チョコレートケーキの作り方


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《十三話》家族の一員


 あたしは今、圭季のおうちにお泊りに行くための荷造りをしている。
 お、お泊りだって! うひひひ。
 なんてあやしい笑いをついこぼしてしまうけど、父も一緒、なのよね。
 だけど、それでもうれしくて仕方がない。
 結局、クリスマスパーティーは嫌な感じのまま圭季と別れてしまったものの、昨日、電話があって、明日、那津が迎えに行くから泊まる準備をしておいて、と言われたのだ。電話越しだったけど久しぶりに圭季の声が聞けて、ちょっとテンションが高めなあたし。
 あらやだ、なんだか恋する乙女みたいじゃない。あは。

「チョコ……。ひとりで部屋の中で百面相してないで」

 様子を見に来た父ににやにやしているのを目撃され、恥ずかしい。準備はできたか、と様子を見に来たらしい。まだに決まってるじゃないっ!

「チョコはなに着てもかわいいから、適当に洋服を決めて早く詰めて」

 と言われてもっ!
 だけどまぁ……いまさら、なんだよねぇ。圭季にはかなりひどい恰好を見せてるし。タオル一枚事件、よりははるかにましか。
 そういえば、そんな事件もあったよなぁ、とついつい遠い目になって思い出に浸ってしまう。

「ボクはもう準備できたから、玄関のところに荷物を置いておくよ」
「はーい」

 そうして、おやすみ、と言って父は去って行った。時計を見ると、日付が変わりそうな時間だということに気がつき、あわてる。またクマができて、圭季に心配をかけるじゃないの。

『おれがいないと眠れないなんて、チョコも子どもだな』

 とか言って、頭をつん、とつつかれちゃったりして。でへへ。
 ……あたし、どこまで妄想族なんだ。
 あああ、妄想は後回しにして、服を決めなきゃ。
 クローゼットを全開にして、洋服を漁る。かわいい服……と。
 ない。
 今度、父にお小遣いをもらって、買いに行こう。朱里にまた、連れて行ってもらおう。
 とりあえず、まともそうな服を選んで、かばんに詰め込む。宿題は……いいや。帰って来てからやる!
 詰め込んだ荷物を玄関に持って行き、父のかばんの横に置いておく。
 この広い家に、父とあたしふたり。来年のお正月はどうやって過ごしているのかな。
 そんなことを考えながら、布団にもぐった。

。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+

 目の前に、大きな目をした男の子が立っている。パッと見、女の子に見えなくもないさらさらの少し長めの髪。だけど、生意気にも子ども用のスーツを着ている。小さな蝶ネクタイがかわいらしい。
 ああ……これは。たぶん、あたしが三歳の時のあのクリスマスパーティーの記憶だ。

『チョコ、けーきのこと、すきっ』

 そういって、あたしは目の前にいる八歳の圭季の頬にキスをするのだ。
 って、キスしたの、あたしっ!? どこまで大胆なの、三歳のあたしっ!
 目の前の八歳の圭季は真っ赤になっている。だけどものすごく笑顔なのは、たぶんあたしがにこにこしているから。

『おれもチョコのこと、好きだよ』

 圭季の言葉に三歳のあたし、さらににっこりと笑っている。

『あら、かわいらしいカップルですこと』
『あのね、チョコは将来、けーきのお嫁さんになるのっ!』

 をいをい、三歳のあたし。そこまで言っていたのかいっ!

『あらぁ、チョコちゃん、うちの圭季のこと、そんなに気にいってくれたのね』
『うん。けーきね、いっぱい遊んでくれたのっ』

 話をしているのは、圭季のお母さまらしい。あまり記憶にないけど、黒髪と鮮やかな着物の柄だけものすごく覚えている。

『いいわ、チョコちゃん。チョコちゃんが十八になって、高校を卒業して、その時になってもまだ圭季のことが好きなら、圭季と結婚してくれる?』
『うん、いいよ』

 三歳のあたしー! 意味が分かって返事をしているのかっ!?

『圭季は? いい?』
『おれ? おれは……チョコを一生、守るから』

 うわっ。ま、待って。八歳の圭季。なんであなたは八歳にして、そんなセリフを吐きますかっ!

