詰将棋おもちゃ箱記念作品再録・相馬慎一作品展

再録・相馬慎一作品展 作品5

記念作品
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相馬慎一個人作品展5 解答発表

いよいよ今日で2013年は終わりを迎える。
今年は近年稀に見る豊作で、今からでも看寿賞選考が楽しみだ。
そして、相馬慎一個人作品展も本作で、ついに最後の解説となる。

  • 角先角桂+角先角歩
  • 打診不利中合
  • 二種グループ不利合
  • 三種グループ不利合

こうして並べると、とんでもない作品群がネットで発表されたものだと、つくづく実感できるだろう。
この相馬慎一個人作品展は、最近盛んになってきたネット発表の詰将棋として最高峰のものであることは間違いない。
そしてこの企画を境に、ネット発表作のレベルは益々上がっていくであろう。
それほど、影響力のある作品群であったと私は確信する。

さあ、それでは今年の詰将棋界の主な出来事を代表する相馬慎一個人作品展、最後の作品の解説に何移ろう。
最後は果たしてが出現するのか?とくとご覧あれ。

再録・相馬慎一作品展 作品5

  32歩、21玉、33桂不成、同銀、31歩成、同玉、
  97馬、86桂合、同馬、75桂合、同馬、64桂合、
  同馬、53桂合、41香成、21玉、12銀成、同玉、
  23角、22玉、34桂、13玉、46馬、35歩、
  25桂、23玉、33桂成、同玉、24銀、34玉、
  23銀不成、33玉、34歩、同成銀、同銀成、同玉、
  43銀打、33玉、55馬、44金合、45桂、同桂、
  44馬、同玉、54金、33玉、42銀不成、34玉、
  43銀不成 迄49手詰

 75桂合は41香成、21玉、98馬、(1) 87歩合、21銀成、同玉、
  89馬、67歩合、23角、(2) 22玉、67角成、24歩合、
  同香、同銀、23馬、21玉、22歩、同金、同馬、同玉、23金以下
(1) 87香合は同馬、同桂成、21銀成、同玉、14香、13桂合、
  23角、22玉、13香成、同玉、14歩、22玉、34桂、同成銀、
  同角成以下
(2) 13玉は14歩、22玉、67角成、24歩合、13歩成、32玉、
  23馬、21玉、12と、同金、同馬以下

今回の作品展ではかなり落ち着いた初形に、25桂を消す分かりやすい導入もあり、手のつけやすさは格別だ。
問題は7手目、97馬と歩を取った時の応手である。
実は、本作はこの7手目から14手目までの、僅か8手の間の膨大な量の変化紛れ、そして作意がテーマとなっている。
この如何にも何かありそうな局面、何となくの展開は想像できるだろうが、一つ一つ慎重に検証していこう。

まずは素直に53歩合とした場合。
同馬と取っては全く以て詰まなくなるので41香成から進めていく。 41香成、21玉。ここで21銀成としてはいけない!87馬の一手を挟まなければならないのだ。
この87馬という意味があるかも分からないような何気ない一手が、この変化で断トツの最重要手だ。 この手を見つけられなければ、この作品の「鍵」以前に「扉」を見つけられないことになる。

さて、87馬とした局面、ハッキリ言って応手は関係ない。同馬として詰まない合駒なら何でもいいのである。 54歩くらいでいいだろう。
ここから21銀成、同玉と進めると、87馬とした理由が誰の目にも明らかになる。 今度は更に78馬と引ける訳だ。
ここまで来たら後の手順はマニアなら一目で分かるだろう。多くの作品に幾度となく使用されてきた、角連結手筋だ。
78馬、45歩合、23角、22玉、45角成以下、2枚の角が同一線上で連結して詰む仕組みとなっている。

以上の結果から、53歩合はダメだった。 同じ理由で53桂合なども当然詰み。
結論から言うと、12玉の局面で「馬引き、合駒」が成立してしまうと23角以下、どうやっても詰んでしまうのである。
つまり、12〜89ラインに馬が辿りつくまでに、どこかで馬を取れるように仕掛ければよい、という訳だ。

