時半、林道下部の車を止めた場所に戻った。
 翌日の月曜日は休暇を取っていたので、 近くにいい温泉でもあれば泊まるか一風呂浴びたいという気持ちがあったが、 適当な温泉が思い当たらず、結局そのまま東京に帰ることにした。
 東海北陸自動車道を使って富山に出て、 北陸自動車道を東に向かうと、 雪をまとった北アルプス北部の山々が正面に立ちはだかっている。 剣岳や毛勝山塊が西日を浴びて神々しいばかりに輝いている。 こういう景色をふだん見られる人たちがうらやましく思えてくるほど壮観であった。

 歩行記録  2006/05/21 登り 5h20m 下り 3h30m


 帰雲山の頂上近く。 ブナやダケカンバが林立し展望を遮っている。

 帰雲山から見た猿ガ馬場山。 どこが頂上なのかわからない。

 平らで広い猿ガ馬場山の頂上。 丈の低いオオシラビソがまばらに生えている。

 頂上付近から見ると、白山が大きい。

 笈ガ岳、大笠山方面の山々。

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