誉め言葉

「北海道は久しぶりに帰られるんですか?」
「はい。しばらく帰っていませんでした」
「ご家族は?」
「母と姉夫婦がいます」

直江は穏やかな顔をして答えた。
聞けば何でも答えてくれそうな気がしたが、清美はそれ以上聞くことが躊躇われた。
黙った清美を見て、直江が懐かしそうに言った。

「。。。ここで倫子さんに怒られたことがあります」
「え、倫子にですか?」
「泣きながら、僕のやり方はおかしいと言われました」
「あの子ったら」
「いえ、僕もそれで目が覚めたところがあって。。。今では彼女と会えたこと、感謝しています。
 だから、おかあさんにも感謝しないといけませんね」
「そんなこと」
「彼女を産んでくれたこと、素敵な女性に育ててくれたことを」
「ありがとうございます」
「僕は彼女に会ってよかった。心からそう思います」
「あの子のこと、よろしくお願いします」

清美の言葉に、直江は微笑んだだけだった。

「彼女には。。。」
「はい?」
「倫子さんには笑顔が一番似合います」
「そうですか」
「。。。あの笑顔があれば何でもできそうな気がします」

「それは内緒にしておきましょうね」 清美が嬉しそうに言った。
「あの子に聞かせるにはもったいないくらいの誉め言葉ですから」

直江は、胸のつかえが少しとれたような気がした。
この人がいれば大丈夫だろう。きっと彼女は大丈夫だ。
。。。そう信じようと思った。

直江先生が倫子に残す言葉は多いほうがいい。そう思う。そういう話を聞く中で、彼女は立ち直っていくんだろうから。