思い立ったが吉日


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赤く染まるはだれのせい


 あまりないことだが、たまに「出張」して歌を披露することがあった。月に一度の「出張の日」だったが、今日はいつもより早く解放されたため、夜の舞台の時間まで余裕がある。

「キリエ、少し遠回りして帰ろうか」

 サンクはラクリモサを背負い直しながら、横を歩くキリエにそう声をかけた。当たり前のように手は繋がれている。

「え……うん」

 まっすぐに帰るとばかり思っていたキリエは、サンクの提案に少し戸惑いつつ、同意を伝えた。
 サンクはキリエを見つめ、キリエにだけ見せる甘い笑みを浮かべる。キリエはいつまで経ってもサンクのその笑みに慣れず、真っ赤になってうつむいた。サンクがこの笑みを浮かべる時はたいてい──その先を想像して、キリエの頬はますます熱を持つ。
 サンクは足取りも軽く『ルシス・ルナ』とは逆方向へと歩みを進める。キリエはサンクがどこに行こうとしているのかわからず、不安に思いながらも素直について行く。

 「出張」先は、インジェの街外れ。このまま行けば、街の外に出てしまうのではないかと不安に思っている頃、サンクは急に曲がった。キリエは引っ張られる形で角を曲がり、目の前に広がる風景に感嘆の声を上げた。

「うわぁ、すごい、きれい!」

 街外れの、街と外を隔てる塀の裂け目を抜けた先。荒涼とした大地は沈みゆく太陽の赤色を受け、その色に染められていた。

「いつの間に、こんな場所を見つけていたの?」
「少し前にたまたま見つけたんだ。キリエと夕日を見られたらうれしいと思っていたから、こうしてここにくることができて、よかったよ」

 サンクは繋いでいる手を自分に引き寄せ、反対の手でキリエの腰を抱き寄せた。その手でキリエの髪をなでる。

「キリエ」

 名を呼ばれ、キリエは少し顔を上へ向けた。髪をなでていたサンクの手はキリエの後頭部に固定され、顔が近づいてくる。キリエは瞳を閉じた。キリエの唇はサンクの熱を感じている。後頭部に回された手に力が入り、押しつけるようなキスは少しだけ緩められ、再度、唇が触れ、舌が唇を割り、侵入してくる。

「んっ……」

 口腔内をむさぼるようなキスに息が苦しくなり、キリエは思わずサンクにしがみつく。夕日とキリエの頬のどちらが赤いのだろうかと思われるほど赤く色づいた頃、サンクはようやく、唇を離した。

「太陽よりもキリエの方が赤く染まっているね」

 サンクはまぶしそうに目を細めて、キリエを見つめていた。

【おわり】


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