『雅史さん、千佳子(ちかこ)さん、おれ、チョコのこと、一生守るからっ!』

 父と母がにこにこ笑っているのが見える。ああ、すごく幸せいっぱいだったのに。

。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+

 そこで、目覚ましが鳴り、現実に引き戻された。
 ……今のは……あたしが三歳の頃の思い出? なんで今頃、思い出したんだろう。

「チョコ、起きてるかい?」

 扉の向こうから、父の声が聞こえる。

「おはよう。起きてるよ」
「ご飯にしよう」
「はーい」

 着替えは後回しにして、顔だけ洗ってダイニングへ。父は簡単な朝食を用意してくれていた。

「ねえ、お父さん」

 パンをかじりながら、父に聞く。

「あたしが三歳のときに行ったクリスマスパーティーで、圭季、あたしのことを『一生守る』と言ってた?」

 いきなりの質問に父は少し驚いた顔をしていたけど、細い目をさらに細くして、

「うん、ボクと母さんに向かって『一生守るから』と言っていたね。実はその時、子どもの戯言だと思って聞いていたんだ。だけどまあ、和明との約束もあったし、チョコが十六になった時に一応、と思って向こうの意向を聞きに行ったんだよ」

 ああ、それで最初の頃の話につながるのか。もう、その話をしてくれていたら、いろいろ悩まないで済んだこともあったのにっ!

「チョコは覚えてる、と思っていたんだけど……。母さんのことがショックで、一緒に忘れてしまってたんだね」

 なんてしみじみ言うものだから、朝から少し、泣けてきた。
 もしかして、圭季はこのことをずっと覚えていて……?
 あたし、最低じゃん。こんな大切なこと、忘れていて。謝らないと。
 そう思うと、いてもたってもいられなくなったけど、那津が迎えにきてくれないといけないわけで。
 気持ちはそわそわしていたけど、やることなすこと上の空だったけど、とりあえずご飯を食べ、片付けて、着替えて……とやっていたら、迎えに来ると言う時間になった。

「おはようございます」

 玄関が開いて、声が聞こえてきた。那津がお迎えに来てくれたらしい。
 あたしたちが出てきたのを確認すると、玄関に置いてある父とあたしのかばんを抱え、出て行こうとする。

「那津くん、ボクの荷物は持つよ」
「いえ、大丈夫です」

 と言っているけど、なんだか父の荷物は妙に重そうだ。

「お父さん、執事モードの時はなに言っても駄目よ。させたいようにさせてあげて」

 那津は見た目が細いように見えるけど、脱ぐとすごいのを知っている。べ、別に裸を見たわけじゃないわよっ!圭季と那津がじゃれあって、どっちがいい身体をしているか、と競い合っていたのよ!

「じゃあ、お任せするよ」

 父は少し納得していないような顔をしていたけど、重くてひいひい言うのも見てみたい。
 と思っていたのに、那津は最後まで涼しい顔をして荷物を運んでいた。意外に怪力なのね。
 そういえば、あたしのことをお姫さま抱っこ、したものね。意外に力持ちさん。

 やっぱりお迎えはリムジンだった。父はリムジンの中を珍しそうに見て回っている。父よ……やはり親子、なのね。やっていることが一緒だわ。

「お父さんっ」

 小声で父を呼ぶとようやく気がついてくれたらしく、近くのシートに腰をおろしてくれた。もう、嫌だわ。

 で。
 橘家。というより、橘邸。
 一言で言えば、「大きいっ!」。
 圭季さま、うちがいくら広い、と言っても、狭かったでしょう、これに比べれば。しかも、那津とずっと同じ部屋。よくけんかにならなかったよね。
 木でできた引き戸がからからと開き、中から圭季が出てきた。なぜか着物姿。いや、ちょっと! 素敵。

「なんで着物なのっ!?」

 挨拶もそこそこに、ついついそこに突っ込みを入れてしまう。

「チョコちゃん、雅史、いらっしゃい」

 圭季の後ろから、黒髪を美しく結いあげ、さらに鮮やかな紫色の着物を着たお母さまが現れた。

「チョコちゃん、待ってたのよ」

 というなり、あたしの腕を引っ張ってぐいぐいと中へ入り込むお母さま。ちょ、ちょっと待ってっ! あたしはどこに連れ去られてしまうのぉ~?
 助けを求めて圭季を見たら、苦笑している。ちょっと、助けてよっ!
 なのに、圭季ったらいってらっしゃい、と言わんばかりに手を振っている。ひどいっ!
 せっかく、久しぶりに会ったから、少し話がしたかったのに。

「チョコちゃん、こっちよ」

 ずるずると引きずられるようにして連れてこられたのは、奥まった部屋。引き戸を開けると、そこにはずらり、と細長い箱が棚に所せまし、と置かれていた。中に入ると、少しひんやりとする。

「お正月の初もうでに着て行く着物を決めないとね」

 き、着物っ!?

「振袖がいいわよねぇ」

 となにかを探し始めたお母さま。そのあと、散々箱を開けたり閉めたりして、なにかを探していた。あたしは待っている間、暇だったので適当に箱を開けてみたりした。

「あ、これ……」

 見覚えのある着物の柄が目に飛び込んできた。

「なにか見つけた?」

 すぐ横にお母さまが立っていた。
 いつの間にっ!

