電話

「もしもし」
「あ、え、えっと、直江先生ですか? 志村です」

倫子の前で清美がいたずらっぽく笑っている。
倫子は手を振り上げて、頭をコツンとやる仕草をした。

「どうした」
「あの、さっき先生のところに行ったんですけど、お留守だったみたいで」
「そうか。。。ちょっと出ていた」
「そうですか! いえ、いらっしゃらなかったからちょっと心配になっちゃって」
「大げさだな」
「すいません。。。えっと、あの、先生、お食事されました?」
「ん? いや」
「何か作りに行きましょうか」
「今どこだ」
「家ですけど」
「出てこれるのか」
「私は大丈夫です。。。ご迷惑ですか」
「そんなことはない」
「じゃあ、行きますね」
「待ってる」

「いいって?」
「うん」
「よかったじゃない。私に感謝しなさいよ」
「はいはい、どうもありがとう」
「あんた、うれしそうね」
「そりゃ、会いたいもの。しかたないじゃない」
「母親の前でのろけるな」
「はは。じゃあ行ってきまーす!」

倫子はうれしかった。
『直江先生が待っていてくれる』
それだけで足取りが軽くなる気がした。

いきなり倫子が部屋にいてびっくりしたっけ。私は辻褄合わせがとても好きなもんで。