東寺(京都市) 2010年2月  2011年4月
 教王護国寺とも呼ばれる八幡山東寺は、弘法大師空海ゆかりのお寺であり、真言宗総本山である。
 ここの五重塔は大変目立つ存在である。 東京方面からの新幹線が京都駅を通過する際にまず目につくものと言えば、進行方向左手に見える 東寺の黒っぽい五重塔だ。 現在の塔は、江戸時代初期に建てられた5代目で、高さが55mある。 現存する日本一高い木造塔というから、目立つのも道理である。
 筆者が2010年2月に訪れたときは、普段非公開の塔内部が公開されていた。 外観は黒っぽい色合いのため、地味な印象を受ける。 ところが、建物内部には両界曼荼羅などが描かれ、金剛界四仏像と八大菩薩像が安置されているので、 その装飾性に富んだ色鮮やかな世界(今は色あせているけれども)と、外観との違いに正直少々戸惑った。 東寺が真言密教のお寺であることがわかる。
 五重塔のほかにも見どころは多い。 特に、講堂内部は東寺と密教世界を知るためには必見。 講堂には、大日如来を初めとする如来像、菩薩像、明王像、梵天、帝釈天、不動明王などの 密教世界を表現したとされる仏像群(立体曼荼羅)が安置され、質量ともに圧倒される。
 これに対し、金堂(現在の金堂は桃山時代に再建)は東寺が空海に下賜される以前に建てられた経緯から、薬師三尊像が安置され、密教世界とは異なる空気が支配している。

 2回目の訪問は2011年4月11日で、夜桜のライトアップのときだった。
 当初、2011年の東寺のライトアップは、3月26日から4月10日までと予告されていたのが、桜の花の開花が遅れていて1週間延長になっていた。 延長されていることを京都駅に来て知り、用事が終わったあと時間のやりくりをして東寺を訪れた。
 18時に始まるライトアップに合わせて慶賀門を入る。 門には、「被災地への祈りをこめて 夜桜ライトアップ」の看板が立てかけられていた。 3月11日の東日本大震災のあと、関東では節電でライトアップどころの話ではなく、普通の生活が続いている関西は別世界の雰囲気だった。
 境内に入って食堂(じきどう)の横まで来ると、まだ明るみの残っている夕空に、 ライトアップが始まった五重塔と満開の不二桜が現れる。 ポスターなどに使われるだけあって幻想的な光景が広がる。 不二桜のほかにも庭園内には桜がたくさんあり、見ていて飽きない。 人の数も案外少ないので、写真を撮るときにも周りをあまり気にする必要がなかった。 ライトアップの期間が延長されていることを知らない人たちが多いのかもしれない。
 ただ、桜の時期は昼は暖かくても夜は冷えることが多い。 この日も夜になって気温が下がって、風がとても冷たく、19時に東寺を後にするころには、 体が冷え切っていた。
 でも、桜と五重塔の組み合わせが堪能できたので、十分満足でき印象に残るひとときだった。

 もう一つ東寺で有名なものに弘法市がある。 毎月21日に開催され、骨董や食料品、植木、雑貨などの露店が朝早くから並ぶ。 2012年になってようやく見る機会があったが、その規模に圧倒された。 広い境内に所狭しと露店が並ぶのである。
 今回は次の予定があって買い物はしなかったけれど、ゆっくり掘り出し物を探しながら歩くというのも楽しいに違いない。

 2019年には、東京国立博物館で特別展「東寺」が開催された。 東寺に伝わる曼荼羅や仏像などが展示されていて興味深かった。 中でも印象に残ったのは、空海直筆の書「風信帖(ふうしんじょう)」と兜跋毘沙門天(とばつびしゃもんてん)立像だ。
 空海は三筆の一人で、最澄に宛てた書状「風信帖」は国宝に指定されている。 この中で、空海が創作したとされる「毎+水」の字を、海の字の代わりに使って自署している部分を見ることができた。 実直で生真面目だったと伝えられる最澄が、この文字を見てどのように反応したのだろうかと想像したくなる。
 兜跋毘沙門天立像は、ふだんは東寺宝物館に安置されている唐時代の像で、高さが2m近い。 かって平安京羅城門の楼上に安置されていたとされ、羅城門の倒壊後、東寺に運ばれたという。 地天女と2匹の鬼に足元から支えられ、大陸風の鎖を編んだ鎧の衣装をまとった毘沙門天は、日本人の目からは異国風に見える。 極端に吊り上がった目とくびれた胴も目を引く部分だ。 また、毘沙門天は男神のはずなのが、なんとなく女性っぽく見えてしまう。 それはともかく、彫像として魅力的なので、これを基に日本各地で兜跋毘沙門天像が模造されたのもうなづける。
(この項、2019/4追記)

 写真は、RICOH GX200およびPENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。


 南大門から見た五重塔。
2010/2/25撮影

 堂々たる構えの金堂。 中に、薬師三尊、十二神将がある。
 左手に見えているのは講堂。
 金堂、講堂とも現在の建物は再建されたものだが、時期が違うためか、 様式が異なる。
2010/2/25撮影

 金堂
 夜、ライトアップされた金堂は、昼間とは異なる雰囲気になる。 ライトアップ時間中、建物内部へは入れない。
2011/4/11撮影

 講堂
 ライトアップは夕方6時に始まる。 この写真を撮ったのは18時15分でまだ空に明るさが残っていた。
2011/4/11撮影

 不二桜(左)と五重塔
 ライトアップが始まった直後の18時5分頃で、空はまだかなり明るい。 不二桜は、2006年に移植された八重紅枝垂れ桜で、いまや東寺のシンボルの一つに なっているようだ。
2011/4/11撮影

 18時45分ごろ、五重塔と不二桜がライトアップで浮かび上がっていた。
 弘法大師の時代から長い間、電気のない時代の夜は真っ暗だったわけで、 昔の人がライトアップされた五重塔を知ったらびっくりすることだろう。
2011/4/11撮影

 毎月21日は弘法大師空海の命日にちなむ弘法市の日である。 一度は覗いて見たいと思っていたが、実現したのは2012年の6月。 7時過ぎに東寺に着いたときは、すでに多くの人が集まっていた。
 規模の大きさに圧倒される。 骨董品はもちろん、食べ物、野菜や植木などなんでもありそうだ。
 写真は、南大門から見た弘法市の様子。朝8時ごろ。
2012/6/21撮影

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