「ああ、その着物」
「初めてお会いしたときにこの着物、着てましたよね?」
「そうよ。よく覚えているわね」

 覚えていた、というより昨日、夢でこの着物を着ているお母さまを見たから。特徴のある色と柄だったから、すごく印象に残っていた。

「それね、千佳子がデザインしたものだったのよ」
「……母が?」

 母はそんなお仕事、していたの?

「和明と雅史、幼なじみでしょ? わたくしと千佳子も、同じく幼なじみだったのよ」

 知らなかった、そんな話。

「あら、雅史と千佳子の出逢いの話、聞いてないの?」

 そんな話、聞いたことないわ。

「雅史、新入社員として入ってきて、最初に配属された部署の上司が千佳子だったのよ」

 ……はいっ? 母の方が年上、だったのっ!?

「雅史が一目ぼれしちゃって、千佳子に猛烈アタックよ」

 そ、そうだったんだ。

「あまりにもひどいから、調停役をお願いされて、そこで和明と出会ったのよ」

 出逢いとは不思議だ。意外な話が聞けたなぁ。

「その着物、千佳子がわたくしのために考えてくれたものらしいの。だから、その着物は宝物なの」

 そうなんだ……。

「で、チョコちゃん、ちょっとこっちにきて」

 ぐい、と腕を引っ張られて連れてこられたのは、少し奥の場所。

「この着物、似合うと思うんだけどなぁ」

 そう言って取りだしたのは、茶色というよりあたしの髪の色のような錆色の地に華やかな色とりどりの花が描かれた一枚の振袖。

「これがいいわね。後は帯」

 なんだかよくわからないけど、お母さまがいろいろ決めてくれている。

「帯はこれでいいわね」

 そうして、今度はここに滞在中のあたしの部屋に案内してくれた。

「チョコちゃんのために、わたくしが用意したのよ」

 と通された部屋を見て、驚いた。
 すべてがピンク! なのだ。壁紙もピンク、カーペットもピンク、ベッドのカバーも、机も家具も、すべてがピンク。お、落ち着かないっ! ピンク一色、は勘弁してくださいっ!

「気に入ってくれたかしら?」
「あ、あの……」

 お母さまの『反論は許さなくてよ』という視線が怖くて、うなずくしかなかった気弱なあたし。ほんの数日だしっ。

「圭季ったら、結婚したらチョコちゃんちのマンションに雅史と一緒に三人で住む、なんて言うんだから」

 はいっ? ちょっと待って。なんでそこまで具体的な話が出ているのっ!?

「ほんとあの子、冷たいわよねぇ」

 えーっと、圭季さま?

「母さん、そろそろチョコを解放してもらっていいかな?」

 部屋の入り口で固まっていたあたしの後ろから、圭季の声が聞こえた。

「あらぁ、もう少しお話させてよ」

 振り返ると、圭季はもうすでに着物ではなくなっていた。なんだ、残念。着物姿もかっこよかったのに。

「母さん、年末の準備があるんだろう?」
「あらやだ。そうだったわ。チョコちゃん、またお話しましょうねー」

 おほほほ~、と言いながら、お母さまは去って行った。

「あの……圭季」

 いろいろ話をしよう、と思ってきたのに、いざ、顔を見たらなにから話そうかと悩んで、言葉が出てこない。

「クリスマスパーティーの時、ごめんな」

 いつも思うけど、圭季って先手必勝、だよね。先に言われて、なにも言えなくなってしまう。

「気まずい別れ方したから、電話も出てもらえないと思ってドキドキしながらかけたんだよ」

 そんなこと、ないでしょう? だって、すごい余裕そうだったよ。

「電話をかけるまで、三十分くらい、悩んだんだ」

 あたしなんて、電話をもらえると思っていなかったから、驚いたというのに。

「あのね、圭季」

 圭季の服の端を握り、見上げる。

「あたし、謝らないといけないことがあるの」

 なに? と目線で先を促してきた。

「思い出したの。三歳のクリスマスパーティーのこと」
「思い出してくれた?」

 うれしそうな、それでいて安堵したような表情の圭季を見て、やっぱり悪いことしていたなと、ずきり、と心が痛む。

「チョコ、けーきのこと、すきっ」

 と夢の中で見た三歳の自分の言ったセリフをトレースしてみる。改めて口に出してみると、かなり恥ずかしい。自分の頬が真っ赤になっていくのが分かった。
 圭季はびっくりしたようにあたしを見て、あの時見た同じ笑みをしている。あたし、圭季のこの笑顔が好きだわ。

「そのあと、どうしたのか覚えてる?」

 そう言われて、さらに顔が真っ赤になった。
 覚えてるけど、三歳の無邪気なあの頃みたいに同じ行動、とれないわよっ!

