福島竜胆のとっておき裏話(2)


去年の詰研の集まりで、「持駒のある風景」の北村憲一さんにこんなお願いをしました。

「北海道の阿部重治郎さんに次の全国大会で大道棋の実演をしてもらいたい。しかし予算がないので招待できない。申し訳ないが交通費、宿泊費は自腹で、なおかつ参加費の7千円をはらって参加して欲しい。この事を阿部さんに伝えて欲しい。そして北村さんには世話役として同行してもらいたい」

なんとあつかましいお願いでしょう。
しかし次にお会いした時に、こんな返事を貰いました。

「阿部さんにお話したところ、すべてOK、喜んで参加させていただく、との返事を貰った。サポートは私(北村)が私設マネージャーとして、責任をもってやらせていただく」

ありがたいお話です。

今から30年位前になるでしょうか、新宿南口の場外馬券売場の近くでタバコを頂いたのが、最後に見かけた「大道棋」でしょうか。

ちょっと怖そうなお兄さんが店を出していましたが、「これやっていい?」なんて言うと、知ってると思われて「駄目駄目」なんて言われます。
そこで「これ簡単なんじゃない?」と言うと、「やってごらん」と言って、持ち駒を渡してくれます。
急所の手を指すと、「よし、お兄さん強い」なんて言って、マブ解(正解手順)を他の客に見せないために途中でタバコをくれます。
勿論間違えるとお金を取られるのですが・・・。

しかし、阿部重治郎さんの「大道棋」は少し違うようです。

手元に北村さんから頂いた「日本将棋連盟札幌支部会報」の「棋心、H6年6月号」があります。ここに阿部さんの文章が掲載されていますので、その一部をご紹介します。


大連の大道棋  阿部 重治郎

大道棋、最近はこの言葉を聞かなくなった。 今から30年前頃までは、縁日には夜店に混じって必ず出て居たものだ。 それがなぜ姿を消したのか。良心的な将棋屋も居たが、中に悪質な類が客を脅して金を巻き上げたり、又故意に詰まない問題を出題したり、1局いくらでなく1手○○円と看板に見にくい字で書き、貴方は5手指したから、9手指したからと言って5倍、9倍と金を脅し取った。 これらは戦後になってから現われたもので、昭和の初期の頃の業者は良い人が多かった。 客に退屈させない話術が面白い。 ・・・(中略)・・・

昭和15年に徴兵で中国大陸に渡りやがて終戦を迎えた。 南下して大連に行き何か職をと思った。 その時思いついたのが大道棋。 その頃タバコ1個10円で売っていた。 仕入先は中国人ヤミ市場で1個5円で手に入る。 私の商法は1回いくらではなく詰め損じたらタバコを1個買ってもらうことに看板を出し、詰めた人にはタバコ1個進呈。 これは当たった。 どうせタバコを買うなら失敗して元々、うまく詰めればタバコは只になる、我も我もと手を出すが、簡単な香歩問題だが誰1人として正解に至らなかった。 籠いっぱいのタバコはあっと言う間に売り切れた。 同じ問題を毎日出すわけにはいかず夜には新しい問題を作った。 又雨の日も商売にならない。 雑な作り方で余詰や早詰はお構いなし、誘い手さえあれば客はついた。 そのうちだんだん強者出て来て1日に2,3個は景品に持っていかれるがかえってその方が客が集まった。 ・・・(略)・・・


当時の盤駒や道具立てがそっくり残っていて、それを今回持ち込んで実演してくださるそうです。
詰棋界の「人間国宝」の至芸を、カメラにビデオにそして肉眼に、しっかりと記録していってください。

※第二会場(2F研修室)で、14時以降に開演の予定です。


大会サブプロデューサー  福島竜胆