弘明寺(神奈川県横浜市) 2016年 11月
 弘明寺(ぐみょうじ)は横浜市南区にある高野山真言宗の寺院で、正式には瑞應山蓮華院弘明寺である。
 寺伝によると、創建は8世紀まで遡るとされるが、実際のところは、11世紀になって光慧上人により本堂が建立されたころになるそうだ。 寺名も鎌倉時代までは求明寺(ぐみょうじ)と表されていたのを、観音経偈文にある「弘誓深如海(ぐぜいじんにょかい)」の弘の字を取り弘明寺としたとのこと。
 筆者は、弘明寺という京浜急行の駅名はずいぶん昔から知っていたが、お寺としての弘明寺に興味を持ったのはそれほど古くはない。 弘明寺の本尊である十一面観世音菩薩立像の存在によってだ。 この像は、鉈彫の仏像の代表例として知られているからである。 鉈彫とは鑿の跡を残した木像彫刻のことで、中部地方以東の地域にだけ見られる。 弘明寺の像は、ハルニレの一木造りで、平安時代の作とされている。
 弘明寺を訪れたのは11月18日で、縁日(8のつく日)ではあったが、参拝者はそれほど多くはなかった。 仁王門が坂の下にあり、けっこう急な石段を登ると正面に本堂のある広場に出る。
 地形的には、丘陵部の東の端が崖になっている場所のようだ。
 本堂全体を見渡して写真を撮っていると、本堂の屋根が少し変わった形をしているのに気がついた。 銅板葺の屋根の上に箱棟状の突起物が乗っかっていて、巴の紋が2つ描かれているのだ。
 右手には鐘楼があるほか、大師堂や聖天堂といった建物が境内にある。
 お目当ての本尊、十一面観世音菩薩立像は本堂に安置されている。 拝観料500円を納めると、靴を脱ぎ内陣まで入ることができる。 室内が黒光りしていのは、長年の煤のせいなのだろう。 厨子の中の本尊は、像高が181.7cmとかなりの大きさで、右に少し傾き頭が大きく作られている。 像を間近に見られるのだが、頭部の詳細は暗くてよくわからなかった。
 鑿の跡を残した鉈彫像は、素朴な雰囲気をたたえている。 木の持つ霊力を表そうと意図されているのだろうか。
 お顔などにひび割れが見られるのは、内刳りのない一木造りのためなのかもしれない。
 筆者以外にだれも内陣まで入って参拝する人がいなかったので、ゆっくりと拝観したのち、本堂を出た。 梵鐘(江戸時代)とか七つ石という霊石などを見た後、石段を降りて参道となっている弘明寺商店街を少し歩いてみた。 このアーケードのかかった商店街は、弘明寺の門前町から発展したそうで、今も昔ながらの雰囲気を残し、人通りの多い賑やかな通りである。
 写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。


 本堂(観音堂)
 とても変わった形の屋根だが、これでも寄棟造のようだ。 頂部には、箱棟状の棟飾り(?)が乗っていて、巴紋が二つ描かれている。
 現在の本堂は、18世紀に再建されたもの。 1976年には、茅葺屋根から銅板に張り替えられている。
2016/11/18撮影

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