「チョコがしてくれないのなら、おれから」

 そう言うなり、あたしの頬に圭季の唇が軽く触れる。ふわり、と風が起こり、圭季の優しいにおいが鼻腔をくすぐる。
 熟れたトマトのような顔色、頬は圭季が唇をふれたところからものすごい熱を持ち、さらに心臓は口から出てくるのではないか、というくらいドキドキ早鐘を打っている。
 こ、このままだと倒れてしまうっ。
 ギュッときつく、圭季の服の端を握りしめる。

「おれもチョコのこと、好きだよ」

 圭季は耳元で囁き、あたしを抱き寄せる。

「頼りないところが多いかもしれないけど、チョコのこと、一生守るから」

 圭季の腕の中、心臓の鼓動が聞こえてくる。あたしと一緒で、ものすごくドキドキしているのが分かる。

「あたし、ものすごいドジでおっちょこちょいだけど、本当にいいの?」
「チョコだから、だよ」

 最初の時にもそう言っていたような気がした。圭季はあたしの髪をなでながら、

「初めてチョコを見たとき、おれの中で世界が止まったような気がしたんだ」

 世界が止まる、だなんて大げさな。

「守らないと……と思ったよ」

 瞳をあげると、赤墨色の瞳がじっとあたしを見つめていた。視線が合うと、にっこりと微笑まれる。

「圭季のこと、好きだよ」

 もう一度、自分の気持ちを口にする。圭季の腰に腕を回し、ギュッと胸に顔をうずめる。
 暖かくて、気持ちのいい腕の中であたしはドキドキがおさまるのを待っていた。

。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+

 お昼をごちそうになり、圭季が家の中を案内してくれる、というから手を繋いでいろいろ見て回った。
 どれだけ広いの!? というほど部屋数があって、正直言って、家の中で迷子になれる。

「そんなに複雑じゃないよ。慣れたら大丈夫」

 と言われたけど、たぶん無理。怖いから、部屋からでないようにしよう。
 家の中の案内が終わった頃、またもやお母さまにつかまってしまったあたし。

「チョコちゃん、お洋服用意したの」

 と連れてこられた部屋にはずらっとブティック並みの服が置かれていた。

「この中から気に入ったのを持って行って」

 と言われたけど。高校生のあたしにはもったいないくらいの服ばかりで戸惑う。

「遠慮はいらないわよ。千佳子の子どもでわたくしの娘でもあるんですものっ」

 うへぇ、ご勘弁をっ! と思っていたら、苦笑いを浮かべた圭季が部屋にやってきた。

「母さん、いきなりそれをされるとチョコが驚くよ」
「あらぁ、驚くことなんてないじゃない!」

 いえ、驚きますって。
「おれが適当に選ぶから、母さんは続きをしてきて」
「もうっ! わたくしも娘と遊びたいのよぉ~」

 といいながら、またもや去って行った。
 お母さま? あたしのことを気にいってくださったのはいいのですけど、戸惑いますって。

「母さん、おれしか子どもがいないから。本当は女の子もほしかったらしいから、大変だろうけど付き合ってくれないか」

 圭季って。

「一人っ子なの?」
「そう。おれだけ」

 ん?
 さっき、確か父に猛烈にアタックされて困っている母を助けるためにお母さまが説得するときに圭季のお父さまと出逢った、と話を聞いたけど。

「これなんかいいんじゃないのか?」

 圭季に聞こうと思ったら、そんなことを言われたのでそちらに気がいってしまった。
 服を選ぶことに夢中になってしまい、聞きそびれてしまった。
 何着か服を選び、圭季が部屋に服を運んでくれた。

「そういえば、父の部屋ってどこ?」
「ああ。隣だよ。で、こっちがおれの部屋だから」

 そういって、少し先の扉を指さした。

「なにかあったら呼んで」

 そういって、圭季は部屋に戻って行った。
 あたしは隣の父の部屋に行き、ノックした。

「お父さん、いる?」

 中から扉が開き、少し眠そうな父が顔をのぞかせた。

「ああ、チョコか」

 入っておいで、と手招きをされたので入る。
 父の部屋は、普通だった。あたしのあのピンクの部屋と交換してほしい。

「綾子(あやこ)さんとは仲良くやってる?」
「綾子さん?」
「圭季くんのお母さんだよ」

 ああ、お母さまか。綾子、という名前なのか。

「綾子さんには頭が上がらないんだよ」

 そうだ、母との馴れ初めを聞いてなかった。

「ねえ、お父さんはお母さんとどうやって知り合ったの?」
「ん? 綾子さんに聞いたんじゃないの?」

 父は少し照れくさそうに目を細め、頭をかいている。恥ずかしいの?

