四天王寺(大阪市) 2010年 11月
 山号は荒陵山(あらはかさん)である。
 聖徳太子が建立を開始されたのは593年と言われるから、大変に古い歴史を持つ。
 現在は、和宗の総本山である。 和宗とは聞きなれない宗派名だが、仏教諸宗派にとらわれない全仏教的な立場をとる という意味からのものらしい。 和宗の「和」は、聖徳太子十七条憲法の「和をもって貴しとなす」から来ている。
 筆者は大阪には何度も足を運んでいるが、ほとんどが仕事のためで、 大阪の中心部をゆっくりと歩いたことがあまりない。
 それでも四天王寺には今まで2回訪れている。 1回目は2009年で、一通り境内を回って本坊庭園も見学した。 2回目は2010年で、さらに詳しく観察しながら、境内を歩いてみた。
 にぎやかな天王寺駅から四天王寺を目指して歩くと、街並みが少しずつ落ち着いた感じになり、 仏具店などが並ぶ参道へと導かれる。 参道の先には「石の鳥居」があり、境内の五重塔が見えてくる。
 こちらは西大門(極楽門)に続いており、正門の南大門ではないが、 出入りする人の数は圧倒的にこちらのほうが多いようだ。
 お寺に鳥居というのも少々変わっている。
 土曜日のためか多くの人が行きかっていた。 西大門には転法輪というほかでは見かけたことのない法具があり、 参拝者はみなこれを回して通り過ぎていく。 私も転法輪を回して中に入った。 回廊の中に五重塔がそびえている。 拝観料を払って五重塔を含む中心伽藍を拝観する。 ここの伽藍は四天王寺式と呼ばれる伽藍配置で有名だ。 伽藍の中心は塔(五重塔)で、南から北へ、中門、五重塔、金堂、講堂が一直線上に 配置されている。 しかし、現在の五重塔、金堂、講堂は、みな戦後に再建されたコンクリート製だ。 五重塔内部にはらせん階段があり、最上部まで登ることができる。 一通り見ての感想は、昔の伽藍を再現するなら、木造が望ましいということ。 木造なら年月を経て味わいを増すが、コンクリートはみすぼらしくなるだけでは ないだろうか。
 中心伽藍以外にも興味深い建造物や施設がたくさんある。 聖徳太子を祀る太子殿、弘法大師を祀る大師堂、親鸞を顕彰する見真堂など和宗らしく宗派を問わずといった趣きだ。 それに番匠堂というお堂もある。 番匠堂には、聖徳太子が当時の最新の建築技術を日本に導入したことを慕って、 曲尺を持つ太子像が安置されている。
 その中でも四天王寺ならではと思われる伽藍の一つが亀井堂である。 地下に流れる霊水に回向を済ませた経木を流すと極楽往生がかなう とされていて、覗きこむと実際に経木が水面に漂っていた。
 四天王寺は大阪らしいお寺という感じがする。 境内にはいろんな建物、お堂、それに庭園もある。 気軽に拝観できるし、公園を訪れるような感覚でも歩ける。 市民生活の中に溶け込んでいるといった印象を受ける。
 お寺を後にして天王寺に向かう参道で、屋根の上の釣鐘の飾りが眼を引くお店があった。 眼の前で饅頭を製造している。 私は甘党というわけでもないのだが、試しに数個買ってみた。 この日はそのまま新幹線で帰京し、家に帰ってからこの釣鐘饅頭を食べてみたら、 十分においしかった。 四天王寺は、まわりを含めて奥が深そうだ。
 写真は、RICOH GX200で撮影。


 石の鳥居から見た西大門と五重塔。
 この鳥居は、1294年(永仁2年)に木造から石造に改められたもので、 石造としては日本最古である。
 浄土信仰が盛んになると、彼岸の中日に鳥居の真ん中に沈む夕陽を拝むという 風習を生んだという。
 日本三鳥居の一つと言われ、他の二つは吉野の「銅の鳥居」と安芸の宮島の「木の鳥居」だそうだ。
2010/11/13撮影

 西大門は極楽門とも言われる。 ここには、転法輪と呼ばれる手で回す車輪のようなものが取りつけられている。
 説明書きには、「法輪は、お釈迦様の教えが他に転じて伝わるのを輪にたとえたもので、 仏教の象徴です。 合掌し、「自浄其意」と唱えて軽く右にお回し下さい。」 とある。
 スポーク状のものが8本あるのは、八方向に教えを広めることを象徴しているようだ。
 まわりの人を見ていると、ほとんどみんな輪を回して通り過ぎていく。 筆者も見習って、輪を回して門を入った。
2010/11/13撮影

 西大門からの五重塔
 左の柱に転法輪が二つ見えている。
2010/11/13撮影

 南大門からの中門と五重塔を見たところ
 四天王寺式伽藍配置は、南大門、中門、塔、金堂、講堂が 一直線上に並んだもので、飛鳥時代の代表的な伽藍配置である。
 この南大門の柱にも転法輪が見える。
2010/11/13撮影

 五重塔と金堂を囲む回廊の北東の角から、金堂と五重塔を 見たところ
 大都市大阪の中心部にあるため、周りには高層ビルがある。
2010/11/13撮影

 講堂のさらに北側には、六時堂がある。 参拝客が多く、今はこちらが伽藍の中心のようだ。 というのも、本来の伽藍の中心である金堂へは、拝観料金が必要なのだが、 六時堂にはその必要がないのも影響しているのではないだろうか。
 講堂の前には、亀の池や石舞台がある。 石舞台では、聖霊会舞楽大法要の際に舞楽が舞われる。
2010/11/13撮影

 番匠堂
 このお堂は平成になってから建てられた。
 大陸から進んだ建築技術を導入した聖徳太子は、建築関係者の守護神だそうだ。
 よく見ると、お堂の前の石柱や幟に書かれた「南無阿弥陀仏」の文字は、大工道具を使って図案化した ユニークなもの。
2010/11/13撮影

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