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 記録に挑戦! 第40回
ソフトは名人を超えるか
加 藤  徹 
詰将棋パラダイス2008年6月号より
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 5月5日18時半、世界コンピュータ将棋選手権の会場はしーんと静まり返っていた。選手権後の公開対局で、加藤幸男朝日アマ名人が準優勝ソフトの「棚瀬将棋」に敗れたのに続き、清水上徹アマ名人も優勝ソフト「激指」に敗れたのだ。

 急激に実力を向上させている将棋ソフト、いつかは名人を超える日がくるのか。今回は記録作をちょっと離れて選手権で見たコンピュータ将棋の現状を報告する。

1 コンピュータ将棋選手権

 世界コンピュータ将棋選手権は将棋ソフト同士が対局して最強のソフトを決める大会で、毎年5月の連休に木更津のかずさアークで行われている。

 第18回目の今年は40チームが参加、5月3日の1次予選、4日の2次予選で選出された5チームとシードの3チームの合計8チームが5日の決勝で総当りで戦った。

 参加ソフトのレベルは年々高くなっていて、コンピュータ将棋に詳しい勝又六段によると、将棋倶楽部24のレーティングで、決勝に進出するには2600程度必要で、優勝ソフトは2750ぐらいではないか、とのこと。

2 なぜこんなに強くなったのか

 将棋ソフトの構造は基本的には同じで、先読みして評価値の高い局面になる手を指す。

 そのため、ソフトの強さは
  • どれだけ短時間に読めるか
  • いかに有力な手だけを深く読めるか
  • 評価の正確さ
に依存する。

 このそれぞれに対してここ数年非常に効果的な手法が開発されてきたのだ。

3 読むスピードの向上

 これはハードの進歩が大きい。速度が毎年上がっているのに加えて、最新のCPUは1個で4つの処理を並列に動かせる。もちろん、ソフトも並列に動作できるようにプログラムする必要があるが、ソフトの並列化対応もここ1、2年で急速に進んだ。

 上位チームのパソコンはこのCPUを2個搭載しているので、8多重で読んでいるわけである。

 昨年、渡辺竜王を苦しめたボナンザも8多重のパソコンで、1秒に4百万局面読むことができる。

 更に今年は、FPGAというハードの回路を組めるボードを使った、将棋専用ハードも登場した。伊藤英紀さんの「A級リーグ指し手1号」である。

 これは1秒に8百万局面読め、まだソフトの不具合もあったにもかかわらず40チーム中18位の好成績。速度の効果は大きく、来年に期待がかかる。

4.有力な手を深く読む

 将棋の1局面で可能な手は平均80通りあるといわれており、単純にすべての手を同じように読むと浅くしか読めない。

 人間は良さそうな手だけを選んで深く読んでいるので、読む手の数は少なくても強い。

 以前のソフトは、開発者が手筋を教え込む方法で有力な手を選択させていたが、この方法では開発者の棋力にも依存し、プロを超えることは難しい。

 これに対して今回も優勝した激指が初めて実装したのが実現確率探索という手法である。

 激指チームは、プロ棋士の棋譜を大量に分析し、駒の種別やぶつかりなどいろいろな要因で分類して、どのような手が出現しやすいかを調べた。そして、プロ棋士の対局で同種の手が出現する確率の高い手を深く読むようにしたわけである。

5.正確に評価する

 ある局面が有利か不利か。この判断はプロでも容易ではない。

 これも従来は開発者のノウハウで各ソフトそれぞれ評価方法を作っていた。

 3年前に登場したボナンザは、開発した保木さんが将棋をあまり知らなかったこともあり、将棋倶楽部24の棋譜などを大量に収集し、これらの棋譜から評価項目の膨大なパラメータの値を自動学習した。

 更にボナンザができたあとはボナンザ同士の対戦を繰り返し行って調整することで評価に磨きをかけていった。

 ボナンザの特徴は、全幅探索と自動学習にあり、ボナンザがプロ棋士をも驚かせるような強さで選手権も初登場で優勝したことから注目を集め、多くの開発者がボナンザメソッドによるソフトの開発に取り組んでいる。

 昨年、今年と準優勝した棚瀬将棋もその一つで、IS将棋(東大将棋)を開発していた棚瀬さんが、全く新たに開発した新ソフトである。

6 そしてアマトップに連勝

 優勝激指、準優勝棚瀬将棋の結果は直接対決で決まったが、将棋的には棚瀬将棋優勢で、棚瀬将棋のミスで時間切れ負けになったもので、実力は僅差。

 その二つのソフトが清水上徹アマ名人、加藤幸男朝日アマ名人に挑戦した。

 持時間15分、その後1手30秒の条件は人間には厳しいが、昨年までは同じ条件でソフトの挑戦を退けていた。

 そして今年、ソフトの2連勝という結果になったが、まだソフトがアマトップを超えたとみるのは早計だろう。

 現在のレベルについては、2局の将棋の内容を見て判断されたい。

 選手権およびトップアマとのエキシビションの様子はネット中継で。棋譜は「ライブ中継」で見ることができる。

 http://computer-shogi-live.cocolog-nifty.com/


注)この2局の将棋は、こちらで並べることができます(要Java)。

 第18回世界コンピュータ将棋選手権 エキシビション 2008年5月5日開催

 上記は2008年の記事。そして現在、将棋ソフトの実力はプロ棋士レベルに。

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