詰将棋おもちゃ箱記念作品再録・相馬慎一作品展

再録・相馬慎一作品展 作品1

記念作品
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相馬慎一個人作品展1 解答発表

あれは一年ほど前か。 ふと私のツイッターアカウントをフォローした「相馬慎一」と名乗るアカウント。 プロフィールには一言。 「永い冬眠から目覚めた詰将棋作家」。 ああそうか。 この人は正真正銘、あの「相馬慎一」なんだ。 塚田賞受賞、看寿賞2回受賞。 それも、昭和63年〜平成6年というわずか6年ちょっとの間で、だ。

これは偏見かもしれないが、どうも天才作家は疾風の如く瞬間を駆け抜けるイメージがある。 この人、相馬慎一氏もその例に違わなかった。 そして実に20年弱の月日を経て2012年11月、詰将棋パラダイス誌上で多種不利連合という構想作を発表、半期賞受賞で見事な復活を果たした。 この日を待ちわびた人も少なくないだろう。

かくて再び詰棋界に知れ渡った構想作家、相馬慎一の新作5題。 それを私のブログで出題させていただくこととなった。 こればっかりは予想だにしていなかった。 驚愕した。 歓喜した。 今年のビッグニュースの一つになったことは間違いない、構想作が好きな人にこそ見て欲しい作品群5作。 とくとご覧あれ。

再録・相馬慎一作品展 作品1

  62角、53角合、同角成、同歩、48角、25玉、
  85飛、75角合、同飛、同香、52角、43歩合、
  同角成、14玉、25馬、同玉、26歩、14玉、
  15歩、同玉、35龍、16玉、25龍 迄23手詰

 53桂合は同角成、同歩、38桂、25玉、85飛、75歩合、同飛、同香、26歩、14玉、15歩以下。
 37桂合は同角、25玉、85飛、75桂合、26歩、14玉、84飛、74歩合、同飛、同香、15歩以下。
 75歩合は同飛、同香、26歩以下作意に短絡。
 14玉は41角成、32歩合、15歩以下。
 59角は25玉、85飛、75桂合、同飛、同香、37桂、16玉以下逃れ。

いかにも何かありそうな初形で心躍る。 角を打つのは間違いなさそうだ。 問題はどこから打つかだが、52歩がある以上、気分的には62から打ちたいだろう。 25玉は35角成以下簡単なので、早速合駒読みとなる。

とりあえず素直に桂合で進めてみよう。 同角成、同歩、38桂(同銀は36龍以下)、25玉、85飛と自然に進み2度目の合駒読みだ。 とは言っても何を合駒したところで同飛と奪取し、それをすぐに打てば簡単に詰む。 もちろんこんな手順が作意であるはずはない。 手を2手目まで巻き戻す。

62角に対し桂合は違った。 ここでおかしなことに気づく。 この局面において、桂以上に弱い駒がないのだ。
鋭い方ならもうお分かりのはず。 62角には53角合、玉方角先角桂だ。 厳密には不利合駒ではないのだが、感覚的には不利合駒そのものだろう。 ただし、まだこの地点ではなぜ角合なのかはわからない。 この4手の効果が52の歩を一つ突かせただけであることにも謎が残る。 とにかく局面を進めよう。

44角は25玉と逃げられて、85飛としても14玉で続かない。 となると、次は下から角を打つしかなさそうだ。
今度は初手と違い、37、48、59と候補が3箇所もある。 どこに打ってもおかしくないのだが、どこに打っても意味づけが解らないからたちが悪い。 とりあえずここでは37角から進めてみよう。

37角、25玉、85飛で合駒読み。 歩合などはイ同様なので、75桂合とする。 ここで同飛、同香、26歩、14玉と進めても26歩、14玉、84飛、74桂合と進めても手がなくなる。 26歩、14玉と進めた時点で持駒が桂のみではどうしようもないのだ。
ここでイの変化を思い出そう。 イの85飛に対して75桂合は同飛、同香、37桂以下簡単だった。 それが今は37角が邪魔となり桂が打てなくなっている。 簡単なことだ。角を離して打てばいいのだ。

それでは37角のところ、今度は59角で進めてみよう。 37合の変化はあるが今は置いといて、25玉を読んでいく。
85飛、75桂合も今度は同飛、同香、37桂、14玉、15歩で簡単…待てよ、37桂に16玉と逃げるとどうする?
17歩と打つしかないが、26玉、24龍、36玉、25龍、46玉、45龍、57玉…捕まらない。 どうしても捕まらない。
おかしい、何をどう間違った。

訳もわからぬまま最後に残された選択肢、59角に代えて48角としてみる。 25玉、85飛、75桂合、同飛、同香、37桂、16玉、17歩…そうか、57に角が利いているから45龍まで追いかけて詰んでいる!
ここでようやく問題が解決した。 5手目はわざわざ銀の利きに放つ48角!限定打だ。
ちなみに37桂合の変化はロの通り、最後の84飛に対し桂合が売り切れとなる。 37で桂を使ったから、74で足りなくなるというわけだ。 巧くできすぎている。 2つの成桂にむしろ美しさを感じる私はおかしいのだろうか。

