トップページ 

「浜の声」へ戻る

浜の声2

平成16年度第23回長崎県漁協青壮年部意見発表大会が諫早市で開催されました。
この大会は、漁業体験を通じて感じたことなど若手漁業者の声を掘り起こし、融和と団結を図るのが目的として行われ、10分間の制限時間内での発表内容等をもとに審査されます。
今回、橘湾東部漁協南串山支所青年部の発表者が最優秀の知事賞に輝きましたので、ここで紹介致します。

最優秀賞 「美しい海のために」〜夢を詰め込んだマイバッグ〜
            橘湾東部漁業協同組合南串山支所青年部 井上義信


 雲仙岳から広がるなだらかな丘陵、目前に広がる橘湾、入り組んだ海岸線、川の流域には棚田が並び、山の斜面には段々畑が広がる。私の住む南串山町は人口約5,000人の自然豊かな漁業と農業のまちです。

 この私がふるさと南串山町で漁師を始めたのは24歳の時です。漁師になる前は、大学を卒業後すぐにサラリーマンとして働きましたが、仕事のいきづまりとストレスから体調を崩して会社をやめ、アルバイトでどうにか生活している状況でした。そんなとき家族から、「家業である漁業を継がないか?」と薦められ、今日まで漁師として生活しています。漁を始めてからの7年間で漁師としての面白さや厳しさがわかり、そして良きライバルでもあり友人でもある青年部のたくさんの仲間も出来ました。そんな仲間達ともよく話すのですが、現在、私達漁師は厳しい環境におかれていることは確かです。漁獲量の減少、魚価の低迷、漁業担い手不足など様々な問題が山積みになっています。その中でも何について発表すれば良いのかと悩みましたが、日々の操業の中で感じたことについて意見を述べたいと思います。

 私の家では、さし網や定置網を中心とした漁を行っています。橘湾で行うさし網では、季節に応じてカレイ、ヒラメ、マダイ、ワタリガニなどが漁獲されます。網を上げるときには油圧ローラーで巻き上げます。その時に揚がってくる網を見ながら何がかかってくるかと考えるのが操業中の最大の楽しみです。カレイやヒラメが網にかかってくる時、お腹が上を向いて上がってくると海の中に濃い白がゆらゆらと見えます。私はそれを見るとワクワクしてたまりません。しかし、カレイやヒラメとスーパーなどでもらう白いレジ袋がかかっているのとは非常によく似ています。
 この用紙ぐらい(A4)のカレイやヒラメだと800g位ですかね。これより一回り大きくて1kgになると思います。今、だいたいの相場で1kgあたり2,000円の値が付きます。海の中に白が見えた瞬間、「あれはカレイかヒラメだ。間違いない!」と内心ニヤリとしますが、「カレイだ。カレイがあがってくる、2,000円があがってくる。2,000円があがってきたぁ。」と手に力を込め、手繰りあげたのが白のレジ袋だと、「これはお金になりませんから〜!残念!!」という気持ちになります。
 網にはレジ袋の他にも木々やペットボトルなどのゴミがよくかかります。

 昨年、日本列島は未曾有の自然災害に見舞われた年でした。集中豪雨や新潟中越地震、そして過去最多の台風上陸。長崎県も台風の影響で多くの被害を受けました。ちょうど9月頃でした。その頃は例年ならワタリガニの水揚げが盛んになる頃です。台風で時化た日、私は天気予報を見ながら「凪げばいつもと同じように漁があるさ。早く凪にならんかなぁ。」と思っていました。ようやく台風が過ぎ、大漁の期待を胸に出漁した日のことです。巻き揚げた網には台風の影響で、いつもにはないほどの流木やプラスチック製の容器、袋など多量のゴミがかかっており、ワタリガニの姿を見ることは出来ませんでした。
 網にかかったゴミは一つ一つ手ではなすために仕事時間も長くなり、疲れを倍増させます。それ以上に困るのがゴミの処分です。以前、外したゴミは空き地などで燃やして処分していました。しかし、平成13年4月から廃棄物の処理及び清掃に関する法律が改正され、生物に有害な物質を環境中にださないようにするため、ゴミの野外焼却は禁止されました。
 特にプラスチック製品の中でも塩化ビニール製のものなどは、普通の燃やし方では発ガン性が高いと言われているダイオキシンが発生し、発生したダイオキシンは空気中や水中に拡散して海の微生物にも入り、魚が摂取していく食物連鎖の中で濃縮されていきます。また、ゴミから発生する有害物質はダイオキシンだけではありません。

