タクシー

直江はタクシーを止めた。
「送ろう」
「そんな、いいです」
「バイクは病院だろう」
「そうですけど」
「顔が紅い」
「え、そうですか」
「まあ、今日は僕が連れ出したんだから」
倫子は直江とともにタクシーに乗り、行き先を告げた。

「あのう、先生はいつもタクシーなんですね」
「いつも?」
「通勤にもタクシーを」
「ああ」
「お金かかりませんか」
「そんなにはかからない」
「だって毎日でしょう」
「まあ、そうだ」
「お金持ちなんだなぁ」
「無関心なだけだ」
「無関心、ですか。うちなんか私はバイクだし、母は自転車ですよ」
「おかあさんは別の病院で働いてるのか」
「あ、いえ、新潟では看護婦してたんですけど、こっちでは介護施設で働いてます」
「そうか。。。大変だな」
そこで会話はとぎれた。

「遠回りじゃありませんか」
「うちとはそんなに離れていないようだ」
「そうなんですか? じゃあ先生のお宅も川の近くなんですか?」
「そう」
「あ、ここでいいです」
倫子の家の前に着いた。

「すいません。ありがとうございました」
「いや」
「おやすみなさい」
「ゆっくり休んだほうがいい」
「え?」
「あの患者は結構大変だからな」
「え? あの」
「じゃあ」

倫子は直江の言った意味がよくわからなかった。大変って?
先生、知り合いなのかしら。だったらそういう話をしてくれたらよかったのに。。。
直江先生、難しいなぁ。結局、川の話しかしなかったような気がする。
ボートに乗せてくれるって言ってたけど、忘れずにいてくれるのかしら。

宇佐美繭子と直江先生の関係、気になる。私は面識はなかったように思うけど、関係があるのではと思っている方に。