となるとマニアが真っ先に思い浮かべるのが、上田吉一氏の傑作「オーロラ」発祥のオーロラ手筋だ。
ここで、オーロラ手筋について軽く説明しようと思う。
この手筋をご存知の方々には少々退屈であろうが、暫し我慢願う。

まずは原作の塚田賞作品「オーロラ」の手順を見ていただこう。

近代将棋 1973年5月 上田吉一氏作「オーロラ」

  24銀、同角、34歩、同玉、25龍、33玉、
  34歩、同桂、24龍、同玉、25飛、13玉、
  24角、23玉、46角、33玉、22銀、同歩、
  24角、23玉、79角、33玉、88角、77香合、
  同角、66香合、同角、55香合、同角、44香合、
  24角、23玉、15角、13玉、46角、同香、
  24角、23玉、46角、33玉、23飛不成、同歩、
  25桂、22玉、13角成、11玉、12香、21玉、
  22香、31玉、41歩成、同銀、21香成、同玉、
  33桂打、32玉、31馬、同玉、41桂成、同玉、
  42銀打、32玉、33銀成、21玉、22香、12玉、
  13香 迄67手詰

最後まで緩みなくまとまっているが、その中で一際輝く瞬間があったはずだ。
この作品の23手目、88角に対する応手を見よ。

ここで素直に44香合などとすると、24角、23玉、15角、13玉、79角、46香打合、24角、23玉、46角引以下、同様に角が連結して詰んでしまう。
これを防ぐ応手が、発表から40年経った今でも名作として語り継がれる所以、まさに玉方に秘められた必殺技とも言うべき手順だ。
77香合、同角、66香合、同角、55香合、同角、44香合。

この作品を始めて目にしたとき、その誰もが突然現れる香のオーロラに魅せられたのではないだろうか。
本稿を最初からお読みの方ならこの香四連合、既に意味づけも理解されたと思う。
24角〜15角、13玉、角引きとしたとき、同香成とその場で取るようにするための香合となっているのだ。

以上がオーロラ手筋と言われる合駒の意味づけだ。
それでは相馬慎一個展5の解説に戻ろう。

7手目97馬に対する応手だが、ここで86歩合!とするとどうだろう。
以下、41香成、21玉と進めたとき、今度は87馬とすると同歩と取られてしまうようになってではないか!
ではオーロラ手筋の応用で、8手目87歩合以下の歩の連合が正解かと言うと、大不正解だ。
確かに87馬は出来なくなった。 が、代わりに98馬!が成立するのだ。
即ち、8手目86歩合は41香成、21玉、98馬!54歩合、12銀成、同玉、89馬以下、結局何も変わらずに詰んでしまうのである。

さあ、ここから本作の核心に迫る。
これまでの検証をまとめると、馬の12〜89ラインへの移動方法は97→87→78と97→98→89の2種類がある。 このことを簡潔な図面で表すとこうなる。

角の連結を防ぐには「87か78」と「98か89」の両方に玉方の利きを作らねばならない。
さっき検証した86歩合は87に玉方の利きが出現したため「87か78」の87は潰れ、確かに97→87→78の移動は消滅したが、 まだ「98か89」即ち97→98→89の移動は生き残っている、という訳だ。
つまり正解は「87か78」と「98か89」の2つの利きを持つ合駒となる。

それでは種明かしと行こう。
以下の図面を見られたし。

これが本作のマジックのタネだ。なんと明快なロジックであろうか。
なお、86桂合に86香合でも馬の移動を遮ることは可能だが、単純に同馬以下、23角、14玉の形で打歩詰にならないため詰み。

