九品仏浄真寺(世田谷区) 2013年11月/2014年8月
 九品仏(くほんぶつ)と通称される浄土宗の寺院で、正式には九品山唯在念仏院浄真寺(じょうしんじ)である。
 もともとこの地にあった鬼沢城の跡地に、17世紀、珂碩(かせき)上人が浄真寺を開山したのが始まりとされる。
 筆者が拝観に出かけたのは、11月半ばの十夜法要が営まれる日だった。
 「九品仏」駅北側すぐの場所に参道入り口がある。 参道は北に向かって100数十メートル続いている。 両側には植え込みがあり、落ち着いた雰囲気を醸し出していて好ましい。 これだけの規模の参道が23区内に残っていること自体が珍しいし、浄真寺の魅力を高めている。
 参道の突き当たりに総門がある。 総門の内側はゆったりとしていて、各種の樹木が繁茂し、武蔵野の面影を想像できるような空間が広がっている。 紅葉を期待していたが、まだ少し早いようで、色づき始めという感じだった。 右手に閻魔堂を見て、少し進むと、左側に仁王門(紫雲楼)が見えてくる。 量感のある堂々とした建物である。 楼上には、金色に輝く阿弥陀如来像と二十五菩薩像が安置され、その一部を下から見ることができる。
 仁王門をくぐって、中に向かうと、右手に本堂が現れ、その本堂に向かい合うように三仏堂が建っている。 本堂と三仏堂の間には草地が広がり、ちょっと公園風に見えないこともない。 3つの仏堂は西方浄土の方角から東に向いて並んでいて、それぞれに3体の阿弥陀如来像が安置されている。 合計9体の阿弥陀如来像は、上品上生から下品下生まであるため、九品仏と称されるようになったのだ。 同様の阿弥陀如来像は、京都の浄瑠璃寺が有名である。 浄瑠璃寺の場合、九品仏浄真寺より古い平安時代に遡り、9体の仏像が阿弥陀堂の中に一列に並んでいて、 堂の前には池がある。 したがって、全体の印象はかなり異なる。
 この日は、三仏堂のうち、真ん中の上品堂の扉が開かれていて、中に安置されている3体の阿弥陀如来像を 間近に拝することができた。
 三仏堂をあとにして、本堂に戻って中を覗くと、午後から行われる十夜法要の準備が行われていた。
 十夜法要は、浄土宗の寺院にとって重要な念仏会なので、普段の日より参拝客の出入りが多いようだったが、 境内の静かな佇まいを乱すほどではなかった。

 その後、半月ほどした12月2日、紅葉の具合を見たくなり、もう一度出かけてみた。
 本堂横の大イチョウが黄葉の見ごろだろうと予想していたのに、実際には大半の葉を落としていたのが意外だった。 カエデ類は、鮮やかに赤く紅葉している木から、緑のままの木などまちまちだった。 23区内での紅葉であればこんなものかなというのが感想である。

 浄真寺の行事で有名なのは、「おめんかぶり」である。
 正式には、「二十五菩薩来迎会」と称し、3年に1回、8月16日に行われる。 同様の行事は関西のお寺でも行われているが、関東では浄真寺だけに残っているそうだ。
 2014年がその3年に一度の年に当たっていて、土曜日だったので出かけてみた。 11時に始まるので、余裕を持って少し早めに境内に入ったが、すでにかなりの数の人が集まっていた。 境内には木陰も多いし、雲が多かったので、いくらかはしのぎやすかったが、真夏の戸外でのこうした行事は、 当事者はもちろんのこと見物するほうも大変だ。 その辺はお寺側も気を使っているようで、来場者に団扇を配っていた。 団扇があると、蒸し暑さがだいぶ軽減されるので助かる。
 この行事は、信者の臨終に際し、阿弥陀如来が二十五菩薩を従えて来迎し、 極楽浄土に導いてくれる様子を行事化したものという。 上品堂を西方浄土に、本堂を現世(娑婆)に見立て、この間に特設の橋が架けられている。 この橋の上を二十五菩薩の行列が練り歩くのだ。、
 お面をかぶると前がほとんど見えないようで、付添人が手を取って橋を渡ってくる。 暑さを少しでも和らげようと、団扇であおいでいる付添人もいる。
 二十五菩薩は仮面をかぶっているので、もちろん顔の表情に変化は見られない。 なにか別世界の行列のようだ。 二十五菩薩に続いて、華やかな稚児行列が橋を通ると、雰囲気ががらりと変わるのだった。
 なお、「おめんかぶり」が終わったあとのアナウンスによると、次回3年後(2017年)の「おめんかぶり」は、 8月から5月に変更予定とのことである。

 写真は、CANON 5D Mark U・EF24-105mm F4L IS USMで撮影。


 参道入り口
 東急大井町線「九品仏」駅近くに、参道入り口がある。 北に向かって100数十m続く参道は、、両側に植え込みがある。 都内の寺で、これだけ立派で風情のある参道が残っているのは貴重だ。
2013/11/14撮影

 「般舟場(はんじゅじょう)」の額が架かる総門
 参道を歩いてくると、南面して建つこの総門に行きあたる。
 紅葉見物客が三々五々やってくる。
 なかには、折り畳み椅子に腰を下ろして、スケッチをしている人たちも、参道や境内で見かけた。 私も水彩画を多少やっているので、こういう景色を前にすると、絵筆を取りたくなる気持ちは理解できる。
2013/12/02撮影

 紫雲楼と呼ばれる18世紀末建立の仁王門
 総門から入ると、閻魔堂を過ぎて左折するとこの仁王門が迎えてくれる。
2013/11/14撮影

 仁王門には一対の仁王像があり、楼上に阿弥陀如来像を囲むように 二十五菩薩像が並んでいるのが見える。
 12月2日のときは、扉が閉まっていたので、特別な行事のあるときに開かれるようだ。
2013/11/14撮影

 本堂と大イチョウ
 本堂のそばには、大イチョウがある。 その黄葉を期待していたが、多くの葉がすでに落ち、地面は黄色く染まっていた。
2013/12/02撮影

 三仏堂のうち、中央にある上品堂
2013/12/02撮影

 三仏堂は、上品堂、中品堂、下品堂の3棟より構成され、それぞれに3体の阿弥陀如来像が 安置されている。
2013/11/14撮影

 上品堂内の3体の阿弥陀如来像
 この日は、三仏堂のうち、上品堂だけ扉が開かれていた。
 青色の螺髪が目立つ。 これは「仏の三十二相八十種好」を基にした色。
 中央の像が上品上生、向かって右の像が上品中生、左の像が上品下生の印を結んでいる。
2013/11/14撮影
おめんかぶり(二十五菩薩)の行列は上品堂から本堂に渡り(来迎)、その後、本堂から橋を渡って上品堂に戻る(往生)。 この写真は、本堂から上品堂に向かう場面。 お面をかぶっていると前がよく見えないらしく、それぞれの菩薩に人が付き添い、手を取って歩いている。
 2014/8/16撮影

 二十五菩薩に続いて、浄真寺開山の珂碩(かせき)上人座像の厨子が橋を渡る。
 2014/8/16撮影

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