白衣

「僕もそっちの白衣にしようかなぁ」
医局で神崎がつぶやいた。

「なんですか?」
「小橋先生が着ている白衣のほうが落ち着きがあっていいかなと」
「僕はベン・ケーシー型は着たことがないんですよ」
「そうなんですか」
「そっちのほうが若々しい感じがしていいんじゃないかな」
「そうですかね?」
「颯爽とした感じがするし」

「直江先生はどうですか?」
「僕ですか? いや、僕は。。。」
「直江先生はこっちのほうが似合うんじゃないですか」
「どうかな、僕は体格も大きくないですし」
「そうかなぁ。直江先生なら何着ても似合うと思うけどな。
 ちょっと着てみたらどうですか」
「実は以前一度着たことがあるんですけどね」
「そうなんですか!」
「。。。ナースに大笑いされてしまって」
「どうしてですか?」
「いや。。。何か。。。その、学生にしか見えないと」
「学生?」
「まあ,なりたての頃だったことは確かなんですが」
「それはいいことじゃないですか」
「そうかな。だからそれ以来、ずっとこれなんですよ」
「直江先生がこっちのを着たら,ますます近寄りがたくなっちゃうかもしれませんね」
「え?」
「なんか凄腕の外科医って感じで」
「。。。患者さんが寄り付きませんか」

珍しく、直江が笑いながらそう言った。
神崎は。。。直江が笑ったのを初めて見たような気がした。

「いや、逆に女性が寄ってきますよ。きっと」
「そうですか? それはありがたい」
直江は微笑んで応えた。

神崎は今まで直江と仕事の話しかしたことなかった。
仕事以外の話をしても、相手にされなかった。
そういえば、このところ、直江先生の雰囲気が変わってきたように思うのは気のせいだろうか。

神崎先生。直江先生も小橋先生もいなくなった後、あなたがしっかりしてくれなくちゃ。