「大野一雄 ・ 宇宙の踊り」   プロフィールにつらなるわたしのほんとのかけら

あれは、土方巽の3回忌だったと思います。ヨーロッパの貴婦人風にドレスを着て(「アル
ヘンチーナ頌」という作品の衣装)黒ぶちの写真を抱いて揺れていただけの踊りをみて、
私の中で長い間とどまってい た何かがガバーとひっくり返ったようになって涙しました。
似たような体験は大野氏を知っている人にきけば本当にたくさんあります。 唐突ではあ
りますが、大野一雄は”宇宙の踊り”を踊ることが許されている 数少ないダンサーのひと
りだと私は考えています。宇宙ということばに象徴させてすませるほか、
今の私にはあま
りいい表現が浮かびません。

私は大野一雄に出会って踊りを始めたので、ことあるたびにその話をしますが、大野一雄
という人は本当に知られていません。特に日本での知名度のなさは不思議なくらいです。
しかし、実際は世界中で 実に多くの人たちに影響を与えた舞踏家のひとりだといえると思
います。『稽古のことば』という本はいろ んなジャンルのダンサーたちの影の愛読書のと
なっているし、世界のバレーダンサー100人という本の中 に分野が異なるにもかかわらず
登場し、イタリヤではミケランジェロアントニオーニ賞を受け、ボローニャには資料館があり
ます。また、特にブラジルなど南米にはたくさんの熱狂的ファンがいます。日本においては
アングラの世界に封じ込められていた大野さんも最近やっと何かあるたびに朝日新聞等に
のるようになり ました。

私は踊りに出会って、私そのものが変わった。価値観が変わってゆくプロセスの中で会社
を辞め、自主企画公演、コンテンポラリーダンサーたちとの出会い。ギャラリーやカフェを
はじめ舞台に立って人前に身をさらす。そういう日常が入りこんできました。そして私の顔
も姿もどんどん新しくなっていって、昔の写真 をみても本人がわからないくらいになってい
ることに驚きます。いつのまにか時を経て、いろいろな踊りがあることがわかってきて、「
それで、何を踊る?」と自問するとき、返ってくるのは「宇宙の踊り」。稚拙ながら今はこう
宣言して歩んでいきたいと思っています。いつか皆様のもとに宇宙の踊りが届きますよう
にと願いつつ。

伊藤 虹    2004/01/28