八坂庚申堂(やさかこうしんどう)は、東山区の「八坂の塔」(五重塔)の前の坂道(八坂通)を少し下った左手にある。
赤い門が目立つので、気になって覗いてみる観光客も多い様子だ。
筆者も、最初に通りかかった数年前のときは予備知識がなく、カラフルな「くくり猿」がたくさんぶら下がっている見慣れない光景に、
なんのことやらわからず戸惑った記憶がある。
八坂庚申堂は通称で、正式には大黒山金剛寺と称する天台宗の寺院で、創建は平安時代に遡るらしい。
調べてみると、庚申(こうしん)信仰で有名なお寺で、
四天王寺庚申堂(大阪)、入谷庚申堂(東京、現存せず)とともに日本三庚申の一つとされていることがわかった。
庚申信仰とは、平安時代に中国から伝わった道教起源の信仰である。
60日ごとに巡ってくる庚申の日に、体内にいる三尸虫(さんしちゅう)がその人の寝ている間に悪行を天帝に報告し、早死させるとされる。
長生きするためには、庚申の日を夜通し起きていて、三尸虫が体外に出ないようにしなければならず、
江戸時代には仲間同士で集まって寝ずに過ごすこと(庚申待)が盛んに行われたという。
今ではそういう風習はすたれてしまったが、庚申の日を縁日として各種の行事を行うお寺もけっこうあるようだ。
筆者の住む東京では、柴又帝釈天が庚申信仰で有名だ。
さて、八坂庚申堂だが、まず朱色に塗られた山門が人目を引き、門の上を見ると、三匹の猿の像が乗っかっている。
見ざる、言わざる、聞かざる、を表す三猿である。
猿は庚申の申(さる)に通じるため、庚申信仰と結びついたらしい。
山門から境内に入ると、正面にこじんまりとした本堂があり、その前に賓頭盧尊者(びんずるそんじゃ)の木像が置かれている。
体の悪い部分を撫でると治るとされる賓頭盧尊者の像自体は珍しくはないが、その周りを色とりどりの「くくり猿」がぶら下がっているというのは、ほかでは見かけたことがない。
「くくり猿」とは、手足をくくられた猿で、欲望を抑えて願い事をかなえてもらうためのものという。
ほかにも庚申の日には、こんにゃく炊きなどユニークな行事が行われるらしく、庶民に人気のあるお寺のようだ。
世の中には、いろんな興味深い風習や信仰形態を受け継いでいるお寺があるものだ。
写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。