「ボクが橘製菓に入社して、初めて配属された部署が商品のパッケージを考えるところだったんだ」

 へー、面白そうな部署だ。

「母さんはそこの部署の部長だったんだよ」

 ぶ、部長っ!?

「ものすごく仕事ができる人だったんだよ。それはもう、恐ろしいほど」

 あたしの記憶の中の母はそんな仕事ができる、というイメージとはかけ離れた、やさしい雰囲気しか覚えていない。

「ボクは、母さんのあのチョコレート色の髪に一目ぼれしてしまって……。毎日プロポーズしたんだけど、全然相手にされなくてね」

 父は遠い目をしていたけど、ものすごく幸せそうだった。
 当時のことを思い出しているのかな?

「綾子さんに説教をされて、助け船を出してくれた和明はそこで綾子さんと出逢い、あのふたりは気がついたら結婚していたんだよ」

 そうなんだ。

「ボクはそれから五年もかけてようやく母さんを口説き落として、結婚できたんだ」

 ご、五年っ!? 執念ですね、そこまで行くと。父もだけど、母もよくそこまで我慢したというかなんというか。

「だけど、母さんのおかげでうだつの上がらなかったボクは部長になれたし、こうしてチョコという大切な娘も得られたし、贅沢ものだよ」

 ははは、と父は笑っているけど、それは少しさみしさを伴っていた。母もここにいれば……もっと父は幸せだっただろう。

「ボクは残念ながら、部長止まりで一生を終えそうだけどね」

 そうなんですか!?

「ボクは、母さんが愛したパッケージデザインを生涯、続けたいと思っているんだ」

 なんてしみじみ言っている。本当に父は、母のことを愛しているのだな、と思うと、胸の奥がじんわりと暖かくなった。

 夕食の時、先ほどいただいた服を着て行ったら、お母さまにものすごく喜ばれた。
 それからお風呂に入って、部屋に戻っていざ寝よう、と思っても……。ピンクの世界と初めての場所で落ち着かず、眠れずにいた。
 疲れているんだけど、眠れない。自慢じゃないけどあたし、いつでもどこでも眠ることができるのよ! そんなあたしが眠れないなんて、有り得ない。
 ケータイ電話を取り出し、圭季にかける。

「あのね……」

 かけておきながらなんだけど、眠れないんだけど、なんて言えなくて口ごもってしまった。

『こっちに来る?』

 少し苦笑したような声に、言葉が詰まる。
 け、圭季の部屋にお邪魔していいのっ?

「い、行きますっ!」

 勢いよく返事をして、上を羽織って部屋の外に出る。廊下はひんやりと寒い。少し先の部屋の扉が開き、そこから圭季がおいで、と手招きをしている。小走りに近寄った。

「眠れないの?」

 図星すぎて、素直にうなずけない。

「廊下は寒いから、部屋においで」

 と言われ、部屋をのぞくと、なぜか那津がいた。
 ……なんでいるの?
 ああ、そういえば、那津はここに来るときに迎えに来てくれたんだったよな。

「チョコちゃん、いらっしゃい」

 こたつにもぐりこんで、自分の部屋のようにくつろいでいる那津。さっぱり見かけなかったから、もう家に帰ったものだと思っていた。

「オレの家、圭季の家の隣だもん」

 隣っ!? こ、ここのあたり、超高級住宅街、なんですけどっ!
 隣、と言っても家の敷地の端から端まで広いところだと五分くらいかかるほどの大きなおうちがたくさんある場所なんだけど。

「前から不思議に思ってたんだけど、ふたりの関係はなんなの?」

 圭季と那津は顔を見合わせて、

「改めて聞かれると、答えづらいな」
「那津は圭季の執事、なんじゃないの?」

 圭季と那津は再度、顔を見合わせ、

「まあ、そんな関係かもしれない」

 と曖昧に返された。
 なんだろう……?
 今までこのふたりを見て来て、そういう関係にしてはフランクなんだよねぇ。謎の関係だわ。

 こたつに入り、話をしているうちにあたしは寝てしまったらしい。
 朝、起きたら、横に圭季が寝ていて、驚いた。しかも、圭季の手をしっかり握っているしっ!
 ひいいい、ごめんなさいっ!
 握っていた手を離そうとしたら、ぐいっと引っ張られ、バランスを崩してベッドに倒れこむ。
 そしてそのままギュッと抱きしめられた。