角の限定場所も判明し、一件落着…とんでもない。 52歩を突いた意味が判明していない。 本作の真髄はまさにここからだ。

48角、25玉、85飛でお馴染みの局面。 75歩合、75桂合も読み切り何を合駒しても詰んでしまいそうな局面だが、まだ一つ、残されているのだ。 そして今がまさに、すべてが明らかになる瞬間だ。 作者のマジックを堪能されたし。
75角合、同飛、同香、43角、14玉。 (右図)

……詰まない。
何が起きたのだろう。 これまでの変化では全て15歩〜35龍で簡単なはずだった。 それがどういう訳か、歩が打てなくなってしまっている。 これは一体どういうことだ?
なに、簡単なこと。 1度目の角合で攻方の利きを15まで伸ばし、2度目の角合でその角筋を遮らないようにした、それだけのことだ。 それだけのことが、これほどまでに論理的で明快で美しい。
序の4手の効果も、ここで判明した。 43角でなく、52角と打てばよいのだ。 52角に14玉は41角成以下。 この52角を打てるスペースを作るための伏線手だったというわけだ。
では52角にどうするかというと、この流れだ。 43歩合しかあるまい。

52角、43歩合、同角成、14玉、25馬、同玉、26歩、14玉、15歩、同玉、35龍、16玉、25龍迄。

52角限定打から中合絡みの角→歩持駒変換がこうもあっさり決まってしまっては言葉も出ない。 溜息しか出てこない。 大げさに見えるかもしれないが、お世辞は言っていないつもりだ。

作者 「打歩誘致の角合とその効きを遮断させない異なる意味の角合がテーマ。 変化のための8段目の角と空いた空間に打つ2段目の角がテーマを引き立てていると思う。 2段目8段目の成桂は合駒制限だがご愛嬌。」

角先角桂+角先角歩。 無論構想の組み合わせだけを見ても凄いが、驚くべきはこの完成度。
実力作家の市島啓樹氏は「本当の構想作家は片手に構想を高々と掲げつつ、もう一方の手に完成度という武器を持つものだ」と言った。 この言葉はこの作品のためにあるのでは?と疑いたくなる。

今回の作品展が余りに高水準なものであるために本作の手順が軽く見られがちかもしれないが、これだけはハッキリ言っておく。 僕が短大担当者だったとして、この5作のうち本作のみが短大に投稿されてきたとしたら、まず間違いなく半期賞に選ぶだろう。 傑作。

三輪勝昭 「とりあえず序盤4手は決め打ちし、先に変化確認しました。
その後は48角の筋だけど75桂合から37桂、26玉の変化に備えて限定打は巧い。
以下どう逃げるのかだけど48角、52角、14玉の形が打歩だな。
37桂合は…あっ、そのための成桂配置ね。
14玉に41角成〜15歩〜52馬を狙われないよう43歩中合でようやく作意が見えました。」

谷口夏輝 「難しい、攻防双方に妙手あり。
2度の限定打、応手の変化読み、ああ難しい。
6手目の変化で玉方の持駒に3桂あると75桂合、74桂合で不詰。
これが22成桂、28成桂と配置した理由かな。好作。」

鈴川優希 「なんとなく初手は62角。 読んでみると53角合しかなく、初形から歩が吊り上がった。 ははあ、これは伏線手だなと、その意味を理解する前に思う。
5手目37角を読むも詰まず、離して打てば桂を打つスペースができることに気付くのが最も時間がかかった。 さらにこれが限定打なのが素晴らしい。
これで解けたかと思いきや、8手目角合でもうひと粘り。 伏線手の意味も判明し、最後の中合も見逃せない。
詰上りはちょっと重いけれど、謎が次の謎を呼ぶ手順で、構想の妙を楽しめました。」

EOG 「3度の角打ちが印象的。 成桂の理由は6手目37桂合対応。」

奥鳥羽生 「空間空けの小伏線、角限定打3?回、角変形不利合?〜歩中合〜角歩持駒交換、 といった中編として標準的?な手(順)を配した、52がキーポイントの一局。」

ikz26 「角と歩という、打歩詰ルールがなくても優劣のつかない2枚を、玉方応用角先角歩として組み合わせ、これほど不利合『らしく』表現しているのが素晴らしい。 さらに、不利変換の仕方がまた面白く、そのための伏線的な序も理想的。
唯一惜しむらくは成桂配置ということになるのだろうが、もはや自分には歩以外の成駒はむしろ効率のいい配置くらいにしか映らない。」

冬眠蛙 「W不利合駒の仕組みに驚嘆。 48角限定打、角歩打換えの収束と言うことナシ。」

☆勝手に言葉を引用してしまい申し訳ありません。<(_ _)>

正解者(敬称略 順不同)

  三輪勝昭、谷口夏輝、鈴川優希、EOG、奥鳥羽生、ikz26、冬眠蛙、國吉進

2の解説は近日中に更新いたします。 お楽しみに。