詰将棋おもちゃ箱カピタンリバイバル

50 鑑賞詰で妄想力を鍛えよう

詰パラ2020年9月号より 加藤 徹

カピタンリバイバル
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最近ある詰将棋作品集の棋譜ファイルを作成していて、新しいフェアリー詰将棋「鑑賞詰」を思いつきました。

1.解図を拒否する作品集

その作品集は、ほとんどが不完全作で、早詰・余詰だけでなく不詰も多数ありました。

手順の入力は大変なので、いつもは柿木将棋で解かせてその解を解説手順を見て確認、修正しています。 しかし、不詰だったり簡単な早詰があると、柿木将棋では作意手順がでてきません。 結局解説手順を見ながら手作業で入力することになりました。

2.解図派と鑑賞派

詰パラの読者が詰将棋を楽しむ方法は人によりさまざまですが、多いのは

の二つではないでしょうか。

パズルとして楽しむか、アートとして楽しむかという言い方もできるかもしれません。

ちなみに私は棋力が低く、解ける詰将棋が限られていることもあって、昔から鑑賞派です。

3.変化・紛れは必要か

解図派の方にとっては、不完全だらけのこの作品集は無価値かもしれませんが、手順自体はおもしろいものが多く、手順を入力しながら、私はかなり 楽しむことができました。

詰将棋として成立させるには、変化は作意手数以内で詰み、紛れは詰まないことが求められます。 これがとても大変なのは、将棋ソフトが登場する前、一流作家の作品でも不完全作が多数あることからも明らかです。

ところが、鑑賞派の私がこの解図を拒否する作品集で楽しめたということは、そもそも変化・紛れは必要なのか、という疑問が湧いてきました。

4.「鑑賞詰」の提案

そこで、変化・紛れを排除したフェアリー詰将棋、鑑賞詰(仮)を考えてみました。

鑑賞詰は、ある条件を満たして詰めなければいけない条件詰の一種で、鑑賞詰の条件は「手順に従って詰めること」です。 手順指定詰という方がわかりやすいかもしれません。

最初から詰手順が示されているので、解く要素は全くなく、もっぱらその手順を鑑賞して楽しむものになります。 ということで、鑑賞詰には、鑑賞に堪え得る魅力的な手順が求められます。

美しさ、巧妙さ、楽しさ、おもしろさ、記録、条件など、魅力を感じるポイントは詰将棋と同様人それぞれ。 ただ解かない詰将棋なので、難解作というのは存在しません。

5.鑑賞詰の例題

作例がないとピンとこない人も多いと思うので、一つ創作してみました。

◇鑑賞詰 手順に従って詰めよ

棋譜ファイル(柿木将棋kif形式)

鑑賞詰例題 加藤徹

  99角、88合、同角、77合、同角、66合、
  同角、55合、同角、44合、同角、33合、
  同角不成、22合、12、同玉、13、同玉、
  25、同飛、24、同飛、12、同玉、
  23、同飛、11 迄27手

裸玉からの双方順列七種連打。 鑑賞詰では、全格巡りなど詰将棋では実現不可能な筋も簡単に表現できる。

6.妄想力と実現力

このコーナー(おもちゃ箱だより)の第10回(2014年7月)で創作プログラミングの話をしたとき、 創作に必要な二つの力について書きました。

「一つはどんな詰将棋にするか狙いやイメージを決める妄想力。 仕事でいえば、企画、構想といった段階です。 もう一つは、その妄想を実際に詰将棋に図化する実現力。 ここは棋力が重要なので、棋力の低い私には大変です。」

詰将棋は以前は作家一人で創作することが多く、妄想力と実現力の両方が優れてないと魅力的な作品は作れないので、 良い作品へのハードルは非常に高いものがありました。

現代では、実現力については柿木将棋や脊尾詰などの強い味方もいますし、 ツイッターなどSNSの発展でグループで協力して創作するのも一般的になっています。

7.鑑賞詰で妄想力を鍛えよう

魅力的な詰将棋を創作するためには魅力的な手順を妄想できることが必要ですが、 普通の詰将棋の創作ではどうしても実現フェーズも考えてしまい、自由に妄想しにくい面があります。

ばか詰(協力詰)が登場したとき、手順を自由に妄想できるようになってうれしかったのを覚えています。 とはいえ最短条件に制約されるので、完全に自由というわけではありません。

そこで、鑑賞詰として理想的な手順を創作してみてはいかがでしょうか。 もちろん、詰将棋には絶対できない手順も多いわけですが、いろいろな手順を妄想することで、妄想力が鍛えられるのではないかと思います。

また、自分の実力ではとても詰将棋として成立できないと思う手順でも、鑑賞詰としてSNSなどで発表していけば、 すごい実現力を持った人が詰将棋にしてくれるかもしれませんよ。