朝 続き

「コーヒー飲んだらいい」
「あ。ありがとうございます」

気持ちのいい朝だった。眩しい朝の日差しが差し込んでいる。
たんぽぽがあって、先生がいる。
ここにいるのが不思議だったが、当たり前のように思える空間があった。
時間が止まっているような気がする。
『先生とふたりきり。。。』

倫子の携帯が鳴った。
「すみません。ちょっと」
「ああ」
「もしもし?」
『倫子?』
「あ、おかあさん。どうしたの」
『どうしたのじゃないわよ。あなた帰ってこないから心配したのよ』
「あ、ごめんなさい。えっと。。。あ、そうそう。でがけに急患があってね。
 で、人手が足りなくて残っているうちに帰りそびれちゃって」
『徹夜明け? じゃあこれから帰ってくるのね?』
「え、えっと、今日は出ようと思ってるんだけど」
『寝てないんでしょ』
「ううん、仮眠もしたし、大丈夫」
『ほんと?』
「うん。大丈夫よ」
『気をつけてね。若いっていってもムリは禁物よ』
「わかった。じゃあね」

倫子はふう、とため息をついた。
『仮眠』。。。昨夜の記憶がよみがえってきた。
仮眠なんて言ってしまったが、先生はどう思うだろう。
直江がこちらを見ていた。

「あ、すいません。。。」
「いや」
「嘘、ついちゃいました」
「いや。。。引きとめた僕も悪い」
「そんなこと。。。」
「すまない」
「そんなことないです。謝るなんて、やめてください」

「一緒にいたかった」
窓の外を見ながら、直江が言った。微笑んだような気がした。

「え」
「あ、いや」
「先生」
「それだけだった」
「それだけで十分です。ほかのことなんて、私」

昨日から、先生は優しい。いつまでもこうしていたいけれど、
でも、そろそろ出かけなきゃ。。。
「あ、あのう、先生、私先に行きます」
「ん?」
「バイクをそのままにしてきました。病院に行く前に取って来ます」

倫子の持っていたカップを受け取り台所に置くと、
直江は何も言わず出かける準備を始めた。

「先生はまだゆっくりしてらしてください」

コートを着ようとする直江の背中に向かって言った。
「まだ早いですし、それにだいぶ遠いです」
直江からの返事はなかった。
「一人で大丈夫ですから」
「用意はいい?」
「あ。。。はい。すみません。。。」

手に持ったたんぽぽを見た。
たんぽぽのおかげなのかな? と、ふと思った。

あの日。あの二人はもっと会話をしたのか,それともしなかったのか,気になります。
照れて話ができなかった直江先生とうれしくて少し饒舌になっている直江先生。どっち?
いずれにしても,倫子はずーっとしゃべりどおしだったような気がしますが。