西大寺(奈良市) 2011年 11月
 西大寺(さいだいじ)は、真言律宗の総本山である。 奈良時代に、孝謙上皇の発願により建立された寺院であり、当時は南都七大寺の一つとして 大伽藍を誇っていた。 その後一時衰退し、鎌倉時代に興正菩薩叡尊によって真言律宗の根本道場として復興された。
 大和西大寺駅のすぐ近くにあるので、駅から歩いて東門をくぐって境内に入る。 まず四王堂が右手に現れる。 ここに安置されている十一面観音立像と四天王立像を拝観する。
 次は本堂である。 本堂の前の広場に、大きな石積みの基壇が残されている。 これが東塔の跡である。 奈良時代には、五重塔(計画時には七重塔)が威容を誇っていたのだろう。
 東塔跡を見ながら、本堂に入って、本尊の釈迦如来立像を拝観する。 堂内には、大茶盛式に使われテレビのニュースなどで報じられる例の大茶碗が置かれていた。
 本堂の次は、愛染堂の拝観である。 ここには愛染明王坐像があるのだが、特定の日に開扉される。 残念なことに、この年(2011年)の秋の開扉は、筆者の拝観した日の2日前に終わっていた。
 諸堂の拝観を終え外に出ると、幼稚園児が元気よく境内を走っていた。 こういう歴史的な雰囲気の中で遊べるとはうらやましい環境で、きっとよい思い出になることだろう。
 境内を出て奥の院に向かう。 西大寺の次の目的地が秋篠寺なので、奥の院はその途中にある。 天気も良いので、歩いて行くことにする。 この奥の院(体性院)には、興正菩薩叡尊が葬られていて、 弟子たちが建てたりっぱな五輪塔がある。

 2017年4月から6月にかけて、東京の三井記念美術館で奈良西大寺展が開催されていた。
 「叡尊と一門の名宝」と副題がつけられているように、西大寺中興の祖、叡尊に関連する仏像などが多数展示されるので、 仏教や仏像に関心のある者には見逃せない特別展だ。
 個人的には、西大寺を拝観したのが6年前のことで、当時の記憶、とりわけ仏像の印象が薄れてきていたのでいいタイミングだった。 美術館に赴いたのは、5月中旬の平日の午前中で、鑑賞者は多くなく、ゆっくりと見て回ることができた。
 まず彫像の中で注目すべきは、興正菩薩坐像だ。 2016年に国宝に指定されたばかりで、叡尊が80歳のときの肖像である。 長い眉毛が特徴で、法衣の裾を横に長く広げている。 保存状態がよく、高僧像の傑作として名高いだけあって、叡尊の外面のみならず内面も表現されているようだ。
 ほかの西大寺の仏像では、五台山文殊とか渡海文殊といわれる文殊菩薩騎獅像及び四侍者像(鎌倉時代)も見事な像である。 展示されていたのは、文殊菩薩騎獅像と最勝老人立像、善財童子立像の3体だったが、善財童子立像の愛らしい姿には思わず微笑んでしまう。
 西大寺の愛染明王坐像(鎌倉時代)はよく知られた像で、見たかった像の一つだが、訪れた日が展示期間外で残念ながら見られなかった。
 奈良時代まで遡る仏像は少なく、釈迦如来坐像と阿弥陀如来坐像(いずれも奈良時代)が展示されていたくらいだった。 火災などで失われてしまった仏像が多いのだろう。
 西大寺以外の仏像では、白毫寺(奈良)の太山王坐像、極楽寺(神奈川)の忍性菩薩坐像、称名寺(神奈川)の清凉寺式釈迦如来立像など見覚えのある像が並んでいた。
 なお、叡尊は一時、鎌倉にもおもむいて律宗の布教に携わり、門下の忍性は極楽寺の開山である。
 今の西大寺があるのは、叡尊のおかげといっていいようだ。
(2017/6追記)
 写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。


 東門
 大和西大寺駅から来ると、この門から入ることになる。
2011/11/17撮影

 四王堂
 西大寺創建にあたって最初に四天王像とこれを祀る四王堂が建てられたという。 しかし、再三焼失し、現在の建物は1674年の建立で、四天王立像も創建当初のものではない。
 今の建物は、直線を基調になっているためか、モダンな印象を受ける。
2011/11/17撮影

 本堂と東塔跡の石積み。
 本堂には、本尊として清凉寺式釈迦如来立像が安置されている。
 今の本堂は江戸時代に再建されたもの。
2011/11/17撮影

 愛染堂が正面に見え、左手に東塔跡、右手に本堂がある。
 西大寺境内にある幼稚園の園児が元気よく東塔跡の周りを走っていた。
2011/11/17撮影

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