「けっ、圭季、ちょっと!」

 あせって腕から逃れようともがくけど、まったく腕を緩めてくれない。
 圭季、起きてっ!
 腕の中でもがいてもまったく緩められることのない圭季の腕。諦め、圭季が起きるのをじっと待つことにする。
 すうすうと規則正しく息をしているのを見ていると、なんとなくほっとする。瞳を閉じていると、ますますまつげが長いことが分かる。安心して眠っているのが分かり、自然に顔がほころぶ。
 ああ、こうやって人の寝顔を見るのもいいものだわ。この間、電車の中で眠ってしまって悪かったな、と思ったけど、同じような気持ちであたしの寝顔を見ていたのかな?
 圭季の寝顔を見ていたら、あたしもいつの間にか、また夢の世界へ。

。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+


「仲良く寝ているところ、申し訳ないのですがっ! ダイブっ!」

 という声がしたと思ったら、次の瞬間、どさっ、と上になにかがのしかかってきた。
 こんなことをするやつは……。

「那津っ!」
「なんだよ、二人仲良く寝ちゃってさっ!」

 布団の上から那津の声がして、少しすねたような響きを感じてくすり、と笑う。

「梨奈と仲良く寝ればいいじゃない」

 梨奈が聞いたら喜びそうな発言をしてしまったけど、那津は困ったように眉尻を下げる。

「無理だよっ。身の危険を感じる!」

 ものすごく困っている声音に、なんとなく弱点を発見したような気になる。

「梨奈、いい子じゃない。なんで嫌がるのよ?」
「だってあいつ、オレの妹なんだぞ」
「血が繋がってないのなら」

 ますます困った表情で、

「だから困るんだよっ!」

 と珍しくあっさりと布団から降りて、部屋を出て行く。
 あれ? いつもならここで二、三ほど軽口が返ってくるはずなのに。

「んー、チョコ?」

 実家だからか、気が緩んでいるらしい圭季はようやく目を覚ましたようだ。那津があれだけ暴れていたのに、それでも起きないとは、すごすぎる。

「おはよう」

 ぽやん、とした顔でそんな挨拶をされると、とても二十歳すぎた男の人、とは思えなくてドキドキする。

「もうちょっとこのままでいて」

 そういうなり、あたしの腰のあたりに抱きつき、顔を布団に伏せる。
 圭季のかたそうな髪をそっとなでてみる。

「それ、気持ちがいい」

 下から、くぐもった声が聞こえる。リクエストに応えて、髪をなでる。
 寝癖がちょっとついた髪の毛をなでていると、不思議な気分になってくる。ずっとこうしてなでていたい気持ちになったけど、圭季は起き上がった。
 着替えて、朝食をいただく。
 ここに来て、何度か食事をしたけど、料理は専属の人がいて、その人たちがつくっているみたいなんだけど、圭季は料理なんてしなくて済むのに、なんであんなに料理が上手なんだろう?

「圭季、どうしてうちに来て、料理してくれるの? ここにいたら、料理なんてしなくて済むじゃない」

 疑問に思ったことを率直に聞いてみた。
 すると、少し照れたように、

「チョコにおれの作った料理を食べてもらいたかったから」

 え? あたしのために?

「チョコは早くにお母さんを亡くしてるだろう? おふくろの味、は無理だけど、それに近いものを食べてもらいたくて」

 え? え? そんな理由で?

「うそ……」

 信じられなくて、涙があふれてきた。

「うわっ、チョコ! 泣くなっ!」

 だって! これが泣かないでいられますかっ! なのに、なのにあたしってばっ! 忘れているし!

「ごめんね、ごめんね、圭季」

 圭季が困った顔をして、あたしを見て、抱き寄せる。胸元にしがみつき、顔をうずめる。涙が止まらない。

「泣かせるためにしてたわけじゃないから、もう泣かないで」

 それはよくわかってるんだけど、それでも涙は止まらない。
 あたし、こんなに想われていて、いいのでしょうか?

。.。:+* ゜ ゜゜ *+:。.。:+* ゜ ゜゜ *+

 年越しは家族そろって、と言われ、あたしと父も広間に呼ばれた。
 その前にお母さまにひっぱって別室に連れてこられ、そこで振袖を着せられた。髪はお母さまが結ってくれた。

「あらぁ、やっぱりよく似合うわぁ」

 全身が映る鏡の前に立つと、あら、びっくり。二割増し、よく見えるじゃない。

「圭季もこれを見たら、ますます惚れるわよぉ」

 お母さま、恥ずかしいけどうれしい、それはっ!
 橘家(と言ってもお父さまとお母さま、そして圭季)と都家(父とあたし)が広間に揃い、年越しの時を待っていた。
 圭季は羽織袴を着ている。素敵よっ!
 圭季は、振袖のあたしを見て、困ったような表情をしている。
 あれ、これは駄目だった?
 圭季は口に手を当て、大きな瞳を細め、

「……かわいい」

 ぼそり、とつぶやく。ああ、よかった。駄目なのかと思ったから、安心した。
 だけど、いつも思うけど、それはかなりフィルターがかかってる感想だよね。
 あたし、自分で言うのもなんだけど、やっぱり『馬子にも衣装』だと思うわ。

