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● 奥野信太郎・狩野近雄・寺下辰夫・山本直文編『東京うまい店二〇〇店』(柴田書店、昭和38年9月)より「まるたか」、54-55頁。


『東京うまい店二〇〇店』より「まるたか」


<日本橋> まるたか

中央区日本橋町一の三開業
電話(241)三四三九


お惣菜というものはいいものだ。おっかさんの味がする。技巧に走ったいわゆる料理屋の料理は、すぐあきかいする。お惣菜にはあきが来ない。

ずっと前、東京には、煮屋といって、ごった煮で、飲ませた店があった。そういうのを、少し品をよくして、お惣菜で飲める店として、「まるたか」をこれも一代表としてとりあげる。

三原橋そばの「まなずる」という店、真鶴からイキのいい魚を毎日持って来て、アジのたたきなど、まずは海のお惣菜を飲ませる店もある。

「まるたか」は、特に豆腐がいい。根岸の笹の雪はどうも、という人でも、ここの豆腐料理には感服するだろう。戦争前は蛎殻町でやっていたが、ここ十年、今の店。夫婦二人、お客もせいぜい十四、五人。わかりにくいところなので、本当に探して来てくれる人か、常連しかいないところも、酒飲みの身勝手としてはいいもんだ。

久保田万太郎御推奨で、芝居の人、銀行の人が多い。

(狩野近雄)

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●メニューの一例

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