瑠璃光寺(山口市) 2010年 9月
 山号は保寧山、曹洞宗のお寺である。
 瑠璃光寺の名は、響きがよいし字も美しいが、なにより、国宝で日本三名塔の一つに挙げられる五重塔で有名だ。
 わざわざ東京から出かけた(マイレージを使ってだが)のも、この15世紀に建てられた五重塔を見たかったからだ。
 境内に入っておやっと思うのは、拝観料を取らないことだ。 観光客の多いお寺は、どこでも拝観料を取るのが普通の時代にあって、意外な感じを受けた。
 ちょうど内陣特別公開の期間中でもあり、何人ものボランティアの人たちが、 整理や案内をしていた。 こういうボランティアの人たちの姿は、五重塔のたどった歴史とも重なるような印象を受けた。 というのも、瑠璃光寺の五重塔は複雑な歴史を持っていて、もともと香積寺の境内にあったものだ。 その香積寺が江戸時代になって萩に移ったときに、地元の要望で五重塔が現在地に残され、瑠璃光寺の五重塔となったといういきさつがあるらしい。 そういう地元の五重塔を誇りに思う意識が今も受け継がれて、ボランティアの形となっているのではないだろうか。
 目指す五重塔は、小さな山の斜面を背にして、庭園の中に建っていた。 池の向こうのすっきりとした姿の五重塔は、まさに絵になる景色だ。 少し残念だったのは、この日は風があったこと。 このため、池に写る五重塔の姿が見えなかった。
 写真を数枚撮ってから、大勢の観光客に混じって、五重塔の内部を見学した。 といっても、開かれた四方の扉を通して内部をのぞき見る形である。 心柱と阿弥陀如来像それに大内義弘像を見ることができた。
 五重塔を一通り見た後、庭園の中を歩いて、本堂に向かう。 五重塔は、他の主要伽藍とは離れて建っているのである。
 本堂は、意外とこじんまりとしている。
 本尊は、薬師瑠璃光如来つまり薬師如来である。 寺名の瑠璃光は薬師瑠璃光如来がら来ていると思われる。
 境内を回ってちょっと意外だったのは、禅宗のそれも曹洞宗のお寺なのに、厳しさよりも親しみやすさが漂っていて、庶民に受けそうなさまざまなものが用意されていたことである。

 2023年から2025年にかけて、70年ぶりとなる五重塔の檜皮葺屋根の全面葺き替え工事が行われている。 その様子が2024年2月にNHKテレビ番組で紹介された。 屋根の解体から新しい檜皮の採取、職人が竹釘を使って檜皮を固定する熟練の技の紹介など、日本独自の伝統技術である檜皮葺屋根がどのようなものなのかがわかる、興味深い内容だった。
(この項、2024/2追記)

 写真は、CANON 5D Mark U・EF-24-105mm F4L IS USMで撮影。


 国宝の五重塔
 15世紀中ごろ室町時代の建立という。
 檜皮葺の屋根が落ち着いた風情を醸し出している。 もちろん均整のとれた形も美しい。
 地上に見えている緑色のネットは、内陣の特別公開用に組まれた足場の囲いである。
2010/9/24撮影

 本堂の前からの眺め。
 右手前に鐘楼の屋根が見える。
 ここの五重塔は、平地に建っているわけではないので、 少し離れると目立たない。
2010/9/24撮影

 ちょうど、内陣特別公開中だったので、内部が見渡せた。
 左の大きな像は阿弥陀如来、右の小さい方は大内義弘の銅像。 円形の唐様須弥壇はこの塔だけに見られるという。
2010/9/24撮影

 塔の後ろ側から見ると、心柱を背に阿弥陀如来像と大内義弘の像が並んでいる。
2010/9/24撮影

 五重塔が瑠璃光寺の主要伽藍の中からはずれて建っているため、 五重塔からは、庭園の中の道を少し歩いて山門に達する。
 禅寺でありながら、境内は厳しさより、 庶民的な親しみやすさを感じさせるたたずまいである。
 本堂の横には、出雲一畑薬師奥之院山口分院があったりする。
2010/9/24撮影

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