大千軒岳(北海道)

だいせんげんだけ 標高1072m。
渡島半島の南西、松前半島の最高峰である。
2003年夏、知内川コースから頂上を往復した。
より簡単に頂上を踏める松前新道コースもあるが、
この山の金山やキリシタン迫害の歴史に思いをはせると、知内川コースをまず歩いておくべきだと思ったからだ。
前日は東京から飛行機で函館に入って、函館市内に宿泊していた。
事前の天気予報では天気が良くなさそうだったので、函館で時間をつぶすことも考えていたからだ。
ところが、ホテルでテレビの翌日の天気予報を見ると悪くない。
そこで、早朝に函館市内のホテルをレンタカーで出発し、千軒から住川林道に入り登山口の駐車場に着いたのが6時半。
すでに2台の車が停まっているが、周りに人の気配がない。
コンビニで買ったサンドイッチで簡単な朝食を済ませ、
7時少し前に歩き始める。
二股沢にかかる吊橋を渡ると本格的な登山道になる。
しばらく沢沿いに進むと、フライフィッシングをやっている男性に出会う。
てっきり駐車場にあった車は登山者のものだと思っていたが、違っていたようだ。
やがて登山道は右岸を大きく高巻いた後、広い川原に出る。
広河原と呼ばれている場所だ。
ここで飛び石伝いに左岸に渡る。
さらに沢沿いに徐々に高度を上げていくと十字架のある金山番所跡だ。
ざっと見回した限りでは金を掘っていた時代を偲ばせるようなものはなにもない。
江戸時代によくもこんな山奥に大勢の人が暮らしていたものだと思う。
下界に通じる道が今の登山道と同じ程度だったとしたら、食料を運ぶだけでも大変だったに違いない。
ここから少し歩くと川原に出て、さらに登ると千軒銀座と呼ばれる広い傾斜地の川原に着く。
ここで沢筋から離れて尾根に取り付き、いよいよ急登が始まる。
大きなブナの木の茂る尾根だが、下草が少ないのでズボンが朝露で濡れないのがいい。
高度を増すとブナからダケカンバへ、さらに笹へと植生が変わる。
尾根の上部には雲がかかっているためどこが稜線なのかはっきりせずいらいらする。
千軒銀座から1時間、色とりどりの花が見え出すとやっと十字架が見えてきて稜線に着いたことがわかった。
ここは千軒平と呼ばれている場所だ。
晴れていれば見えるはずの大千軒岳の頂上は雲の中である。
小休止してから頂上に向かってお花畑の中の登山道をたどる。
このあたりは森林限界が1000m以下にまで下がっている。
冬季の風のせいなのかそれともほかの原因があるのか不思議である。
途中でこの日初めての登山者のグループと出会った。
松前新道から登ってきた人たちだった。
千軒平から30分で頂上だった。
なんと頂上には青空が広がっている。
前日の天気予報では晴れのはずがどうして曇っているのか不思議に思いながら歩いてきたのだが、頂上に来てその理由がわかった。
江差方面つまり日本海側は快晴で、桧山支庁が晴れという予報通りなのだった。
対照的に津軽海峡側は雲でびっしり覆われている。
高さが20mも違わない前千軒岳も、東側から流れてくる雲に覆われていて姿が見えない。
大千軒岳の頂上もかろうじて雲の上に顔を出している状態だ。
津軽海峡側の雲が減るのを期待して20分ほど頂上で休んでいたが、一向に雲が薄くならないのであきらめて下山にとりかかった。
頂上を下ってすぐの南向きの斜面に千軒清水という湧き水が流れ出ている場所があり、ここで咽喉を潤してから千軒平に向かって往路を戻った。
8月になればベニヒカゲが舞うという草原だが、まだまったくその姿が見えない。
千軒平から急坂を下った千軒銀座からは、今回の登山の目的の一つであるオオゴマシジミの姿を求めてゆっくり下る。
特にガレ場の周辺は気をつけて見回したのだが、やはり時期が早すぎたのだろうか、気配すらなかった。
金山番所跡にさしかかると家族連れを含む大勢の人たちが集まっている。
どうやら年1回行われる追悼ミサの日に出くわしたらしい。
ちょうどミサが終わってこれから引き返す準備をしているところだった。
13時少し過ぎに登山口の駐車場に戻ると、車は20台近くに増えていた。
オオゴマシジミの姿を見られなかったのが残念だったが、予想以上に見事な山上のお花畑に感激した一日だった。
次の目的は狩場山なので、この日は江差に宿を取ることにし、大千軒岳を後にした。
山行記録: 2003/07/27 登り3h00m(登山口−頂上) 下り2h50m(頂上−登山口)
奥二股沢にかかる吊橋。
登山口の駐車場からすぐの場所にある。
この橋を渡ると本格的な登山道が始まる。
写真は、すべてNIKON COOLPIX 5700で撮影した。
金山番所跡。
往時、たくさんの人が暮らしていたことを想像するのは難しいほど豊かな緑に囲まれている。
帰路、偶然にミサに参加した人たちに出くわした。
毎年7月の最終日曜日にミサが執り行われるようで、
大勢の人たちが集まっていた。
尾根の上の千軒平に出るともう一つの十字架に出会う。
草原の上で見晴らしのよいはずだが、あいにく雲がかかっていた。
お花畑の中に付けられた登山道。
色とりどりの花が見られるが、場所によって種類の多い、少ないがあるようだ。
千軒平から大千軒岳に続く尾根の上は、一面のお花畑だ。
晴れていたほうがよかったに違いないが、
雲の中のお花畑も幻想的な雰囲気で悪くはなかった。
ピンクの花がイブキトラノオ、黄色の花がエゾカンゾウ(ニッコウキスゲ)。
タカネナデシコ。頂上近くで見かけた。
一等三角点のある頂上。
左手に見える標石には、
1896年に北海道で最初に撰点された三角点を記念して記念碑を作ったことが記されている。
下の写真がその文面である。
北から西にかけては青空が広がっているのに、
東側は雲で覆われていた。
後日(7/31早朝)、千軒から住川林道を少し入ったところから見上げた大千軒岳(右端)。