薬師寺(奈良市) 2010年 10月
 薬師寺は法相宗の大本山。
 7世紀末に創建され、その後の平城遷都に伴い、 718年に飛鳥から現在地に移されたという歴史を持つ。
 筆者が訪れたのは2010年10月。 少し前から、有名な東塔が2010年秋から解体修理に入ると発表されていた。 解体修理が始まれば、葯10年間は東塔の姿を見ることができないので、 なんとしてもその前に東塔を見ておきたかったのだ。
 週末の人ごみを避け、平日に訪れたのだが、修学旅行生の波だけは避けられなかった。
 西ノ京駅からさほど遠くないが、こちらからだと表側の中門ではなく、興楽門(よらくもん)から入ることになる。
 興楽門から近い大宝蔵殿では、ちょうど特別公開が行われていたので、これも覗いてみた。 「吉祥天如のすべて」と題して、吉祥天女画像や吉祥天立像が公開されて、なかなか興味深いものだった。
 次いで、いよいよ白鳳伽藍の中心部へと進む。 大講堂や金堂、東塔、西塔などが視野に入る。 薬師寺の伽藍で、創建当時からの建物は東塔しか残っていない。 この三重塔でありながら裳階を加えると六重に見え、しかも鈍重にならずリズミカルで調和のとれた気品のある姿はやはり稀有な存在と言える。 他の西塔や金堂、大講堂、中門といった伽藍は昭和の時代に再建されたものだから、まだしっくりと周囲の環境に溶け込んでいるとは言い難い。
 東塔に次いで古い東院堂(13世紀末の建立)に入ってみる。 ここには、国宝 聖観世音菩薩が安置されている。
 次いで、金堂内の国宝・薬師三尊像を拝観。 薬壺を持たない薬師如来坐像を真ん中にして日光菩薩像と月光菩薩像の両脇侍で構成されている金銅仏である。 造像当初は鍍金が施され金色に輝いていたそうだが、今は漆黒である。 目を引くのは、両脇侍像の強調された胴のくびれだ。 それと共に、首、腰、膝をひねって立つ姿で、体の動きを示唆するものとされる。 このポーズはトリバンガ(三曲法)と呼ばれることを後日知ったのだが、古代インドから中国を経由して日本に伝わった様式という。 像全体からも、諸外国からの影響を強く感じさせる。
 金堂内の拝観後、玄奘三蔵院伽藍を見て薬師寺をあとにし、唐招提寺へと向かった。

 2011年初頭、「仏教伝来の道 平山郁夫と文化財保護」 と題する特別展が上野の国立博物館で開かれたので見学してきた。 薬師寺玄奘三蔵院に展示されている壁画がそっくり引っ越し展示されていた。 薬師寺での展示より絵に近づくことができるため、仔細に鑑賞できてよかった。
(2011年2月6日加筆)

 上記の拝観から12年後の2022年の5月、再び薬師寺を訪れる機会があった。 その間に、東塔の解体修理が終わり、新しく食堂(じきどう)が2017年に完成していたが、基本的な印象は変わらない。 奈良にはいくつも大寺院があるが、白鳳時代の雰囲気をしのばせてくれるのは薬師寺をおいてほかにないことを再認識できた。 境内を見て回るだけでも創建当初の趣きを感じ取れるし、もちろん国宝指定で銅造の薬師三尊像や聖観音立像などの仏像は何度見ても素晴らしい。 加えて今回は、東塔の相輪を構成している水煙を間近に見ることができた。 東塔の解体修理の際に創建以来1300年間塔の上に置かれていた水煙が新調された水煙に替えられ、西僧坊に展示公開されていたからだ。 水煙は銅製で飛天像が透かし彫りされている。 緑青と思われる緑色を帯びているが、その大きさ(長さ約1.9m)と見事な造形美は1300年前に作られたのが信じられないほどで一見の価値がある。
(2022年6月1日加筆)


 西ノ京駅プラットホームに建つ薬師寺と書かれた石柱
 上り線ホームに降り立ち、電車が走り去ったあとに 線路越しに下り線ホームを見ると、立派な石柱が見える。 屋根も特別にしつらえてあるようだった。
2010/10/22撮影

 薬師寺の東塔
 古都奈良を象徴するだけあって見事な均整美と落ち着いた色合いだ。
2010/10/22撮影
 塔の最上部に据えられた相輪を構成する銅製の水煙は、2009年から始まった東塔解体修理の際、新調されたものと交換され、オリジナルは西僧坊に展示されていた。
2022/5/22撮影

 東院堂(国宝)
 現在の建物は、鎌倉時代の1285年に再建されたもの。
 この中に白鳳時代の聖観音菩薩像(国宝)が安置されている。
2010/10/22撮影

 正面から見た金堂
 建物は1976年に再建されたもので、ご本尊の薬師三尊像が祀られている。
2010/10/22撮影

 大池越しの薬師寺伽藍の眺めは有名である。 薬師寺のパンフレットの表紙(2011年当時)にも採用されているので、 実物を見たくなり、この日の奈良見学(薬師寺、唐招提寺、興福寺)の帰り道に 再度、西ノ京駅に降り立ち、大池まで足を延ばした。 一通り写真を撮ったあと、駅に向かって歩いていると、道路の正面に東塔と西塔が見えていた。 大池越しに見ると、左に西塔があるのだが、この写真の場所からはそれが入れ代わり、西塔は右側に見えている。 少し、電柱や電線がうるさいけれど、塔のある風景は古都らしくていい。
 2つの塔は、微妙に姿が異なる。 最上部の屋根の傾斜もその一つ。 こうやって少し離れた位置から見ると違いがはっきりとわかる。
2010/10/22撮影

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