復元型の無駄合の問題提起のために作図したものです。 おもちゃ箱掲示板に掲載しましたが、そちらを見てない方は、上の図を解いてみてください。 32歩合は無駄合なのか、回数は0回、1回、2回のいずれか、何手詰か、作品として完全か。
20行ほどあけて解説を書きます。
初手は87馬と88銀を取りに行く一手。 そこで問題の32歩合です。
これが無駄合なら、合駒せずに11玉と逃げて、88馬、21玉、32銀まで5手詰の完全作?
32歩合が有効合なら、同馬と取って馬ノコで87馬まで戻り(途中77馬に同銀は81飛成で簡単)、もう一度32歩合、同馬以下馬ノコで88銀を取って、21玉、32銀まで49手歩2枚余る不完全作?
馬ノコにおける無駄合を認めない立場なら、後者の49手駒余り(この手順には29手目32金とする余詰もあり)。
ここでは、一応馬ノコでの無駄合を認めている前提で考えてみてください。
厳密にいうと、単純馬ノコに対して合駒したとき、詰方は任意、受方は最善(最長、同手数なら駒を余らせない方)という詰将棋のルールにしたがった手順で、詰方の持駒が合駒の分増加しているだけで合駒する前と同じ局面に戻せるなら、その合駒は無駄合とみなし、しないことにする。 ということになります。
それなら前者の5手詰が正解?
いいえ、作意は5手詰ではありません!
作意を説明する準備として、32歩合を2回する49手駒余り順の2回目の32歩合は無駄合であることを確かめておきましょう。
87馬、32歩合、同馬、11玉、33馬以下馬ノコで87馬まで戻ると、持駒に歩が増えただけで同じ局面になります。
途中、77馬に同銀成の応手は、81飛成、21角合、12銀まで3手で詰み、77馬に21玉の、87馬、11玉、88馬、21玉、32銀までの5手より短いので選択できません。
したがって、2回目の32歩合は無駄合です。
さて、それなら1回目の32歩合も無駄合じゃないの? と思うのが普通ですが、これが意地悪作者の偽作意。 1回目の32歩合は前述の無駄合規定を前提にしても有効合なんです!
それでは作意を説明しましょう。
87馬、32歩合、同馬、11玉、33馬、21玉、43馬、11玉、・・・ 76馬、11玉、
77馬、22歩合、12歩、21玉、76(87)馬、31玉、32馬(金) まで27手
77馬、22歩合のところ、77同銀は、81飛成、21合、12金まで25手歩余り。
また、77馬に21玉は、87馬、11玉(ここ32歩合はさっき確かめた通り無駄合です)、88馬、21玉、32銀まで27手歩余り。
22歩合なら駒も余らず27手で詰むので、これが唯一の正解です。
一見、同じようなのに、なぜ1回目は有効合、2回目は無駄合と差がでたのでしょう。 その秘密は受方の持駒にあります。
最初は2歩持っているので、32歩合で1歩使っても22歩合をする歩を持っています。
しかし2回目の32歩合をしてしまうと歩がなくなるので、22歩合の応手ができず、87馬で元の局面に復元してしまいます。
世界初、作意手順で(一見)無駄合をする完全作でした。
この作品を作った理由は、復元型無駄合に対する問題提起です。
つまり、こんなにややこしいルールで、詰将棋を普及できるの、ということ。
例えば、この図で88銀が88香だったら・・・ 今度は1回目の32歩が無駄合になって7手詰になります。
それは、77馬に22歩合より、21玉、87馬以下の方が長くなって復元してしまうから。
でも、7手詰でそんな面倒なこと考えなくちゃいけないルールなんていやですよね。
それじゃあ、復元型の無駄合なんてやめて、すべて有効合にすればいい?
これも一つの見識です。 今回も解答欄魔さんがその考えで、添川公司さんも同様とのこと。
ただ、このルールは、受方最長の大原則をもくつがえす例外として導入されたもので、その理由は、昔からある馬ノコ作品を詰将棋として成立させるためでしょう。
したがって、これを廃止すると、過去の馬ノコ・龍ノコ作品のかなりの部分や、龍追いで同様の無駄合がある作品が不完全になる、また今後の馬ノコ・龍ノコ作品が創作しにくくなるというデメリットがあります。
もっとも、過去作品は、昔はそういうルールだったと思って鑑賞すればいいだけですし、有力作家にこの意見が多いのは、それでも作れる自信があるからでしょうね。
そこで、このあたりの事情を踏まえて、次の2案を提案したいと思います。
A案: 復元型の無駄合の例外則は廃止する(すべて有効合とする)
B案: 合駒を取ったその手で以前の局面(持駒は増加)に復元する場合のみ、復元型の無駄合を認める。
B案は、例えば32馬から始まる馬ノコであれば、32歩合、同馬で元の局面にもどるのは無駄合としようということ。
過去作品もある程度は救えて、解答者にとっては復元する手順を読む必要がないので、このぐらいならよいか、という折衷案です。
全詰連の規約委員会で検討してくれれば、うれしいですね(今度、金子委員長に話してみようかな)。
現行規約でどうなっているのか気になって、(名目上は今も生きている)1963年の詰将棋規約を見てみたら、「応手最長順に手余りの存する場合はこれを准詰とし、作意とする次位長手数順で手余りないものを本詰とする。」という変長許容になっていてびっくりしました。
この規約なら復元型の合駒は全部准詰で、合駒しない方が本詰になりますし、合駒でなくても田島さんの「古時計」なども完全になる?
川崎規約案ではどうなっているのかな?
最後に、おもちゃ箱掲示板やブログで寄せられたみなさんのコメントをリンクしておきます。 あわせてごらんください。
■おもちゃ箱掲示板
■冬眠蛙の冬眠日記
■詰将棋 駒の舞(別館)
この作品を考えていただいたみなさん、ご意見をいただいたみなさん、ありがとうございました。
また本稿についてご意見のある方は、おもちゃ箱掲示板によろしくお願いします。
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