天職

「先生、野球はどこ守ってたんですか?」
「セカンドだ」
「じゃあ打順は?」
「2番」
「どうしてやめちゃったんですか?」
「ちょっと膝を壊した。生活に支障はないが、野球は膝を使うからな」
「それはショックですね」
「それもあって、医者になろうと思ったんだ」

「外科を選んだのもそのため?」
「そう。君はどうして看護婦になった?」
「私なんて単純ですよ。母が看護婦だったから私もって思っただけで」
「看護婦は大変だと思わなかったのか」
「ああ、それは思いましたけど。そりゃ夜勤とかも大変そうだったし。
 でも母は仕事にやりがい持ってたし、私はマイナスには考えませんでした」

「前向きなんだな」
「私ですか? う〜ん、そうですね。あまりくよくよしないです」
「そうか」
「まあ、あたってくだけろっていうか」

「そういえば自分はしつこいって言ってたな」
「え? ああ、すいません。あのときあんなこと言って、まずかったなぁとあとで思ったんです。
 しつこいってそれじゃストーカーですよね」

「それくらいの元気がないと看護婦はやっていけない」
「そうでしょうか?」
「きっと天職なんだろう」
「。。。石倉さんにもそう言われました」
「そうか」

思いがけなく石倉のことを思い出して、倫子はしばらく黙り込んだ。
直江も思い出したのだろうか。黙ったままだった。
『だめだめ。せっかく先生と二人でいるんだもの』
倫子は話題を変えようとした。

「先生、キャッチボールの約束、忘れないでくださいよ」
「わかってる」

倫子は明るい声で言った。
「先生も、天職ですよね!」

『天職か。。』
倫子に微笑みながら、自分はこの人にどれだけ救われているだろうと、直江は思った。

二人とも天職だったからこそ、出会うことができたんだと信じたい。