円覚寺(鎌倉市) 2011年
 臨済宗円覚寺派の大本山で、正式には瑞鹿山円覚興聖禅寺(ずいろくさんえんがくこうしょうぜんじ) という。 鎌倉時代の1253年の創建で、鎌倉五山第二位の格式を誇った。
 近くにある建長寺と似たところのあるお寺だ。
 まず気がつくのは、両寺とも鎌倉の中心部から少し外れた場所にあり、 山襞の沢筋に沿うように北東の方角に向かって主要伽藍が配置されていることだ。
 寺の由来からしても、似ていておかしくはないのかもしれない。 建長寺が北条時頼によって創建されていて、その息子にあたる時宗が円覚寺の開基である。 そして建長寺の開山が宋から来た蘭渓道隆によりなされ、円覚寺も中国の浙江省出身の無学祖元に よって開山されている。
 円覚寺創建の趣旨は、国家鎮護とともに、蒙古襲来による戦死者を供養することが目的の一つだった とされている。 北条時宗は、蒙古による侵略を退けた功績で評価される一方で、南北朝騒乱のきっかけを作った人物として も知られている。
 そして明治時代以降では、禅文化を世界に紹介した鈴木大拙らを輩出していることを忘れてはならないだろう。
 ここで紹介するのは、2010年1月、2011年2月、4月、11月に拝観したときの写真である。
 北鎌倉の駅を降り立つと、そこは円覚寺と隣接している。 というより、横須賀線の線路は円覚寺の参道を横切っているから、線路を引いた明治時代の 力関係でこういうことになったのだろう。
 踏切の前の石段を登ると総門があり、大きな木々に囲まれた先に三門(山門)がある。 現在の三門は、1785年に再建されたものだが、門にかけられている扁額「圓覚興聖禅寺」の額字は、 伏見上皇の勅筆と言われている。
 次に現れるのは、昭和になって再建された仏殿である。 近代的な工法による鉄筋コンクリート造と伝統的なデザインの寺院建築の組み合わせは、 なんとなく違和感を感じる。 中に、本尊の宝冠釈迦如来像が安置されている。 金色に輝く装飾をまとった像である。
 仏殿の横には選仏場がある。 茅葺屋根が作る曲線が美しい。 中に入ると、薬師如来立像が正面に安置され、周りは座禅道場らしく畳敷きになっている。 ところが、天井には裸の蛍光灯が吊るされているため、雰囲気が壊されているのが残念である。
 選仏場から奥に進むと、一般公開されていない国宝の舎利殿、妙香池、仏日庵、そして もっとも奥まった場所には黄梅院など見どころが多い。

 2019年、東京の三井記念美術館で「円覚寺の至宝」展が開かれ、円覚寺や関連する寺院に伝わる名品や仏像を鑑賞する機会があった。
 展示品の中には、毎年秋に行われる「宝物風入」で公開されるものも含まれていたが、筆者が初めて目にするものも多かった。 そのうちで、特に印象に残ったいくつかに触れておきたい。
 頂相像では、無学祖元坐像、蘭渓道隆坐像(建長寺の開山)、夢窓疎石坐像(瑞泉寺の開山)がそれぞれ個性的な表情で表現されていた。 頂相彫刻は一定の形式で作られるようなので、似たような恰好に見えるのだが、その顔は大変個性的。 たぶん、生前の容貌に忠実なのだろう。
 清雲寺(横須賀市)の滝見観音菩薩遊戯坐像は、珍しい滝見観音の像でしかも南宋からもたらされたものという。 京都の泉涌寺に伝わる南宋時代作の楊貴妃観音像と、技法的に共通しているとされるのも興味深い。 また、優美でくつろいだ姿の像は、東慶寺(鎌倉市)の水月観音菩薩半跏像を連想させる。
 韋駄天立像(浄智寺、鎌倉市)は、宝棒を両手で持ち、甲冑には土紋が使用された鎌倉時代の像。 頭部が大きく作られ、顔は親しみを感じる表情で、少しユーモラスな印象を受ける。 そのためか、あまり足が速そうには見えない。 韋駄天という言葉が今も広く使われているわりには、見る機会の少ない種類の像だ。 私の記憶でも、韋駄天像で思い出せるのは瑞龍寺(高岡市)と萬福寺(宇治市)くらいだ。
 銅造阿弥陀三尊像(円覚寺)は、信濃善光寺の本尊を模した像で、舟形光背が三尊像全体を覆っていて、一光三尊形式と呼ばれる。 鎌倉時代ころに多く作られたといわれるから、善光寺の本尊は昔から全国的に人気があったことがわかる。
 円覚寺は禅宗の寺院なので、所蔵する仏像の数はお寺の規模の割には多くないと思われるが、長い歴史を持つだけあって、貴重な文化財が多数あることを実感できた特別展だった。
(この項、2019/6追記)

 写真は、PENTAX K-5・DA★16-50mmF2.8ED AL[IF]SDMおよびRICOH GX200で撮影。


 参道を横須賀線の線路が横切っている。 踏切を渡って階段を上がると総門があり、その先に三門の威容が 迫ってくる。 現在の三門は、1785年に再建された。
2011/2/13撮影

 4月に訪れたときは、桜が満開で、光にあふれていた。
2011/4/13撮影

 仏殿
 関東大震災で倒壊したのち、1964年に再建された。  2011/2/13撮影
本尊として、宝冠釈迦如来が安置され、天井には前田青邨監修、守屋多々志揮毫の白龍図が見える。
2011/11/04撮影

 秋には、仏殿の裏手の斜面にヒメツルソバの花が咲き誇る。
 2011年11月に、宝物風入が行われた際に撮影した。
2011/11/04撮影

 選仏場
 坐禅道場のことで、薬師如来立像を安置する。 茅葺き屋根で、日本的なたたずまいである。
2011/2/13撮影

 舎利殿
 鎌倉で唯一国宝に指定されている建造物
 普段は一般公開されていないが、2011年11月の特別拝観の際に 間近に見ることができた。 そのときは、建物がずいぶんと小さいという印象を受けた。
 中央手前に唐門、その奥に舎利殿の屋根が見えている。
2011/4/13撮影

 仏日庵 開基廟
 円覚寺開基北条時宗と貞時、高時を祀る廟所
 中を見ると、中央に北条時宗のお人形さんのようなふっくらした姿の像がある。
2011/2/13撮影

 白鹿洞(びゃくろくどう)
 仏日庵の近くにある。
 落慶開堂の日に白鹿の群がこの洞から現れたと伝えられ、山号の瑞鹿山(ずいろくさん)は この故事に由来していると言われる。
2010/1/31撮影

 境内のもっとも奥にある黄梅院。
 黄梅院は足利尊氏が夢窓疎石の塔所として建立した塔頭寺院。
2011/4/13撮影

 国宝の洪鐘(おおがね)
 鐘楼も時代を感じさせる建物である。
 ここは、階段を登った高台の上にあり、近くには弁天堂がある。
 横手からは富士山が見える。
2011/10/8撮影

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