荒沢岳(新潟県)

あらさわだけ 標高1969m。

荒沢岳は、越後駒ガ岳と中ノ岳のすぐ東側にあり、6、7kmしか離れていないが、 山容は名前に表わされているように個性的な姿を持っている。 高さが2000mに少し足りないものの、周りの山と比べてそう見劣りするものではない。 この地域にあっては見逃せない名山の一つだが、 新潟県の平地つまり六日町盆地から見えないので損をしているようだ。
 筆者もいつかこの山に登りたいと考えていながらなかなか機会がなく、 2002年の秋になって、会社の山仲間のSさんと頂上に立つことが出来た。
 当初の予定では、3連休を利用してゆっくり登るつもりでいたが、 好天は最初の1日だけという天気予報で、 車を使った夜行日帰りとなってしまった。 金曜日の晩、Sさん宅に寄って関越自動車道を走り、銀山平に着いたのが夜中の2時ころだった。 シルバーラインのトンネルを出て日光橋を渡ると、T字路の右角に銀山茶屋がある。 その向かい側が空き地になっているので、車を停めテントを張って仮眠した。 翌朝、テントを畳んで6時少し前に歩き始めた。 晴れの予報だが、銀山平一帯は深い霧に包まれていた。 5分ほど舗装道路を西に歩くと登山口である。 ここから林の中をいきなりの急登となる。 30分くらいで前山のピークに出る。 このころから、霧が薄れ始めたためか霧の上に出たためかわからないが、 視界が開けて樹間から荒沢岳の姿が見えてくる。 ここから前ーの基部まではいったん下って、だらだらとした稜線歩きである。 天気の心配もなく先を急ぐ理由もないので、秋になって残り少なくなった花を観察したりしながら歩く。 コースの核心部である前ーの岩場は、東面を巻くようにルートが付けられている。 この岩場には鎖がいくつもかけられているが、 ホールドがしっかりしていてフリクションがきくので案外快適に登れる。 息を切らしてたどりついた前ーのピークは、絶好の展望台で一休みするのによいところだ。 正面には、荒沢岳が翼を大きく広げたような格好で迫っている。 前ーから先は尾根通しの道となり、花降岳に通じる稜線に突き上げれば頂上も近い。 先行者の5人がいる狭い頂上に着くと、360度の景色が待っていた。 歩けば汗の出る陽気だったが、9月下旬の2000mに近い山頂はもう秋の気配で、 しばらく休んでいると汗も引いてくる。 少々不愉快だったのは、地面に羽アリがいっぱいいて、よそ見をしているとすぐにまとわりついてくることだった。 もっとも、羽アリにとっては突然現れた人間のほうが邪魔者だったのかもしれないが。
 食事をしながら山座同定をしたりして約50分の休憩の後、頂上を後にした。 下り始めて間もなく頂上には雲がかかり始め、 前ーに着く頃には上部は雲に被われていた。 どうやら天気予報通り、天気は下り坂に向っているようだった。 前山のピーク手前まで戻ると、道が二手に分かれる。 登りとは別の左側のコースを取って下ると、伝之助小屋の少し西側の登山口に出た。 あとはすすきの穂が揺れる舗装道路を10分歩くと車を置いたT字路だった。
 このあと、一日の汗を流すため、大湯温泉のユピオに寄ってから帰京の途についた。 ユピオは近代的な温泉施設だが、我々が入ったときには数人の利用者しかいなかった。 土曜日の午後に、こんなに人が少なくて経営が成り立つのか心配になったが、 地元の人は稲刈りで忙しく、温泉どころではないということのようだった。

 [追記] 荒沢岳は日本山岳会編の三百名山に含まれていない。 2007年10月に三百名山を登り終えての感想は、 他のどれかと差し替えても、荒沢岳を三百名山に含める価値があると思う。

歩行記録: 2002/9/21 登り4h05m 下り3h10m

 荒沢岳と前ーの岩場。
 前ーへの登山道は、写真の中央に見えているように、 東側斜面の岩場を巻くように付けられている。 鎖場の連続するところだが、 フリクションがよくきくので、それほどに緊張する箇所はなかった。

 前ーからの荒沢岳。 ここからは忠実に尾根伝いの道になる。

 荒沢岳の頂上。
 背後に越後駒ガ岳が見える。


 山頂から西側に眺め。
 左に中ノ岳、右に越後駒ガ岳、その中間の尾根の向こう側に八海山が頭の一部を出している。


 頂上からの景色。
 右側になだらかなスカイラインを描いているのが平ガ岳、 左手奥、雲の下で霞んでいるのが燧ケ岳。

 山頂から少し下ってから振りかえって見た頂上。
 この付近は、ハイマツを含む背丈の低い潅木に被われている。 そのうちの一部の葉が色づき始めていたが、本格的な紅葉はまだ先のようだった。


 上の写真とほぼ同じ場所からの東側の景色。
 右端のピークは花降岳、眼下に見える水面は奥只見湖。


 前ー東面の岩場を下るSさん。 このあたりはまだ太陽が出ているが、荒沢岳頂上には雲が被い始めていた。

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