夏休みの想い出
夏休み、家族旅行に来て、毎度のことながら両親はワタシたちを放置して、とっとと観光に出て行ってしまった。仕方がないので那津と二人、うだるような暑さの中、汗をぬぐいながら夏の思い出を作るためにガイドブックを片手に、歩いていた。ぎらぎらという形容詞がぴったりな太陽が降り注ぐ中、暑さをしのぐために日陰ができている人気のない壁際にワタシたちは避難していた。
「キス、してもいいよね?」
那津は日陰に入るなり、ワタシを壁に押しつけて甘い表情の中に意地悪な瞳をトッピングに加えて、そんなことを聞いてきた。
「なっ……なにを、いきなりっ」
突然の言葉に、ワタシは自分の顔が真っ赤になるのを自覚した。太陽に照らされて熱くなっている身体が、那津の言葉でさらに火照る。
「暑くて暑くて……キスでもしないと死にそうだよ」
那津はそう言って、暑いと言っているにもかかわらず、身体をぴたりと寄せてきた。暑っ苦しいんだけど、那津の体温を感じて、不快と思わなかった。むしろ、もっと感じたいとさえ思ってしまう。ワタシは瞳を閉じた。すぐに唇に那津のそれが重なり、口の中に舌が入り込んできた。那津の舌は、先ほど飲んだスポーツドリンクの味と冷たさがあり、暑さの中に不思議と涼しさを感じた。
「さて、行こうか」
那津は唇を離し、ワタシの手を握ると歩き始めた。その切り替えの速さに、少しついていけなかった。
那津は、観光地の要所要所で、こうやってワタシにキスを求めてきた。なにを見たかは思い出せないのに、那津にどこでどうやってキスをされたかは鮮明に覚えている。
「夏休みのいい思い出だろう?」
と笑う那津を見ていると、なにか仕返しをしてやりたくなるんだけど、那津にはどうあっても勝てそうになかった。
あちこち歩き回り、最終目的地であるお城を見学した後、涼しそうな風の吹く高台を見つけてそこから今日、歩き回った城下町を見下ろした。
「那津……大好きっ」
思ったことを素直に口にした。那津を横目で見ると、予想外に赤面していた。
「梨奈、反則だよ、それは」
あまりにもかわいらしい反応に、ワタシは那津に抱きついた。
「那津、大好きだよ」
もう一度、自分の気持ちを伝えると、那津の顔が近づき、唇を重ねられた。ついばむような優しい口づけに、ワタシはさらに那津に抱きついた。
【おわり】