97馬、86桂合、同馬、75桂合、同馬、64桂合、同馬、53桂合。見事な桂のオーロラが出現した。

ところが本作の価値がこの四桂連合だけかというと、さにあらず。
いや、むしろ本作の価値は、メインテーマの手順と比べるとアンバランスとも言えるほどの、美しい初形と美しいまとめ手順と言えるかもしれない。
なぜなら、実はこれまでつらつらと解説してきたこの四桂連合、なんと全く同じ意味づけの前例がある。

作者「去年の解答選手権の上田若島作を見て何故打合にしなかったのかと疑問を持ち、実際作ってみた作品。 オリジナリティーは全くなしですが、発表価値はあるはず。」

2012年3月 第9回詰将棋解答選手権チャンピオン戦 第2ラウンド9番
上田吉一氏・若島正氏 合作

  47龍、同と、31角成、同玉、52歩成、86桂、
  同馬、75桂、同馬、64桂、同馬、53桂、
  23桂、同金、32金、同玉、54馬、43桂合、
  23歩成、同玉、35桂、同桂、15桂、34玉、
  44金、25玉、36馬、15玉、26馬 迄29手詰

実は私は本作を解答選手権会場で、リアルタイムで解いた。 本当に面白い仕組みだと感心したが、真っ先に思ったのが「打合にはできなかったのかな」ということだった。
それをあっさり実現させたのが、今回の作品である。
この意味づけでは一応二号局となってしまうが、どちらかというと上田・若島合作は「四桂跳ね」で相馬作は「四桂連合」という、それぞれ違った印象が強く特に気にならないと思う。

しかし殊に今回の作品が素晴らしいのは、その四桂連合を実現させてのこの形、この手順だ。
これまでのオーロラや合作を見ていただけると分かると思うが、四連合、簡単に実現できるものではない。 何しろこの作者名をして、この形にこのまとめだ。 どれほど実現が難しいかは想像に難くない。

それを、この安定した自然な初形から分かりやすい構図に、右上4×4で駒を捌きつつ最後まで綺麗にまとめている。
残念ながら収束3手に32銀成・42銀生非限定があるが、ここに文句をつける方はセンスがないとハッキリ言っておく。

先ほど本作について「美しい初形と美しいまとめ」と書いたが、恐らく多くの読者は大袈裟に感じたと思う。
しかし、よーくよく考えていただきたい。 四桂連合である。普通の詰将棋作家には創作以前に発想が不可能だろう。
その四桂連合を含んだ上での本作だ。
どうです。 成銀配置を含んだこの初形が、とんでもなく美しく思えてきたでしょう?

EOG「摩訶不思議なオーロラ原理。桂の利きに呼応する馬の動きをよく作り出したもの。」

冬眠蛙「左右両方の効きを使う桂合、という仕組み自体が素晴らしい。 きっちり4桂連合に仕立てあげる作図力にも感嘆。」

34飛までの解答。最後の金合を飛合とされた模様。 金合の方が2手長いですよ!おまけで正解。

谷口夏輝「8手目、86桂合から始まる4桂連合が圧巻のど迫力。 53歩合から始まって86桂合に到達するまでの合駒読みは難しい。 金と出し違えて馬の消えての小駒だけの収束もお見事。」

三輪勝昭「収束用の駒を置かず最後までまとまっているのが凄い。
変化がもっと簡明なら尚良いのですがそれでも素晴らしい作品です。」

奥鳥羽生「角桂型極光手筋打合版、第9回解答選手権の移動合版に対する打合版の実証局。
合駒奪取でなく開き王手角連係(オーロラ原理)により桂を持駒にできるわけ。
後始末はどうか?さすがに4銀連合作のような4桂の華麗な処理は難しかった。」

