石峰寺(京都市) 2015年 11月
 石峰寺(せきほうじ)は、京都市伏見区深草にある黄檗宗の寺院で、山号は百丈山である。
 京都で黄檗宗といえば宇治市にある大本山の萬福寺が思い浮ぶが、ほかに同宗派の寺院の数は多くない。 そんな中で、石峰寺が比較的知られているのは、江戸時代に京都で活躍した画家、伊藤若冲の残した石仏、五百羅漢像の存在によっている。
 伊藤若冲の名前は、日本画にそれほど興味のない人たちの間にも、近年はずいぶんと知れ渡ってきている。 緻密にして色鮮やかな動物画や植物画は、大変個性的で、一度見たら忘れがたい印象を残すためだ。
 筆者が石峰寺を訪れたのも、その伊藤若冲ゆかりの寺だからで、近くにある伏見稲荷大社を訪れたあとに立ち寄った。 住宅街の中のゆるい坂道を石峰寺に向かって登っていくと石段があり、その上に竜宮門の形をした山門が現れる。 赤く塗られた門は、中国的な雰囲気の色濃い黄檗宗らしいもの。
 山門をくぐれば、正面が本堂だ。 昭和60年に再建されたというからまだ新しい。
 石峰寺の歴史を遡れば、18世紀初頭に万福寺千呆(せんがい)禅師が創建した禅道場として、当初は相当に規模が大きかったようだ。 しかし、その後の火災などで衰え、今ある堂宇は本堂と庫裏くらいのもので、大寺の面影はない。
 お目当ての五百羅漢の石像群は本堂裏手の石段を登った先にある。 途中には、この地に草庵を結び、晩年を過ごした若冲の墓があり、京都の市街地が見渡せる。 江戸時代とは景色が異なるにしろ、若冲もここから街を眺めていたのだろうと想像される。
 石段を登ると2つ目の竜宮門が現れ、これを通れば竹林が凹凸のある斜面に広がっている。 五百羅漢像は、いくつかの群れごとにかたまって地面に置かれている。 伊藤若冲が下絵を描き、石工に作らせたものだという。 なかにはかなり風化の進んでいる像もある。 釈迦の生涯や羅漢、菩薩などさまざまな像で構成され、ユーモラスな表情の像も多い。 禅に傾倒していた若冲の一面を垣間見るようで、興味深い。
 なお、五百羅漢像の撮影は禁止となっている。 過去に不心得な写真撮影者がいたことが原因らしい。
 一渡り、五百羅漢像を見てから石峰寺を後にしたが、 日曜日にも関わらずほかに数人の拝観者と出会っただけだった。

 今年(2016年)4月〜5月には、東京都美術館で生誕300年を記念した「若冲展」が開催される。 楽しみである。

 写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。


 本堂脇から続く石段の上に、赤く塗られたいわゆる竜宮門が現れる。
 周りは鮮やかな紅葉なので、あたかも色とりどりのサンゴに囲まれた竜宮城のようだ。
 この門の先、竹林の斜面に、五百羅漢の石像群がある。
2015/11/29撮影

[TOP]