唐招提寺(奈良市) 2010年 10月
 唐招提寺(とうしょうだいじ)は律宗の大本山。
 私も含めて、鑑真和上ゆかりのお寺としてのほうがよく知られているだろう。
 訪れたのは2010年10月。 近くにある薬師寺を訪れたあと歩いて移動し拝観した。 薬師寺からの道は、大して距離もない上、築地塀や松の並木などが、古都らしい趣を感じさせてくれる。 歩道と車道が分離されていれば、もっとよいのだけれど。
 南大門を通って境内に入ると、正面に8世紀後半建立の金堂が目に入る。 前年の2009年に平成の大修理が終わったばかりである。 寄棟造の屋根の曲線、前面の8本の丸い柱が均整のとれた調和を作っていて、大棟には鴟尾が置かれている。 ただし、江戸時代の修理時に屋根は2m以上高くなったそうで、建立時の姿は今とは違っていたらしいが、奈良時代建立の金堂として唯一現存する貴重な建築例であることに変わりはない。 堂内には、国宝の盧舎那仏坐像、薬師如来立像、千手観音立像などの仏像が安置されている。 いずれも大きな像で、廬舎那仏坐像と薬師如来立像は増高が3mと超えるし、千手観音立像にいたっては5mを越える巨大さで、しかも実際に約1000本の手を持つ珍しい作例だ。
 金堂の裏には講堂があり、こちらも8世紀後半の建物だが、入母屋造のためか外観から受ける印象は異なる。
 ほかにも8世紀に作られた校倉造りの経蔵、宝蔵、それに新宝蔵に収蔵されている如来形立像など見どころは多い。 これら伽藍や仏像だけで十分印象的なのだけれども、鑑真和上の墓所である開山御廟に続く落ち着いた風情の道や、御影堂周辺の緑に囲まれた静寂さもなかなかいい。
 近くにある薬師寺と続けて拝観すると、どうしても2つの寺院を比較してみたくなる。 薬師寺が現在地に移ってきたのが8世紀前半で、唐招提寺の創建が8世紀後半とみられるから時代としてはそれほど離れているわけではない。 しかし、受ける印象はかなり異なる。 薬師寺が白鳳時代の趣きを残した華やかな外観の伽藍(東塔を除いてほとんどが戦後の再建だが)で統一されている印象が強いが、唐招提寺の伽藍はより落ち着いていて華やかさはない。 なにより境内を歩いて目につくのは、緑の多さである。
 鑑真和上の日本への渡航を題材にした小説といえば、井上靖の「天平の甍」が有名である。 遅ればせながら文庫本で読んでみると、当時の危険な航海に伴う苦労がよくわかる。 日本にたどりついたのは66歳のときで、最初の渡航計画から12年後のことである。 5回の渡航失敗と失明にも屈せずに日本へ渡ってきた鑑真の気迫にあらためて感心させられる。 平均寿命の短かった当時の66歳といえば、大変な高齢だろう。 それに、鑑真和上の招へいにかかわった多くの日本人と中国人がいたことも忘れることはできない。

 上記拝観の12年後の2022年5月に、薬師寺と唐招提寺を再訪する機会があった。
 両寺院から受ける印象は基本的に12年前の上記と変わらないが、主に仏像について若干追加しておきたい。
 唐招提寺境内には緑が多いという景観上の違いに加え、所蔵する仏像から受ける印象が2つの寺院でかなり違う。 薬師寺で代表的な仏像と言えば、銅造の薬師三尊像と聖観音立像が真っ先に上げられ、体形やポーズにインドなどからの影響を連想させる。 一方、唐招提寺では、金堂に祀られている巨大な乾漆廬舎那仏坐像、木心乾漆薬師如来立像、木心乾漆千手観音立像が目を引くだけでない。 新宝蔵に収められている「唐招提寺のトルソー」として名高い木造如来形立像や、鑑真と共に唐から来た工人によって作られたと言われる薬師如来立像、獅子吼菩薩立像、衆宝王菩薩立像などの木彫像の一群も独特の味わいがある。 丸顔で厚味のある堂々した体躯などおおらかで大陸風と称される作風は、その後の日本の木彫像に大きな影響を与えたとされる。 新宝蔵は拝観料が別途必要なのだが、仏像好きには見逃せない場所だ。
(2022/6/7加筆)


 正面から見た金堂(写真上、2022年撮影)は、優美な曲線を描く寄棟造りの屋根の曲線が印象的だ。
 金堂正面に近寄って見ると、深い軒の下に丸い木の列柱が並ぶ吹き放しとなっているのがわかる。 建立当初は、両端に回廊が接続されていたそうで、そう言われれば回廊の一部のようにも見える。
 現在は、吹き放し空間より内部には入れないので、金網越しに仏像を拝観することになる。
2010/10/22撮影

 入母屋造の講堂は、金堂とは違った外観をしている。
 こちらは、内部に入って弥勒如来坐像などの仏像を拝観できる。
2010/10/22撮影

 戒壇
 唐招提寺を特徴づける伽藍の遺構である。 これだけ見ると、なにか異国的な石の文化圏の香りを感じる。
 石段の上にある宝塔は、昭和になってインド・サンチ―の古塔を模して作られたものという。
 かって石段の上にあった建物はどんなものだったのだろうか。
2010/10/22撮影

 御影堂周辺の道はとても静かで、ゆったりと歩くことができる。 舗装されていないのがいい。
2010/10/22撮影

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