 今年も残すところあとわずかとなり、残り十秒のところでカウントダウンが始まる。

「──三、二、一……あけましておめでとうございます!」

 お父さまの音頭に、あたしたちもおめでとうございます、と唱和する。そして、乾杯をして、お父さまと父、お母さまが飲み始める。
 圭季も少し飲んでいたけど、親たちの思い出話が始まり、圭季に部屋に戻ろう、と合図されて戻ることにした。

「チョコちゃん、振袖はお部屋に置いてあるハンガーにつりさげておいてね」

 とお母さまの声。
 はーい、と答えて部屋に戻る。

「おやすみ」

 ひとりで眠れるかどうか不安だったけど、今日もまた圭季の部屋に行くのが申し訳なくて、あたしは部屋に戻り、どうにか振袖を脱いで言われたようにかけておく。
 これで……いいのかな?
 パジャマに着替えてベッドにもぐるものの、やっぱり落ち着かなくて眠れない。
 しばらく寝がえりを打っていたけど、どうにか眠れたらしい。

 朝、いつもより早い時間に目が覚めた。なんだか怖い夢を見ていたような気もする。べったりとまとわりつく嫌な残滓。首に絡みつく髪を払いのけ、ベッドから出る。
 少し朝早いけど、シャワーを浴びさせてもらおう。いつでも使っていいわよ、とお母さまに言われているので、そのお言葉に甘えさせてもらおう。
 一式持ち、シャワーを浴びて部屋に戻る。
 すっきりした。
 しばらくのんびりとしていると、派手に扉が叩かれ、

「チョコちゃん、おはよう~」

 とお母さまが入ってきた。
 今日もお母さまは美しく着物を着ていらっしゃる。どうやら、普段から着物を着ている人らしい。洋服を着ている姿が想像できないほど、着物姿が板についている。

「さあ、また振袖着てちょうだい」

 昨日、言われた通りかけておいた振袖を再度、着せられた。
 あたし、もしかして激しくお母さまの着せ替え人形状態?
 振袖って、かなり苦しいのよね。昨日はそんなに長い時間じゃなかったからよかったけど、あちこちをひもでぐいぐいしめるし、帯は胃を押さえてくれるし、苦しいです。
 髪もセットしてもらい、

「よし、これでいいわ」

 お母さまは満足そうに微笑んでいる。

「お食事にしましょ」

 と言われ、促されるままにお母さまの後ろについていく。
 連れてこられたところは、今まで入ったことのない場所で、天井にはきらびやかなシャンデリアがある部屋だった。広い部屋には大きなテーブルが置かれていて、その上にたくさんの重箱が所狭しと広げられていた。

「全員、揃ったわね」

 お母さまは部屋を眺め、満足そうにうなずいている。
 あたしとお母さま以外の人たちはすでに部屋の中にいた。
 圭季がおいで、と手招きするので横に立つ。

「改めて、あけましておめでとうございます」

 お父さまの言葉を合図に、おめでとうございます、とそれぞれが口にした。
 用意されていたおせち料理を食べたり、お父さまとお母さまとお話をしたり、とこういうお正月は初めて。
 父とふたりなので、適当にお雑煮を作っておせち料理は食べきれないから、と栗きんとんと黒豆だけ買ってきて食べたり、とそういうだらだらとした正月しか過ごしたことがないから、ものすごく新鮮。
 少しだけね、とお屠蘇を飲んで真っ赤になってみたり、と橘家の人たちがあたしたちふたりを『家族』とみなしてくれているのが分かり、すごくうれしかった。
 それから、初詣に行ったり、とお正月はのんびりと橘家で過ごさせてもらった。
 三が日が過ぎ、名残惜しく思いつつも、あたしと父はマンションへと戻った。
 お正月の何日間はなんだか夢のようだった。
 圭季はあたしが新学期が始まる前の日に戻る、と一言あり、別れた。
 しばらく逢えないことにさみしく思ったけど、おうちでやることがあるだろうし。やっぱり、実家の方が落ち着くよね。
 家に帰り、宿題を放置したままだったのを思い出し、あわててやったけど。冬休みが終わるまでに終わるわけもなく。とりあえず、授業が始まるまでに終えればいいんでしょ!?
 と、そんな感じで新学期。
 那津も圭季も戻ってきて、ようやく通常運転。
 あれ、これが通常運転、というのもおかしいな。すっかりこの状況に慣れてしまって、父とのふたりの生活だとものすごくさみしい。それは父もそう思っているみたいで、ことあるごとに「ふたり、早く戻ってこないかなぁ」と言っていた。意外にさみしがり屋さんだったんだなぁ、と思う。

