師弟

「これからどうするつもりだ」
「当面今の状態で様子をみようと思います。
 フロノスが効かなくなるのも時間の問題でしょうが。。。」
「。。。そうだな。。。。これからはかなりつらいぞ」
「はい。覚悟しています」
「そろそろホテルに戻るかな」
「先生、明日のご予定は?」
「ん? ああ、午前中に会議があるが、帰りは夜行バスにしようと思ってる」
「じゃあ、午後は空いているんですね」
「ああ」
「東京見物でもなさいますか」
「東京もだいぶ変わっただろう」
「僕に案内させてください」
「病院のほうはいいのか?」
「はい」
「それはありがたいが、しかし、お前は体の具合が。。。」
「大丈夫です。そうさせてください」
「そうか。じゃあそうするか」
「はい」

七瀬がマンションを出るとき、直江がさりげなく言った。
「先生、あの資料は先生の研究に役立ててください」
「お前が作った資料か? ああ。立派な資料だ。。。
 これからの治療に大いに役立つ。フロノスも早く承認されるといいな」
「はい」

私のための資料か。。。

七瀬はただ直江の顔が見たかっただけだった。
がんばっていてくれれば、その姿を見るだけでよかった。
直江は想像していたよりも元気そうだった。フロノスの効果だろう。
でも。。。あの部屋で一人暮らす直江のことを思うと、胸が締め付けられた。
長野に戻ろうなんて言うつもりではなかったんだが。。。

長野に戻ろうと、つい口をついて出てしまった七瀬先生の気持ち、そこに思いを感じます。