詰将棋おもちゃ箱記念作品再録・相馬慎一作品展

再録・相馬慎一作品展 作品3

記念作品
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相馬慎一個人作品展3 解答発表

お待たせしました。 相馬慎一個人作品展3の解説をします。

いよいよ今回の作品展の佳境に入る。
どんな詰将棋作家でも一度は「誰もやったことがないことをしたい」と思うだろう。 そう、構想作家に限らず、誰でも。 詰将棋界において、人はそれを「新構想」と呼ぶ。
例えば、打診中合。故酒井克彦氏がその一号局を創った時の反響は凄まじかったそうだ。 (最近になって二上達也氏が酒井氏作より先に打診中合の原理を思いついていたのでは、という説が出てきたが、詳しくは不明)
最近では、安江久男氏作(詰パラ2009年12月・デパート)が新構想として話題を呼んだのは記憶に新しいところだろう。 この作品はデパート出題でありながら多くの人に支持され、看寿賞の最終投票まで残った作品だ。 新構想というのは、それだけ難しく、そして素晴らしいものなのだ。
その新構想が今年、このブログで誕生した。 前回解説の「打診不利中合」だ。
まさかこんな新構想作がインターネット、それも私のブログで発表されることになろうとは。 喜ぶべきところなのだが、少なからず「本当にいいのだろうか?」と思ってしまう。 しかし、今回の作品展の一番の見所が2であるかと言われると、違う。 確かに2も新構想なのだが、それだけではない。 今から解説をする3、そして4こそ、この作品展の本当のクライマックスとも言うべき、この詰棋界を揺るがしかねない新構想なのだ。
それでは鑑賞していただくとしよう。そして味わっていただきたい。
詰将棋という素晴らしいパズルの恐るべき奥深さ、その真髄を。

再録・相馬慎一作品展 作品3

  66金、54玉、65金、同玉、69飛、68金合、
  同飛、55玉、65飛、同玉、83馬、74桂合、
  66金、54玉、72馬、63飛合、同馬、同玉、
  73桂成、54玉、65金、同玉、75飛、54玉、
  56龍、同桂、55歩、44玉、35馬、33玉、
  24馬、44玉、45歩、同玉、35馬 迄35手詰

 54玉は72馬、63桂合、64飛、同玉、66龍、65合、63馬、同玉、65龍、72玉、73桂成、81玉、85龍以下
 55玉は75龍、44玉、64飛、54合、35龍以下
 68歩合は同飛、55玉、65飛、同玉、83馬、74桂、66歩、54玉、72馬、63歩、同馬、同玉、73桂成、54玉、55歩、同玉、75龍、54玉、65龍、44玉、35馬、33玉、24馬、44玉、64龍、54香打、45歩、同玉、35馬まで同手数駒余り
 74歩合は同馬、同玉、73桂成、65玉、66金、54玉、55歩以下

広い初形だが、相馬慎一氏や若島正氏などごく一部の作者に限り、むしろ広くごちゃごちゃした方が、 どんな手順どんな構想が飛び出るのか心躍ってしまうのが私。 かなりおかしいのかも知れない。
とりあえず39飛を活用するべく、66金〜65金の邪魔駒消去が軽い序奏だ。 そしてここから本作のメインの構想が始まる。 69飛に対する、68の合駒調べだ。
とは言っても、この局面では判別のしようがない。 この作品展の性質上、単純な合駒であるはずがないことは恐らくこの解説を見ている方にもお分かりだろうが、 ここはひとまず歩合としておいて先へ進もうと思う。

同飛、55玉、65飛、同玉で先ほどの局面に1歩を手にした形。 ここで焦って66歩としてしまうと、54玉、72馬、63桂合とされ以下、同馬、同玉、73桂成、54玉、46桂、45玉と進んで打つ手無しだ。 桂合をさせないために一工夫が必要となる。 83馬で合駒請求をするのだ。

ここでも単純に74歩合などとしてしまうと、同馬、同玉、73桂成、65玉、66歩、54玉、55歩以下、少々長めの変化ではあるが詰む。 74の合は前に進む駒は打てないのだ。 即ち、74の合駒は桂と判明する。

