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日米「合意」と沖縄 
平良 夏芽
 日米両政府が、老朽化して使いにくくなった普天間基地の完全返還を発表し、引き換えに新しい基地建設を「負担軽減のための移設」と発表してから十年目を迎えている。

 国が決めたことには逆らえない。逆らっても止めようがないとのあきらめの声が飛び交う中で、名護市民は住民投票で「否」を宣言し、さらに激しい阻止行動によって何一つ工事を許してこなかった。

 身を削るような座り込み、文字通り体を張った阻止行動。
 身も心もボロボロになりながら阻止行動を継続している中で、沿岸案が発表された。
 
 第一報が辺野古のテント村(阻止のために建てられたテント)に届いた時のことをはっきりと記憶している。
 沿岸案を聞いたテント村は静まりかえり、すすり泣きが聞こえた。止めたと思ったのに、さらに悪い案が発表された。悲しみと疲れがテント村を覆っていった。

 しかし、その静けさは三十分と続かなかった。

 誰言うと無く、「同じだよ、止めるだけだよ」との声があがりはじめた。
 マスコミが取材のために辺野古を訪れた時には、仲間たちはすでに奮起していた。

 何も変わらない。
 人殺しの基地建設に反対し、止めるだけ。
 建設計画がどのように変更されようとも、それが人殺しの基地であるかぎり止めるだけ。

 そのシンプルな決意は、揺らぐことがなかった。

 島袋市長が沿岸案の規模を拡大してV字型の滑走路案で合意したとき、「前の市長も受け入れてたよ。何も変わらない。止めるだけだよ」とテント村はうろたえなかった。

 稲嶺知事が危険の除去を理由に、キャンプ・シュワブの兵舎地区にヘリポート建設の容認を発表したが、これとてテント村を不安にさせる要素にはなりえない。

 これまでも県知事と名護市長が合意した案に反対し、止め続けてきたのだ。

 何も変わらない。
 止めるだけである。

 市長の合意した案や県知事が提示している案が本当に沖縄の負担の軽減になるならば、それは歓迎すべきことである。

 私たちは何に対しても反対しようとしているのではない。
 一日も早く、穏やかな日常生活に戻りたいと切望している。

 しかし、タッチアンドゴー(着陸時、滑走路に飛行機のタイヤをタッチさせそのまま離陸する訓練)を日常的に見ている私たちは、「着陸用」と「離陸用」という表現が絵に描いたもちであることを知っている。

 また、離着陸時に攻撃されることを回避するためにグルグルとらせん状に回りながらの離着陸訓練が行われている実態からも、地図上にまっすぐに引かれた飛行ルートが意味をなさないことも知っている。

 宜野湾市が長年にわたって、学校や病院、住宅地の上空を飛行しないように訴え続けてきたが、それらが一切無視され続けたきたことも知っている。

 民間機と異なり、あらゆるルートからでも離着陸できなければ軍用機ではない。
 基地はそのために使用されるのである。

 また、中南部の米軍基地が返還され、八千人の海兵隊がグアムに移転し、危険な普天間基地が返還されるのだから負担軽減であると発表されている。
 基地を県民や観光客の目に触れる中南部から北部に移転することのどこが負担軽減なのか。

 実戦部隊は沖縄に残すと条件付けられた上で、海兵隊の後方支援の部隊八千人がグアムに行くと発表されたが、沖縄に本当にそのような兵士が八千人もいるのか不明である。
 そもそも八千人もいない部隊の移転を恩着せがましく発表し、その移転費を税金から吸い上げ、結果、沖縄の負担が軽減されたと発表したいだけなのではないだろうか。

 そしてそれらの「負担軽減」の代償がV字型に二本の滑走路を持つことによって同時に何機もの航空機が離発着でき、弾薬庫に直結した軍港にもなる新基地の辺野古への建設であり、さらにすべての米軍基地が自衛隊と共用になるという負担増なのである。

 韓国の辺野古と呼ばれているピョンテクという村でも米軍基地の拡張が強行されようとしている。5月4日には、数百人の農民を数千人の機動隊や軍隊が襲い、百人以上の負傷者を出した。

 米軍基地拡張のために国民が負傷することもいとわない。
 これが米軍再編の実態なのである。

 私たちは、現実をしっかりと見つめるべきである。

 「返還」や「復帰」、「負担軽減」という言葉で何がなされてきたかを思い起こすべきである。

 新基地建設を完全に拒否し続けることがどんなに困難なことか分かっている。
 止め続けるという決意を「夢物語」と笑う人々がいることも知っている。

 では、合意する人たちは何を合意するのか。

 米兵の事件・事故が永久に続くことを合意するのか。
 世界の罪もない子どもたちを殺し続ける米軍基地を拡張、建設し、世界から恐れられ、憎まれることを合意するのか。

 基地を沖縄に置き続けることが前提となった計画をなぜ私たちは「合意」しなければならないのか。

 私たちは、人殺しに合意などしない。
 その準備にも合意しない。
 それが大きくても、小さくても、どんな形をしていても合意してはならないのである。
たいら・なつめ 1962年沖縄市出身。日本キリスト教団うふざと教会牧師。
平和市民連絡会共同代表。辺野古で海上基地建設の阻止行動に携わる。


2006年5月15日・沖縄タイムス文化面に載った文章を
ご本人の許可をいただいて掲載いたしました。
Web上で読みやすいように行替えをしています。

読んでいただいてありがとうございました。
基地建設を「止めるだけ」。
その言葉に、励まされ、力づけられた方たちにお願いです。
どんなことがこれから起こるのかわかりません。
常にニュースやWebをチェックしていてください。
そして、お力添えをお願いします。
お友達に辺野古の話をする、新聞に投稿する、平良夏芽さんにカンパをする、などなど、力を最大限合わせて止めましょう。

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郵便振替口座番号:01700−7−66142
加入者名:ヘリ基地反対協議会


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