渡り廊下

−その日、直江は倫子とマンションを出た。いつもより早い出勤。
 ナースセンターに顔を出す時間も、いつもより早い。−

「小橋先生、2日も休んでしまって申し訳ありませんでした」
「石倉さんの容体、だいぶ落ち着いてきてますよ」
「そうですか。。。ああ、志村くん」
「あ、はい」
「石倉さんの病室に」
「はい」
倫子はたんぽぽを持って、直江についていった。

渡り廊下までくるとまわりに人はいない。
さすがにナースセンターで会話することは躊躇われたが、ここなら話を聞かれることはないだろう。
。。。誰も通らないといいな。
「先生、これ」
「植え替えたのか」
「はい。石倉さん喜んでくれるといいんですけど」

倫子はもっと直江と話がしたかった。
「先生、朝はコーヒーだけなんですか?」
「ああ。どうして?」
「あの、私ちょっとおなかすいちゃって、さっき差し入れのお菓子食べてたんです」
「。。。」
「あ、いえ、朝は緊張しててぜんぜん思わなかったんですけど、病院にきてちょっと動いたらすいてきちゃって」
「緊張してたのか」
直江が笑った

「だって。。。先生は先に起きてるし、私。。。」
「家では食事をとらない。冷蔵庫の中も酒だけだ」
「そうなんですか。。。あ、すみません。別にこんなこと聞くつもりじゃなかったんですけど」

「今度来るときは何か持ってきたほうがいい」
「え?」
直江の横を歩いていた倫子はびっくりして直江を見た。
「前を見て歩かないとあぶないぞ」
「また、行っていいんですか?」
「ん」
倫子は自然とにやけてしまった。
直江はちょっと照れたようにうつむいている。

−そして二人は病室に入っていく。医者と看護婦の顔に戻って−

実はこれを一番最初に作ったのです。