 一昨年、メチル水銀の含有が高いとの理由で、妊婦が食べるのを控えた方がよい魚としてメカジキ、キンメダイなどの名前が挙がり、それらの魚が値崩れを起こしたことは記憶に新しいことだと思います。魚介類に取り込まれるメチル水銀は、川や海に存在する水銀が微生物の働きによって変化したものだと報告されています。水銀はプラスチック類などの石油製品を燃やしたときにも発生するそうです。南串にもカジキ流し網がありますが、その時には大きな影響を受け、落胆した友人の姿を見て心が痛み、また食の安全に対する消費者の関心の高さと、我々生産者の責任の重さを痛感しました。
 このように漁場に存在するゴミは、処分をきちんと行わないと、食の安全や漁業経営をも脅かすものとなります。

 しかしながら、ゴミの正しい処分を行うためには費用がかかるという現実があります。漁場で回収されたゴミは家庭ゴミと同じように分別して、町指定のゴミ袋に詰め、指定日に決まった場所へ出さなければなりません。指定ゴミ袋はさほど高額なものではありませんが個人で買わなければならず、網に大量のゴミがかかってきた日はいくつものゴミ袋が満杯になり、「人が出したゴミのために、なんでお金ば使わんばいけんとやろか?ただでさえ厳しい時代なのに。」と憤りを覚えたりします。また、回収日が決まっているため、多量のゴミを保管しておく場所も必要となります。

 私個人、このゴミ問題への対処を考えました。また、青年部としても話し合いました。結論は3つの内容に集約されました。

 1つ目は、漁場に散乱しているゴミは地道に回収し、きちんと処分していくしかないということです。私が所属する青年部では年に1、2回の海岸清掃を行っていますが、これまでの活動では拾いやすい空き缶の回収が中心でした。今後は岩の隙間などに挟まっているプラスチック製の容器や袋にも目を向け、活動を継続していきたいと考えています。当然、漁獲時に回収されるゴミもきちんと処分していこうと思っています。

 2つ目は、より多くの人に現状を知ってもらい、関心を持ってもらうことです。海の中には多くのゴミが散乱しており、そのゴミを集め処分するために私たち漁業者が様々な負担をしています。この現状を多くの人に知ってもらうことで、漁獲時に回収されたゴミの保管場所や、漁業者が経費負担せずとも正しい処分ができるシステムが整えられるのではないでしょうか。そのためには漁場や海岸での回収活動を続けていくことは当然ですが、加えて、山や川などの清掃活動と連携していくことで、より多くの人にアピールできるのではないかと思います。

 3つ目は、やはりゴミを出さないようにしなければならないということです。これまで有害ゴミの代表として取り扱ったプラスチック製品は、私たちの生活に非常に関わりが深く有益なものであることも事実です。商品のパッケージや畑のハウス、買い物袋など私たちの生活にかかすことができない品物として利用されています。実際、私も買い物をすると、その店のレジ袋を使ったりして、非常に便利な品物です。しかし、捨ててしまえばゴミとなってしまうことを忘れてはいけません。リサイクル可能なものはリサイクルに回すなど、少しでもゴミを減らすことが最も重要なことだと思います。
 マイバッグ運動という言葉を聞いたことがある方は大勢いらっしゃると思います。私も買い物などをするときには自前の袋を持ち歩き、できるだけレジ袋を貰わないように、少しでもゴミを出さないように努めていきたいと思います。一つの便利を捨て一つの不便によりゴミは減り、私たちの生活の場、海はより良い環境になり、漁業が発展していくと信じています。そして、美しさを取り戻した海で自分自身を磨き、将来の日本の食を担っていく一流の漁師となることが今の私の夢です。

 最後に、将来私の奥さんになる人には一流ブランドの小さなバッグではなく、私の大きな夢を詰め込んだマイバッグをプレゼントすることを宣言して、私の意見発表を終わります。 

「浜の声」へ戻る