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 新学期。退屈な始業式も終わり、ホームルーム。
 最近ではすっかりホームルームを放棄した菊池先生。新学期初日だからか、気のせいか、立花センセは機嫌がいい。
 ホームルームが終わり、教室を出て行こうとしていた立花センセを薫子さんが待ち伏せしていた。それを見て、あからさまにムッとした表情をしている立花センセ。嫌なら嫌って言えばいいのに。と思うけど、先生同士のいろんなしがらみがあって、そう無下にできないんだろうなぁ、と思うと気の毒になってくる。
 最近、さしいれしてあげてないけど……やっぱり、さしいれしたら迷惑かなぁ。
 はーあ、とため息をついていたら、朱里に目撃されてしまった。

「チョコがため息とは。能天気が売りのあなたにしては珍しいわね」

 うっさい。悪かったわね、能天気でっ!

「桜先生が来てから、立花センセ、元気がないなぁと思って」
「あぁ……。桜先生、噂に聞くと、立花先生にものすごい迫っているらしいわよ、結婚を」

 はいっ?

「立花先生、新卒で先生になったばかりで桜先生は三年目くらいの先生なのに」

 新卒……というと、普通に行けば二十二? 薫子さんは三年目、ということは……二十五?

「うっそ。桜先生の年齢、初めて知った」
「もっぱらの噂よ。年下の先生に結婚を迫ってる先生、って」

 圭季も二十二だから、年上女房なのかぁ。

「立花先生も優柔不断よねぇ。嫌ならきっぱり断ればいいのに」

 あたしがさっき思った感想と同じことを朱里が言っている。

「先生同士の付き合い、というのもあるんじゃないの?」
「それとこれとは違うような気がするけどねぇ」

 まあ、そう言われればそうなんだけどさ。

「でも、あたしとしては立花センセの助手をはずされたから、ほっとしてるんだけど」

 かなりこき使われてたからなぁ。嫌になるくらい。

「立花センセがチョコを見る目が、生徒を見る目じゃないのよねぇ」

 は、はいっ?

「チョコが呼ばれなくなってから、立花先生、ものすごい元気がなくなったし。あれは……明らかに恋してるわ」
「はあ?」

 なにをおっしゃってますか、朱里さま。

「だから立花先生のファンクラブの人たちが騒いでたんでしょ」

 いや、だから、意味が分からないから。だって、立花センセは先生、でしょ?

「チョコは分かってないなぁ」

 なんて言われても。あたしには圭季がいるのに。ましてやあんなだっさいセンセなんて、無理無理。有り得ない。

「もう、推薦入試もあるのにっ! あたしの心を乱すようなことを言うのではない!」

 三学期が始まってすぐに、聖マドレーヌ大学の推薦入試があるのだ。推薦入試は二学期にある場合が多いらしいんだけど、少し遅いこの時期なのは、この推薦入試を受けられる、ということは入学がほぼ決まっているような状態だから。朱里もあたしと一緒でこの推薦入試を受けることになっている。

「よほど変なことをしない限り、平気よ」

 というけど。小論文に面接、でしょう? 緊張しますって。

「大丈夫だって」

 と朱里はばしっ、と思いっきり肩を叩いてくれた。痛いって。

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 そうして、推薦入試当日。聖マドレーヌ大学はわが家から電車で少しいったところにあるので少し早めに出る。

「千代子さま、ご同行いたしましょうか?」

 と那津にいわれたけど、恥ずかしいし、ひとりで行けますっ!同行は断った。一緒に行ったのを知られたら、なんと言われることやら。
 小論文に面接、は無難に済んだはず。面接はものすごく緊張したわ。形式だけなんだろうけど、『どうしてこの学部を選択したのですか』と聞かれて率直に語ったら、面接の人たちに笑われた。
 なんで? あたし、おかしなこと、言ったのかな?

「──と言ったら笑われたんだけど」

 圭季に話すと、やっぱり笑われた。な、なにがおかしいのよっ!

「チョコらしい回答でなかなかいいんじゃないのかな?」

 むーっ。
 その推薦入試からしばらくして、合否発表。心配はしてなかったけど、合格でほっと一息。面接で笑われたから、もしかしたら駄目かも、と思っていたからほっとした。

「じゃあ、今日は合格祝いに少し豪華に行くか」

 と圭季は自分のことのように喜んでくれた。
 あとは卒業を待つのみ!

「その前に、中間と期末が一応、あるだろう」

 う……。嫌なことを思い出させてくれますわね、圭季さま。
 そうですよ、明日から中間試験ですよっ!

「気を抜かないようにな」

 とぽんぽん、と頭をなでられた。それだけで「頑張るぞ!」と思える。

【つづく】


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