愛している。けどそれは伝わるのだろうか






空しく虚しくヒリィクロフト









突然の電話に俺は首を傾げた

誰からだろう、ディスプレイに表示されている番号は登録をしていないものであり迷惑電話でも困ると思った。
けど何故か出ないといけない気がしたのだ
通話ボタンを押せば向こう側から焦った様な女性の声が聞こえる
最初は何を言っているかさっぱり理解出来なかったがこの言葉だけは理解する事が出来た

『ライトニングさんが、事故に遭いました』


その言葉を疑うしかなかった。


急いで彼女が搬送された病院に向かえば既に彼女の妹であるセラとスノウの姿があった
今の思考には彼女が無事なのか、それしか考えられない。どうする事も出来ない今の自分を責め手術中という赤いランプを見る事しか出来なかった。
ただ彼女が無事な事を祈るばかり
どんな状況なのかと訊く気にもなれなかった。動揺しているのだ、言葉を失っている彼女の妹と同じで
知りたいが今の自分では冷静に判断など出来ない。嘘だ、信じられない、などと自分の都合のいい方へ事を考えてしまう。それだけは避けたかった

頭を冷やすには十分の時間であった。
ランプは消え開いた扉から医者が眉間に皺を寄せたまま出て来た。
直ぐにセラが彼女は大丈夫なのかと、泣きながら尋ねる。たった一人の姉である、泣きたくなるのも分かる
しかしそんな彼女を余所に医者は口を開かない
それ程まで、深刻なのだろうか
「先生!!」静かすぎる通路にセラの声が響く。
スノウも何故言ってくれないのかと熱くなっている。
ようやく医者が口を開いたのは二人が冷静になった時であった

「ライトニングさんは一命を取り留めることが出来たのですが意識不明の状態でそれに、かなり弱っています…」

このままだと目が覚める前に
その後何を言われたのか覚えていない。いや、訊いていなかったのかもしれない
何故彼女なのだろうか、どうしてこんな事が起きてしまったのだろうか
それの繰り返しである。
自分の考えだけで一杯一杯でもしかしたら彼女が助からない可能性もある。
生きる事が出来たとしても目を覚まさないまま、植物状態になってしまう

彼女が生きる事が出来るなら嬉しい
だが、素直に喜べない自分がいる

それは生きていると言えるのだろうか

病室に移された彼女
その姿は不思議と弱々しく見えた

「お姉ちゃん…」

抑える事が出来なくなった感情が一気に溢れたのかセラはぽろぽろと涙を流し出す
そんな彼女をスノウが優しく抱きしめる。
俺は今の彼女に何が出来るのだろうか、ふとそんな事を考えてしまう

二人が病室から出た後、俺はずっと彼女を見ていた
今の自分に出来る事は一つしかないだろう。側に居てやる事、それしか出来ない

「ライトニング、回復したら二人で食事にでも行こう」

返事を返す筈の無い彼女に俺は話続けた

「確か前、新しい何か欲しいって言ってたよな、あれなんだっけな…。早く教えてくれないか」

彼女に話していたとしても何の変化もない。
しかしこうしていないと空しく感じてしまう、無駄なのだろうか

「…なんで、こんな事になったんだ」

悲しくて、どうする事も出来なかった。
彼女の手を握り語り掛ける事しか出来ない己ただを責めた

目覚めてほしい、また彼女に会いたい

もし神様というものがいるならば奇跡を起こしてほしいものだ
自分が身代わりになれたらいいのに、けど彼女はそれを許さないだろう。
性格上、自分を責めるだろう。
だからこんな事は考えてはいけない

彼女が目を覚ます事だけを考えるしかないのだ。





事故から五ヶ月も経った。
未だに彼女は意識不明の状態
それでも俺は出来るだけ彼女の側に居られる様に努力してきた
後悔など、作らないように

そして奇跡は起きたのだ

睡魔に負けそうになっていた時であった
俺が握っていた彼女の手が微かに動いたのである。
それに驚き彼女に目を向ければ小さく睫毛が揺れる。
そしてゆっくりと彼女が目を開けたのだ
思わず彼女の名を呼び嬉しさの所為で笑みが零れる

しかし彼女は俺の姿を見ると怪訝な表情を浮かべた
どうかしたのだろうか、首を傾げていれば彼女は口を開いた


「お前は…誰だ?」


その言葉に耳を疑ってしまった。

どうやら神様とやらは二回も奇跡を起こしてくれない様である



後日医者から話を訊けば彼女は事故の後遺症で一部の記憶が失われている事が分かった
彼女は妹の事も覚えているしスノウの事も覚えている。
ただ彼女が失った記憶というのは、俺という存在
どんな関係で何処で何をしたかさえも覚えていない。真っ白な紙の様に綺麗に

これから俺は
記憶を失ってしまった彼女とどう接すればいいのだろうか



――――――
お風呂でずっ転んだ時に出来たネタ

こんな悲しい二人もたまには書いてみたいなとか
でもこういう結末は悲しいよね



2010.3.21





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