そう。そうなのだ。
驚く勿れ、相馬慎一は以前、四桂連合ではなく四銀連合の作品を発表したことがある。

本稿の読者で、今回解説したこの5だけ、他の1〜4と明らかに異質の作品と感じた方はおられないだろうか。 無論表面的にも1〜4は全て不利合駒で、5は全然違うのだが、そういうことではなく、内面的に。
今、相馬慎一と言えば「構想作家」というイメージで通っている。 私の知り合いも、完全にそう感じていたようだ。 しかし相馬慎一が「構想作家」となったのは、実は冬眠から復活した後なのである。
冬眠前の彼の作品で有名な作品といえばあの看寿賞作2作だが、特に1992年中編賞受賞の33手詰の作品は完全に構想作なので、昔から構想作も創っていたと言えなくもない。 だが、この2作も最近の発表作とは明らかに質が違うと感じられるはずだ。
そして決定的な作品が、まさに看寿賞を超える超傑作「初雪」だ。

近代将棋 1988年7月 相馬慎一氏作「初雪」

  27飛、26銀合、同飛、25銀合、同飛、24銀合、
  同飛、23銀合、14桂、13玉、23飛成、同玉、
  22飛、14玉、15銀、同玉、26角、16玉、
  27銀、同玉、48角、18玉、29銀、同と、
  27角、17玉、26飛成、28玉、19銀、同と、
  49角、18玉、27龍 迄33手詰

しんしんと降り積もった初雪はやがて融けて消えてゆく。
四銀連合からの四銀消し、もうその言葉で十分すぎるのに、その上に初形は無仕掛け、盤面駒数は僅か9枚。 それにこの持駒だ。 ちなみに私の家のパソコンと柿木Zでは、余詰検索どころか20分考えてパソコンが強制終了するまで、結局解くことが出来なかった。
もうなんというか、バカバカしくなってくる。 この形でこの手順が成立しているということが。
当時、なぜか看寿賞は詰パラの発表作のみ選考されていた。 この全く意味不明な取り決めのせいで本作は看寿賞を取り損ねたが、仮に本作を詰パラで発表していたら最早選ぶ余地もなかったのではないだろうか。

これが相馬慎一の冬眠前の作品だ。
この「初雪」は分類するなら条件作だろう。 無論、手順に重きが置かれているのはどう考えても明らかだし、そもそも私は「条件作」という響きが嫌いなので、 私は余りこの作品を「条件作」と呼びたくないが、少なくとも「構想作」ではないと思う。 論理の面白さももちろんだが、それを上回る別の凄み、言うなれば派手さや技術で魅せているのだ。
今回解説させていただいた5もその類に入ると思う。

要するに何が言いたいかというと、彼は「構想作家である」のではない。 「構想作家でもある」のである。
若島正先生も最近は構想作メインで創作されているが、一昔前までは七種合や煙詰、もちろん構想作に手筋物、様々な作品を発表されていた。

この相馬慎一も若島先生と同じ、「何をやらせてもうまい」作家なのであると私は主張したい。
今はただ、相馬氏の新構想作を見るのが楽しみで仕方ないのだが、彼の少しベクトルの変わった作品もまた、たまにでいいので見てみたい気もする。

正解者(敬称略 順不同)

  EOG、冬眠蛙、谷口夏輝、三輪勝昭、奥鳥羽生、ikz26

以上で相馬慎一作品展、全5作の解説を終了とさせていただく。
作品が出題されたのが7月と考えると、私が如何にサボっていたのかが明白で恐ろしい。 こんな機会はもう二度と訪れることはないだろうが、私の場合特に最早誰からも頼まれることはないだろう…。
ただ、最後に自分でも疑問であったのが、なぜ相馬氏が私のブログを選んで下さったか、である。
色々考えてはみたものの、見当もつかない。本当にただただ嬉しいことではあるのだが、その理由が知りたかった。
その依頼を受けた当時、恐れ多くて直接聞くことが出来なかったので、ここに書き記すことにする。

今年もあと数時間で終わる。
このブログから看寿賞は生まれるのだろうか。
来年はどんな傑作がどんな形で生まれるだろうか。
そして、来年は果たしてどんな新構想作が発表されるのだろうか。
楽しみでならない。

Fin