「ホテルに行くまではまだ時間があるけど、行きたいところはある?」
「どこでもいいんですか?」
「このあたりなら、大抵のところは案内できる」
「じゃあ。。。先生の勤めてらした大学病院に行きたいです」
「大学病院?」
「ええ。あ。。。ただ、先生がどういうところで働いてたのかなって」
「わかった」
〜大学病院の前〜
「さすが大きいですねぇ。すごいなぁ」
「中を見てみる?」
「え? いえ。いいんです。ここからで十分です」
直江は黙って大学病院の建物を見つめていた。
。。。あまり中には入りたくなさそうに見えた。
「何年ぶりですか」
「4年ぶりかな。。。ここにいると思い出すことはあるものだな」
「何を思い出すんですか?」
「思い出すといっても、ただがむしゃらに働いてた記憶ぐらいだけど」
「患者さんも多いでしょうから忙しいでしょうねぇ」
「あまりに忙しすぎて、自分が自分でなくなるようだった」
「それで長野に?」
「そう。七瀬先生のところに逃げたんだ」
「逃げた?」
「医者として患者と接したかったから」
「そうなんですか」
「大学病院にいたころはひどい顔をしていたらしいよ。それで七瀬先生が誘ってくれたんだ」
「長野で生き返ったんですね」
「生き返った? そうだな。。。医者としては十分すぎるくらい生き返った気がしたよ」
直江が懐かしそうな顔をして微笑んだ。
『やっぱり長野にも行って、七瀬先生ともお話がしたいなぁ。連れて行ってもらえるかしら』
倫子がそう言おうとしたとき、直江が言った。
「そろそろ行こうか」
「あ。。。はい。ホテルは支笏湖でしたよね」
「そう。湖のほとりだ」
北海道に連れてきてもらってすぐに今度は長野だなんて図々しいかな。
また、今度言うことにしよう。。。
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