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番外2 スタンダード編その2 三井三池鉄道



三池鉄道路線図
(旅客列車区間のみ表示)
地図

 どこで三池鉄道のことを知ったのか今では思い出せないが、初めて訪れたのは1975年(昭和50年)の夏、同伴者はその頃まで一緒に鉄ちゃんをやっていた弟であった。
 このときもメモはほとんど残しておらず、記憶があいまいなのだが、おそらく甘木の親戚の家から西鉄甘木線、大牟田線と乗り継ぎ、大牟田から国鉄で一駅の荒尾から三池鉄道へ向かったはずである。
 以下、記憶の断片を並べていく。

 三池鉄道の駅は、直接他の鉄道とは接続していないので、国鉄荒尾駅に近い西原駅まで歩く。
 九州では、なぜか『原』を『はる』と読む(田原坂などが有名)ため、西原も『にしばる』と読む。
原万田駅名標
原万田の駅名標。『原』が
つくが、読みは『はらまんだ』
平井行と万田行の分岐駅
であった。(1978年撮影)

 その西原で列車を待つことしばし、有名な凸型電気機関車に牽かれた列車がやってきた。
 その列車で終点の平井まで行く。折り返しのため入換を終えた凸型機関車に近づき、運転手さんと話をしたが、一番印象に残っているのはこんな会話であった。
「かしこい学卒さんのおかげで、いままで600Vの直接制御だったのが100Vの間接制御になって助かった」
「えっ!?、ここ(運転手の手元にあるコントローラー)に600V流れていたんですか?」
「ああ、だからここからよく火花が散ってな」
「恐かったでしょ」
「そりゃあ、だから間接制御になって本当によかった」

 と、ここまで書いて、鉄ちゃんならこの会話は説明するまでもないだろうが、一般の人にはわかりにくい話かなとも思ったので、ちょっと説明を加えよう。
 例えば家庭の100Vの電灯スイッチで緊張する人はいないだろうが、鉄道の架線電圧は600〜1500V、新幹線に至っては2万5千ボルト。さすがに危険なので、架線電圧そのままの電気のスイッチ類は床下などに置き、運転席には床下のスイッチ類を100Vに落とした電気で動かすスイッチを二重に設けるのが一般的だ。このように直接、電気を制御するわけではないので、間接制御と呼ばれている。ちょっと例えは違うが、単3乾電池のリモコンで、100Vのテレビを操作するようなものだ。
 また、例えば同じメーカーのテレビを10台並べたら、ひとつのリモコンで一遍に操作できるように、間接制御のほうが10両編成の電車をコントロールしやすい。
 もちろん、三池鉄道のように電気機関車であれば、編成の問題はないのだが、安全性からみても今や間接制御は当たり前となっている・・・・・かな?
 いやあ、構造に弱い私が講釈垂れて、ちょっと冷や汗が出てきたのでこのへんでやめよう。
平井駅にて
運転手さんと話をする私を弟が撮ったもの。
このときのネガが行方不明で、ベタ焼きを
無理やり拡大。(平井駅にて)


 運転手さんとの会話が印象に残ったのは、直接制御だったと聞いて驚いたこともあるが、運転手さんが、かしこい学卒さんと繰り返すので、そんなにへりくだることもないのに、と感じたこともある。 今から思えば運転手さんは間接制御になったことを素直に喜んでいて、別にへりくだっていたわけではなかったのだろう。当時私は高校生で当然大学に進むと考えていたので、学卒と聞いて意識しすぎだのかもしれない。
 それにしてもこの日はカンカン照りで、じっとしていても汗が噴出すくらい蒸し暑い陽気であった。運転手さんもランニングシャツ1枚で運転していたのだが、私が運転手さんと話をしているところを弟が写真に撮ろうとカメラを構えると、慌てて制服を着てしまった。 ランニングシャツでは規定違反なのだろうが、申し訳ないことをしてしまった。
 そんな運転手さんに、「ここの事務所の係長さんはやさしい人だから寄ってみたらいいよ」と言われ、列車に乗って三池港の事務所へ向かう。

 三池港に着いてみると、むっとするほど石炭の臭いがたちこめ、たくさんの石炭車が群れをなすヤードが広がって、いかにも大企業の工場という感じで、その中をずかずか事務所へ入り込むのはちょっと逡巡された。別に中小企業を馬鹿にする訳ではないが、小さな事務所ならちょっと寄るという感じで入りやすいのだが、とてもそんな雰囲気はない。 運転手さんの「やさしい係長さん」という言葉だけを頼りに意を決して事務所へ向かう。
「やあ、よく来たね。暑かったでしょう、どうぞ」
 と、その係長さんにまず出されたのは、2杯の冷たい麦茶。暑さで2人ともバテ気味だったが、この麦茶で生き返るようだった。係長さんは運転手さんの言ったとおり、人当たりのいいやさしい雰囲気で、一気に緊張がほぐれていった。世間知らずの高校生と中学生が飛びこみで来たのにもかかわらず、凸型電気機関車や、さらに古いGE製の機関車、三池鉄道の路線図などを丁寧に説明してくれた。ただ、せっかくの説明もメモをしていなかったので、正確な数字などがほとんど思い出せないのが残念なところ。その分、冷たい麦茶の思い出が強く心に残っている。



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