藤原岳(三重県/滋賀県)


ふじわらだけ 標高1140m。

 鈴鹿山脈の北部、三重と滋賀の県境上にある。 同じ山脈中の御在所山からは北に約15kmの距離である。
 花の種類の豊富なことで有名である。 なかでもフクジュソウで名高いので、 その花期に合わせて登りたいと思い、2004年の早春に出かけた。
 一日を有効に使うため、 金曜日の夜行列車か夜行バスで出発して朝早くから登るつもりだったが、金曜日の晩に用事が入り、 土曜日に新幹線を利用した日帰りとなった。 しかし幸い天気に恵まれ、多少あわただしかったが充実した一日を過ごすことができた。
 早朝の新幹線「のぞみ」で名古屋に向かい、 近鉄線の「近鉄富田」駅で、三岐鉄道に乗り換える。 最新の技術で作られた新幹線、中距離の私鉄急行、 最後に単線のローカル線と順に電車の速度が落ちてくる。 それに合わせて人間のリズム感覚に近くなってくるのは、 最後は自分の足だけがたよりの山登りだから好ましいと言える。 2両編成の三岐鉄道の電車に乗客はまばらである。 のんびりと景色を楽しみながらと言いたいが、電車はけっこう揺れる。 山すそに向かって進む車窓からは、 春の陽光を受けた鈴鹿の山並みが西の空の下に連なっているのが見える。 その山々の中の主だったピークを左から順に拾っていくと、 鈴鹿山脈の盟主で大きてごつごつした御在所山、 その右隣にどっしりとした山容の釈迦ガ岳、 さらにその右側になだらかな竜ガ岳、一番右の端が藤原岳である。 藤原岳の斜面は、石灰石の採掘のために大きく削られているのが痛々しい。 これらの山並みと沿線の風景に見とれているうちにあっという間に45分が過ぎて、 10時少し前に近代的な駅舎の西藤原駅に到着した。 下車したのは登山の服装をした人たち10人ほどだけである。 全員藤原岳を目指している様子だった。
 今回は、登りに聖宝寺道をたどることにしていたので、 舗装道路を歩いて聖宝寺に向かった。 桜はまだつぼみである。 東京の桜はすでに開花しているので、このあたりは東京より春が遅いようだ。 聖宝寺の裏から登山道が始まる。 杉林の中に道が切られている。 五合目を過ぎて少し登ると、雑木林に変わり尾根に出る。 このあたりからフクジュソウが現れ、 日陰には残雪も出てくる。 大貝戸道と合流する八合目は、たくさんの人達が休憩していた。 この先からは残雪が多いため、道はぬかるんで滑りやすい。 九合目にはセツブンソウの花も見られるが、花が小さいため注意しないと見過ごしてしまう。 ここから避難小屋に続く道の脇にはフクジュソウの数がさらに増して目を楽しませてくれる。 避難小屋の周囲も一面にフクジュソウが咲いている。 フクジュソウは予想していたより広く分布している。
 小屋の南面が開けていて、 正面には丸い頂を持つ藤原岳が間近に望まれる。 小屋と藤原岳の間は緩やかな斜面でカルスト台地になっているようだ。 雪が多そうなので、ここでスパッツをつける。 藤原岳に向かって、枯れた笹の原の中の道jを進む。 雪が途切れたところでは大変なぬかるみで、 まるで泥田の中を歩く感じである。 小屋から約20分で頂上だった。
 周囲の景色を見ながら簡単な昼食を取った後、往路を戻った。 避難小屋からの下りは、登ってくる人達に道をゆずるためになかなか思うように進まない。 13時を回っているというのにまだ大勢登ってくるのである。 中には泥の下の凍った雪に足を取られて転ぶ人がいたりでさらに速度が遅くなる。 あまりにゆっくりしたペースに業を煮やして、ルートでない斜面を下り始める人もいたが、 植生をいためることになるのでここは我慢して登りの人達が通過するのを待つことにする。 どうやらこんな遅い時間に登ってくるのは、大半がバスでやってきたツアー客のようである。 八合目からは往路と分かれて大貝戸道を下ることにした。 こちらのほうが歩きやすい。 さすがにこのころになるともう登ってくる人もいないので、 待たされることもなく下ることができた。 西藤原駅に15時過ぎに到着。 朝と同じく三岐鉄道、近鉄、新幹線と乗り継いで、 20時に帰宅した。
 好天に恵まれ、フクジュソウを堪能できた一日だった。 喧騒を避けて山を楽しむには週末は避けたほうがよさそうである。

 歩行時間 2004/03/27 登り2h35m(西藤原駅−頂上) 下り2h10m(頂上−西藤原駅)

 避難小屋の前の広場で休む登山者。 正面に藤原岳が見える。 小屋の周囲にもたくさんのフクジュソウが花をつけている。

 頂上から南側の眺め。 竜ガ岳など鈴鹿の山並みが続いている。 反対側には白山も見えていた。

 フクジュソウ。九合目で。 石灰岩がごつごつと突き出ている林の中で、 黄色い花は目立つ存在だ。

 九合目で見かけたセツブンソウ。 日の光を浴びようとするためか、 精一杯花びらを広げている。 といってもこの白い花弁状のものはがく片だそうで、 黄色の部分が退化した花弁。 花が小さいので、よほど気をつけていないと見過ごしてしまう。

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