セラム島(Seram Island) 2/3

 Ambon島に一泊した後、次はいよいよSeram島である。 車で港まで移動しフェリーで渡る。 地図で見ると、セラム島はアンボン島のすぐ隣だが、 目指すMasohiの町まで約3時間かかり、 外洋に出ると波が高く、船は大きいのに結構揺れた。
 昼にMasohiについて、 ホテル(Isabella Masohi)にチェックイン。 午後は近くで採集をするため出かけることになったが、 筆者はホテルの部屋に残った。 腰の痛みでネットを振ることはおろか歩くのもつらく、 ベッドに横になっていた。 ベッドから天井を見上げると、 メッカの方角を示すKiblatと書かれた紙が目に入る。 イスラム教徒の宿泊者も多いようだ。 ここマルク諸島は、 数年前にキリスト教徒とイスラム教徒が衝突した土地であることを思い出したが、 今は特に不穏な空気は感じられなかった。
 採集に出かけた他のメンバーも夕方早く戻ってきた。 雨で成果がなかったらしい。
 翌日はSeram島北岸の村Sawaiに向け、 車2台に分乗して早朝に出発。 道路は舗装されていてそう悪くない。 交通量は極端に少なく、 めったに車に出会わない。 数日間、島を回って見た限りでは、 Seram島では交通信号をついぞ見かけなかった。
 Seram島の内陸には高い山(最高地点3019m)があり、 南岸のMasohiから北岸のSawaiへ行くには、 山越えしなければならない。 山の中に入ると、集落がほとんどないため、 人もほとんど見かけない。 それだけに森も原始に近い状態のように思われた。 途中の一箇所で車を止め短時間採集した後、 Sawaiの近くの森での採集となった。 舗装されていない林道を行き来しての採集である。 背の高い木が生い茂り、 手付かずの森のように見える。 ここで今回初めてメガネトリバネアゲハ(Ornithoptera priamus)の実物を見、 採集することができた。 生息密度は高く、高い梢の上を優雅に舞っているのが見えるが、 なかなかネットが届く下の方まで下りてこない。 時折地上付近まで下りてくる個体を採集することになる。
 今回のツアーの目玉はメガネトリバネアゲハなのだが、 この場所に来るまで本当にネットに入れることができるか、 正直なところ半信半疑であった。 それが、腰の痛みで満足にネットも振れないにもかかわらず、 採集できたのだから大満足だった。 メスの体は巨大で、オスに比べて動きが緩慢なので、 近くまで来れば採集は比較的容易だ。 ただし、地味な色合いである。
 この場所にはメガネトリバネアゲハの他にもいろんな種類の蝶が飛んできて飽きなかった。 夕方採集を終え、 Sawaiへ車で移動。 小さな集落で、中心にはモスクがある。 車社会にはまだなっていないようで、 我々の車2台が村の中心部まで乗り入れても、 ほかに車は見当たらなかった。 その代わり、小さな船が海上を頻繁に行き来している。 集落の中をホテルに向かって歩いていると、 丸木舟まで見かけた。 丸木舟を作れるだけの大きな木が、 Seram島にはまだ残っている証拠なのかもしれない。
この日のホテル(?)はなんと水上家屋であった。 海を覗きこめば、魚が泳いでいるのが見える。 板張りの床の下は海である。 寝室には、床の上に直接マットが置かれていた。 水上家屋は見たことはあっても、 泊まるのは始めての体験である。 少し湿っぽいほかは、 陸上の家と変わりはなく、 海は凪いでいるので、波の音が聞こえることもない。 このホテルに共同のシャワーはあるが、 頭上の蛇口から出る水(お湯は出ない!)は海水混じりでしょっぱい。 電灯も夜間5,6時間だけつく。 村にはレストランや食堂などないらしく、 食事もこのホテルで取る。 揚げた魚が主な料理である。
 こんな環境の宿にも、 女性を含むアメリカ人の団体が泊まっていたので驚く。 なんでも鳥類の保護活動を支援するためにきているそうで、 9泊もするという話にまた驚いてしまった。
 翌朝、集落の中を歩くと、 各家が道いっぱいに丁子(Clove)を広げていた。 乾燥させるためだろう。 さすがに香料諸島と呼ばれる土地である。
 翌日も前日と同じ場所で採集したが、 昼から雨になり期待したほど成果は上がらなかった。 それでも、 メガネトリバネアゲハの幼虫や蛹を自然状態で見られたのは収穫だった。 成虫も大きいが幼虫も大きい。
 ところで、 毎日の昼の食事はどうしていたかというと、 採集に出ているときは、 現地の旅行社が手配してくれたお弁当で各自腹ごしらえである。 暑い場所柄、油で炒めたものが多くなる。 写真にあるようなピラフ(焼きそばのこともあった)に鳥の唐揚げ、 卵、きゅうりといった品々が紙の箱に入っている。

 この時期はSulawesi島は乾季で、Makassarは乾ききっていたが、 Seram島はSulawesi島とは気候が違うようで、 帰国後に調べてみると、 5月から8月あたりまで雨の多い時期にあたっていだ。 滞在中に雨が多かったのもうなづける。
 Sawaiに2泊したのち、 次の日は採集しながらMasohiに移動した。 やはり天気が思わしくなく、 成果も今ひとつだった。
 翌日は島の南側で、 Masohiの西にある採集地に向かった。 ここは広大なゴム園の奥の場所で、 ヒイロツマベニチョウの産地という話だったが、 朝から降り続いた雨が止まず、 散々な結果だった。 写真はゴムを採取するために取り付けられたカップ。 実物を見るのは初めてだった。


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 Seram島北岸のSawaiの集落。 水上家屋形式のホテルから集落が見渡せる。 これは夕方の景色。 小さな船が盛んに行き交っていた。

 Sawaiのホテルのベランダから見た景色。 遠浅で穏やかな海が広がっている。 このホテルの床の下は海だ。

 ここは香料諸島(Spice Islands)として知られるだけに、 Sawaiの住人は家の前の路上に丁子(Clove)を盛大に広げて乾燥させていた。

 Sawai近くの森林。 背の高い木が森全体を覆っている。 この森の中で二日間昆虫採集を行った。

 メガネトリバネアゲハ(Ornithoptera priamus)の幼虫。 現地の人が教えてくれた。 林道から少し茂みの中に入った場所である。

 上の写真の幼虫のすぐそばにあったメガネトリバネアゲハの蛹。 成虫も大きいが、蛹も大きい。

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