この83馬、74桂合の2手。 一見すると桂を打たせただけの手順に見えるが、その効果は先に読んだ66歩、54玉、72馬の局面で明確に表れる。 そう、桂を1枚余計に打たせたことで、玉方の持駒の桂馬が品切れになっているのだ。 なるほど、と思わず感心してしまう。 どうやら筋に入れたようだ。

74桂合が出来ない以上、とりあえず歩合で進めるしかない。 同馬、同玉、73桂成、54玉、55歩以下、イの変化の通り詰む。
尚、イの変化の55歩で44玉と逃げると、35馬、33玉、24馬、44玉(1図)、45歩以下。

1図

さて、ここからが考えどころだ。 確かに駒は余らなかったが、これまでの作品を鑑賞された方ならお分かりのはずである。 こんな何の捻りもない手順が、作意手順の訳がないのだ。

まず確認すべきは72馬に対する63の合駒だ。 何も考えずに歩合としていたが、この作者、この形だ。 不利合駒を考えずに解けたなど、愚かしいにもほどがあるというもの。

とはいえ仮に63に何を合しようが、結局それを55に打って詰むのがすぐにわかる。 例えば63飛合としたと仮定して、1図で55歩が飛に変わったところ(2図)で45歩、55玉、75龍以下簡単。

2図

何も変わりはしない。 これはどうやら、69飛に対する68の合駒が影響してきそうだ。 ここで5手目の局面に戻る。

69飛に68歩合は作意ではなかった。 こちらで不利合駒を考えなければならないようだ。 香合は同飛以下歩合と差異がないので、68銀合を考えよう。
同飛、55玉、65飛、同玉、83馬、74桂合。 ここまでの進行に特に変更はないが、ここで同馬とする手がある。
以下、同玉、66桂、65玉、74銀!、55玉、75龍。これはすこぶる簡単だ。 銀合ではないらしい。

ここで5手目69飛に対する残る合は金のみである。 6手目68金合を読んでいこう。
同様に同飛〜83馬、74桂合。 今度はここで同馬としても、同玉、66桂、65玉、75金、55玉で手が出ない。 素直に進めるよりなさそうだ。

74桂合以下、66金、72馬、63歩合、同馬、同玉、73桂成、54玉、55歩、44玉、35馬、33玉、24馬、44玉(3図)、45歩、同玉、35馬まで。

3図

これまた変わり映えしない、どころかむしろ早く詰んでしまった。

何かがおかしい。 68に不利合駒しても63に不利合駒しても、結局は同じように詰んでしまうようだ。
一体、どこをどう間違えたのか…

ここまでの解説で、私は1,2,3図の3つの図面を掲げた。 この図面、正直なぜわざわざ図面を載せるのかわからない、どう見ても読むまでもなく簡単に詰んでいる、そう思った読者も少なくはないだろう。 実際、その通りである。 しかし、ならば私が適当に図面を載せてきたのかというと、違う。 それではここで、この3つの図面を掲げた理由を明かそう。

まずは1図を見ていただきたい。 55、66の駒は共に歩である。 つまり、45にも55にも攻方の駒は利いていない。 45歩以下詰み。

次に2図。 1図と比べると、55の駒が歩から飛に変わっている。 63の合駒を歩→飛とした結果だ。 55飛の効果で45には攻方の利きが生まれたが、55は相変わらず利き無し。 45歩、55玉以下詰み。

最後に3図を見ていただこう。 1図と比べ、今度は66の駒が歩から金に変わった。 これは68の合駒を歩→金に変更した結果。 本図では66金の効果で55に攻方の利きが生まれた。 が、2図と違い55が歩のままであるため、45の攻方の利きは消えている。 45歩、同玉以下、詰みだ。

つまり、1,2,3図についてまとめると

となる。
さあ、準備は整った。
今こそ、全てを明らかにするとき。
刮目せよ。

4図

これが、本作の構想だ。
68だけが不利合駒でも駄目、63だけが不利合駒でも駄目。 ならば68も63も不利合駒にすればよい。
無理矢理、利きを2つ増やしてしまえばいい。
こんな単純な発想が、どうしてこんなに面白く、理知的に、新鮮な驚きを与えてくれるのだろうか。

