延暦寺(滋賀県大津市) 2016年 12月
 延暦寺は、最澄によって開かれた比叡山を境内とする天台宗の総本山である。 日本でもっとも有名な寺院の一つとして知らない人はいない。
 筆者は、寺院巡りを始めるずっと前、三百名山の全山登頂を目指していた頃に比叡山を訪れたことがある。 標高848mの比叡山は、日本三百名山の一つに数えられていたからだ。 そのとき(1999年3月)は、機械力に頼って頂上を踏み、登頂と称することに後ろめたさがあり、麓から歩いて登るつもりだった。 だが、あいにくの春の淡雪にあい、歩き通すのを断念し、半分だけ歩いた記憶がある。 つまり、八瀬からケーブルカーでケーブル比叡まで上がり、あとは頂上まで歩いて、三角点を踏んでいる。 たどり着いた三角点は、木々と藪に囲まれた何の変哲もない小広場にあった。 およそ名山の頂上にふさわしいとは言い難い環境で、がっかりしたのを覚えている。 気を取りなおして、頂上の記念写真を撮ったあと、根本中堂などの主要伽藍を見て回り、大津市側に下ったのだった。
 今回(2016年)は、その時以来つまり17年ぶりの比叡山で、目的が延暦寺参拝であるから、歩いて登るつもりはなかった。
 比叡山は、滋賀県側と京都府側の境界上に広がっているため、両方から交通機関がある。 どちらから上がって下るか迷うところだ。 天気予報では雲が多く好天にはなりそうもなかったことなどもあり、今回は京都府側から往復することにした。 利用した始発のケーブルカー、ロープウェイは、ともにがらがらだった。 紅葉シーズンが終わり、ケーブルカーやロープウェイが4日後には冬季の休業に入るという時期だったから、観光客の姿がまばらでも不思議ではない。 比叡山山頂バス停で根本中堂に向かうバスを待っているときも、ほかには初老の男性がいるだけだった。 自然に、その男性と世間話をして時間をつぶすことになったのだが、この九州から来た男性は私と同様に寺院巡りが趣味らしく、 京都の主だったお寺はほとんど拝観済みのようだった。 こういう話し相手がいると、バスを待つ時間も苦にならないものだ。
 30分ほどしてやってきたバスに乗りこんで東塔地域に移動。 ここでの目的は、まず国宝殿での仏像群の拝観。 ここでいう国宝とはモノとしての国宝ではなく、最澄の書いた「山家学生式」の中にある「一隅を照らす、これ則ち国宝なり」から取られたそうだ。 建物の中に入ると、優れた仏像がたくさん並んでいる。
 釈迦如来坐像(平安時代)や五大明王像などそれぞれが優れた像だが、 なかでも千手観音立像は像高51.2cmながら、顔がどう見てもインド風で異彩を放っている。 作者はインド人をモデルにして像を彫ったのだろうか。 それとも海外から伝来した仏像を基にしたのだろうか、などといろいろ想像してしまう。
 館内をひとわたり見て回っている間、ほかに見学者を見かけることはなかった。 観光客の多くは時間に追われて、国宝殿にまで足を延ばす余裕がないのかもしれない。
 国宝殿のあとは、根本中堂、大講堂、文殊楼などを拝観。
 東塔地域の次はシャトルバスで横川地区に移動し、横川中堂、元三大師堂などを見学。 延暦寺は、東塔、西塔、横川の3地域に分かれていて、それぞれが離れているので、移動にはバスなどを使うのが現実的だ。
 最後に西塔地域で釈迦堂などを巡って比叡山を後にした。
 今回は2度目の比叡山であったが、改めて山内が広いことを実感した。 駆け足で回っただけで比叡山の全貌を理解することなど不可能ではあるが、深い森の中に堂宇が点在している様子だけはわかった。 こういう環境があって、最澄に続く円仁、円珍、それに鎌倉新仏教の祖といわれる名僧を輩出することができたのだろう。

 写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMで撮影。


 文殊楼から根本中堂に通じる階段上部から見おろす根本中堂(国宝)。
 平成の大改修が行われている最中だった。
 根本中堂は過去に何度も焼失している。 現在の建物は、織田信長の焼き討ちで焼失後の江戸時代に再建されたもの。
 内陣は外陣より3mも低いので、外陣を歩く拝観者は谷を見下ろすような格好になる。
 ひんやりとしてほの暗い内陣には、神秘的な雰囲気が漂っている。
2016/12/01撮影

 西塔地域にある転法輪堂(釈迦堂)
 延暦寺に現存する最古の堂宇。 信長による焼き討ち後の1595年に、園城寺から移築されたもの。
2016/12/01撮影

 横川中堂
 懸造りで趣きのある建物だが、1971年に鉄筋コンクリート造で再建されたもの。
 以前にあった堂は、落雷による火災で焼失している。
2016/12/01撮影

 横川にある元三大師堂、四季講堂とも呼ばれる。
 元三大師は、天台宗の中興の祖とされ、おみくじの創始者ともいわれる。
2016/12/01撮影

[TOP]