6手目68金合、16手目63飛合とした結果、4図は詰まない。
63飛合の後、単純に飛を打っては駄目ということだ。
ではどう打開するかだが、主な目的は55に歩を打つことである。
つまり、56の歩を無理矢理奪ってしまえば良い。
しかし今のままでは金が86龍の邪魔をしていて取れない。 こうもうまくシンプルに決まるものなのかと驚きながら、66金を75飛に打ち換える。
以下、収束だ。

65金、同玉、75飛、54玉、56龍、同桂、55歩、44玉、35馬、33玉、24馬、44玉、45歩、同玉、35馬まで35手詰

構想作や趣向作の収束は、予定調和的であるべきと私は思う。 収束を下手に長くしたり難しくしたりして、メインの構想を越えた後で解答者が苦労してしまっては、折角の構想も冴えなく見えてしまうだろう。
そういう意味で、本作の収束は「理想的」と言える。
構想、繋ぎ、収束、そして配置までも、全てにまるで隙がない。
これを完璧と言わずして、何を完璧と言えようか。

作者「玉の周りをn(2以上)個の不利合の効きで打歩詰に誘致する新構想。 この構想の発想元となったのは実は『無双11番』です。」

「将棋無双11番」とは以下の作品である。(出典「詰むや詰まざるや」)

初手より83歩成、71玉、72銀、62玉と進んだ局面で、83とが72、72銀が63に利かして打歩詰の形となっている。
どちらかの駒が歩ならば、63歩は打歩詰とならない。 本作では初手83歩生とすることで、71玉、72銀、62玉となったときに63歩を打てるようになるという訳だ。
なるほど、と思えるだろう。
江戸時代に創られた作品がおよそ280年の時を経て、現代に新たな風を吹かせるきっかけになったのだ。

「グループ不利合駒」
相馬氏はこの新構想をこう命名した。
不利合駒を2個以上組み合わせることによって打歩詰に誘致する。 言葉で表現するのは30字もいらぬのに、このご時世にこんなにも新鮮味があり奥が深く、そして面白い構想はそうはない。

ikz26「この構想は、個人的には平成を代表する新構想になると信じる。」

この言葉も強ち間違いとはいえなくなると思う。 それほど素晴らしく、また発展性のある構想だ。

EOG「二種ワンセットの不利合駒は新構想? 支えの駒を不利合駒でというのは見たことある気もするが。」

冬眠蛙「打歩誘致の筋は見えるのですが、桂を使わせるタイミングで悩みました。 65銀〜75飛で龍まで捌く収束はお見事。」

これは6手目68銀としてしまったかな。 変別ですがメインの構想は見抜いたようなので正解扱い。

奥鳥羽生「前半を過ぎて何か変なニオイが漂う?と思ったら、二の矢が継がれていたのだ。
二重連係不利合打歩詰誘致とでも呼ぼうか? 初出かは不知も初見。
72馬44玉の変化における単発不利合の局面が二の矢の手掛かりにはなった。」

72馬、44玉、35馬、33玉、24馬、44玉、45馬以下。 確かに作意に準ずる変化ですが、減価事項に足り得ないはず。

三輪勝昭「68金・63飛と不利合駒を重ねて66金・55飛・44玉の形で打歩に出来るのですね。 83馬と桂を売り切れにするのも芸が細かい。
この作品が何故大学に発表しないのか不思議です。 構想作品として完璧な出来と思います。」

そんなこと言わないで…(笑) 僕はこの作品を自分のブログで発表できて、自作でもないのに誇りに思います。

谷口夏輝「2度の打歩詰への誘導作戦が妙。87成桂の配置は16手目の桂合防止策かな?
これまた好作、さすが、看寿賞受賞作家ですね。」

正解者(敬称略 順不同)

  ikz26、EOG、奥鳥羽生、冬眠蛙、三輪勝昭、谷口夏輝、國吉進

Next No.4…

4の作品は近日中に行います。お楽しみに。